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墓参りですわ

トーマが我が家で働き始めて2週間が経ちましたわ。


トーマは本当に動物に好かれるようで、我が家の少々気性の荒いヴィビアナ号が即日懐いたと聞いた時は驚きましたわ。


信じられずに厩舎に見に行きましたら、「ヴィー、ちょっと足元を掃除するよ。...良い子だな、ヴィー」とヴィビアナ号を愛称呼びしていて驚きのあまり開いた口が塞がらず顎が外れるかと思いましたわ。


ヴィビアナ号は愛称呼びなど決して許さない程に気高い馬で、人に甘えるなんて姿は見た事がありませんでしたのに、トーマには鼻を擦り寄せて甘える仕草までしておりましたよの!


それだけではございませんのよ!


時折我が家にやって来ては愛くるしい姿を見せてくれていた黒猫がトーマの頭に器用に乗っておりましたのよ!


野良猫なのですけれど、週に一度かそれ以下のペースで我が家にやって来てはお気に入りらしい四阿の椅子で日向ぼっこをし、近付いても決して逃げはしませんでしたけれど撫でる事を許してくれる事のない子でしたのに、「重いよ!頭に乗ってたら落ちるぞ!」なんてトーマに言われながらも頭の上から降りようとせず、「うにゃ~ん♡」などと聞いた事もない甘い鳴き声を出していて、嫉妬でトーマが少し憎らしく感じてしまう程でしたわ!


更に!!


シマエナガに似たこの世界の小鳥『雪スズメ』が餌も撒いていないのにトーマが休憩している干し草の山に沢山留まっており、干し草の上で寝転がるトーマの体の上にチョンチョンと乗ったり、気を引くように髪をツンツンと小さな嘴で引っ張ってみたり、まるで「食べて」と言わんばかりに木の実をトーマの胸元に置いてみたり。


モテモテじゃないの!!


あんなに可愛い子達にモテモテなんて、なんて羨ましい!!


真似してみたけれどヴィビアナ号はわたくしには手厳しいし、黒猫はやっぱり触らせてくれないし、雪スズメは近寄っても来ない。


泣いてもいいかしら?いいわよね?!


「どうしてそんなに動物に好かれるのかしら?何かコツでもあるの?」


「コツなんてありませんよ!俺にも良く分かんないんですけど、昔からこんな感じなんですよ」


「モテモテじゃないの?!」


「アハハ!動物にはモテるんですけどねー、肝心の人間には全くでして」


「動物にモテるだけマシよ!わたくしなんてモテない所か学園で友達すら出来ないわよ!」


「お嬢様はモテると思いますけど?」


「わたくしのモテなさ加減を甘く見ないで頂戴!誰一人として寄ってこないのよ!挨拶は交わすわよ?でもそれだけよ、それだけ!目すら合わせてくださらないのよ!この顔が悪役令嬢のように怖いからと言ってあんまりじゃない?!」


「顔が怖い?!お嬢様の?!...いや、寧ろ綺麗過ぎて近付けないんじゃないんですかね?恐れ多い感じがしますもん」


「何よそれ。あなた口が上手いのね」



トーマを我が家で雇った事を知ったルーカス様はとても驚いていらした。


けれど明るい笑顔で「そうか、良かった」と言ってくださった。


あれから何かが劇的に変わったなんて事はなかったけれど、少しだけ心の持ちようが変わったのか以前より明るい表情が増えたルーカス様。


「2人にお願いがあるんだ。もし良かったら...今度一緒に...イメルダのお墓参りに付き合ってくれないかな?」


「いいですわよ!」


「大丈夫なのか?」


「ありがとう。うん、多分大丈夫。そんな気がするんだ」


「そうか...俺で良ければ付き合おう」


「良かった...」


で、本日はそのお墓参りでございますわ。


お墓参りですので本日の装いは質素に、暗めの色に致しましたわ。


そしてお墓参りと言えばお花は欠かせませんから、庭に咲いていたカサブランカに似た『スーラン』という花で花束を作ってもらいましたわ。


スーランの花には「哀悼」の意味がございますのでピッタリでございましょ?


ルーカス様とイザベラの墓参りに行くのだとトーマに伝えたらトーマは「ルーカス様にありがとうございますと伝えてください...母もきっと喜びます」と深々と頭を下げながら震える声で言っておりましたわ。


被害者と加害者の息子という立場のこの2人。


本来であれば加害者の眠る墓を参るなど被害者はしないのでしょうけれど、する事で何かが変わる事もあると思いますの、わたくし。


少しでも前を向く一歩に繋がるのならばそれで良いと思いますのよね。


レンはとても心配しておりますけれど。



ナルーシャの丘は王都の南の方にある丘である。


特に観光になる様な物はなく、近くに町もない為に立ち寄る人も少ない。


ナルーシャの丘の頂上の小さな木の横にそれはあった。


墓と言われないと分からない小さな墓石のような石が置いてあるだけの物。


周囲の草が綺麗に刈り取られているのはきっとトーマの手によるものだろう。


少しだけ萎れた花もきっとトーマが持って来たのだろう。


「...長い事顔も見せずにごめんね...僕を恨んでいるかな?...僕は随分とあなたを恨んだよ、イメルダ...どうして僕に何も言ってくれなかったの?僕を誘拐しなければならない程あなたは追い詰められていたの?僕じゃなくても、父や母に一言相談する事すら難しい程にあなたを追い詰めたのは何だったの?...イメルダ...あなたの最後の姿が僕の目に焼き付いて離れないんだ...伸ばした手は僕を守ろうとしてくれていたの?...ねぇ、イメルダ、僕は今、あなたと話したいよ...」


その声に答えるかのように優しい風だけが吹き抜けた。

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