面接ですわ
現在わたくし、就職面接をしております。
面接を受ける側ではございませんわよ、面接官の方でございますわ。
今日、学園からの帰り道に偶然トーマを見掛けまして、馬車を止めて声を掛けましたの。
「母さんのお墓参りが出来た」とどこか清々しい顔をしていたトーマでしたがその後トーンダウンしていき、詳しく聞くと「働く場所も住処も見付からない」との事。
こんな話を聞いてしまったら何とかしてあげようと思うのが人間というものではございません?
ですからね、「ではわたくしの家で働きなさいな。勿論即採用という訳にはいかないわよ?面接をして、我が家で働くのに相応しいか、働くとしたらどんな事が出来るのかきちんと見極めさせていただくわよ?それでもいいのならば一緒にいらっしゃいな」と悪役令嬢らしく少し高圧的に申しましたら「よろしくお願いします!」と頭を下げるので、同じ馬車には載せられない(レンが嫌がる)ので馭者席に座ってもらい我が家まで来てもらって、今、使用人達の談話室(休憩室ですわね)にて面接を執り行っておりますの。
「俺も一緒にいる」
というので隣にはレンが座っておりますわ。
「では始めましょう。トーマ、あなたの得意な事は何かしら?」
「お、俺、いや、自分は長い事病気療養をしていたので力仕事は向かないと思います!でも、昔っから動物には好かれる質だったから動物の世話は得意です!学校には行ってませんが、療養所で読み書きと計算は教わっているので簡単な書類仕事なら出来ると思います。療養所でもカルテの整理や手紙の代筆なんかをやってたんで」
「まぁ!カルテの整理を?」
「へへへ、そうなんです。それで小遣いを貰ってました」
「もしかしてカルテが読めるのかしら?」
「簡単なのなら読めます」
凄いわ!カルテを読んでもらう機会なんて来ないだろうけど、簡単な物だとしてもカルテは前世のドイツ語的な他国(カルデア国)の文字で書かれている物なのでそれが読めるという事は学べばその国の言葉を習得可能だと言える。
「ねえ?ではカルデア語を習得する気はない?」
「カルデア語...カルテの文字ですか?」
「ええ、そうよ。我が国とはあまり親交のない国だけれど、覚えていて損はないと思うのよ。カルテが読めるのであれば、きちんと学べば習得する事も可能でしょう?どうかしら?」
「学ぶ機会があるんなら喜んで!学ぶのは好きなんです、俺!」
「では当面は厩舎で馬の世話をお願いしながらカルデア語を学んでもらう事にするわ!部屋は使用人棟の空き部屋を使うといいわ。その辺の所は執事のランブルグに聞いてちょうだい」
「は、はい!よろしくお願いします!」
ランブルグと一緒にトーマは部屋を出て行った。
隣にいたレンは終始無言だったけれど、トーマがいなくなると「そんなに簡単に採用して良かったのか?」と聞いてきた。
「最初から採用するつもりで連れて来ましたもの。為人はまだよく分かりませんけど、ルーカス様とお話ししていらした様子を見た限りでは悪い人ではないと思いますし、少しでも関わりのある者が職も家もないなんて聞いたら、手を差し伸べるのもまた貴族というものではございません?」
「ベルは優し過ぎる」
「あら、わたくし、優しくなんかありませんわよ。何もボランティアをしようという訳ではございませんもの。暫く様子を見て使いものにならないと判断したら容赦なく切り捨てますわ」
「ベルは絶対に中途半端に放り出したりしないのだろう?」
「働き口の斡旋くらいは致しますわ。放り出した後に死なれても困りますもの。でもその後は本人次第。そこまでの面倒は見切れませんわ」
「そういうのを優しいと言うんだが...またベルに悪い虫が付きそうな予感がする」
「何を仰っていますの?」
わたくしに悪い虫?悪い虫所か友達すら出来ないわたくしですのよ?!
男性のみならず女性にもモテない悲しい人生を送っておりますのにそれを飛び越えて悪い虫だけ寄ってくるって有り得ます?!
...所で悪い虫とは...まさかGではございませんわよね?!あれは無理ですわ!あれだけは勘弁して欲しいです!前世からあれだけは無理でしたの!何故ゲームの世界に転生しましたのに、その世界にまで存在しているのです?!普通そんなの存在させませんわよね?!ゲームに登場しましたっけ、G?!乙女ゲームに普通にGが登場するってそんなの嫌すぎません?!
「Gは嫌ですわ」
「G?...ああ、ゴキ」
「それ以上仰らないで!」
「ベルはGが苦手なのか?」
「苦手と言うより無理ですわ!全面的に無理ですわ!生きていてもいいですけれども、わたくしの目の届く範囲には現れてくれるな!と心から思いますわ!」
「ベルの前にやつが現れないように善処しよう」
「万が一の際には守ってくださいますか?」
「全力で守るから安心して欲しい」
「ありがとうございます」
こうしてトーマの面接は無事終了した。