遠足ですわ
入学して3ヶ月が経ちましたわ。
第1、第2イベントは入学してすぐに起きるものだったけれど、第3イベントは暫くの間起きる事はなく、本日は校外授業でございますの。
要は遠足ですわね。
『ラフィ』という花がこの時期満開でして、その花を見に行くという行事(花見)でございますわ。
ラフィは菜の花に似た黄色くて小ぶりの花を咲かせる植物で、菜の花と違ってネモフィラのように背丈の低い植物ですわ。
ラフィは『幸福の花』として大変人気がありますのよ。
そして本日は第3イベントが起きますわ、学校行事と言えば当然ですわよね。
本日起きる予定のイベントは共通イベントというものですわね。
この時点で一番好感度の高い攻略対象者とイベントが起きるのだけれど、どう考えても1人足りないし、誰の好感度も上がっていないはず。
レンに関してはマイナスを更新中。
あの子は誰とイベントを起こす気かしら?
共通イベントである本日のイベントはヒロインがラフィの花畑で大切なリボンをなくしてしまい、それを攻略対象者の誰かが一緒に探すというもの。
なくしたリボンというのがヒロインが今は亡き祖母からもらった思い出のリボンで、そのリボンは攻略対象者が見つけるのだが、見つかったと分かり駆け寄って来たヒロインが喜びのあまり攻略対象者に抱きついてしまうというものだ。
「ご、ごめんなさい、嬉しくてつい」
「い、いや...」
ヒロインに抱きつかれて頬を染める攻略対象者。
ヒロインの頬も赤く染っている。
ご褒美スチルは当然ヒロインに抱きつかれている攻略対象者のスチルである。
これを思い出してレンに伝えると無言で腕を摩っていた。
どうやら「抱きつかれる」というのを想像して鳥肌が立ってしまったらしい。
想像するだけで鳥肌を立てられるヒロインというのは如何なものだろうか?
*
学園からラフィの花畑までは馬車で1時間程の道のりである。
前世のように大型バスがある訳ではないので当然馬車移動となるのだけれど、せいぜい6人も乗れば満員になる馬車。
学園が送迎の為に使っている辻馬車タイプの馬車は10人以上乗れる大きな物だけれど、台数が限られている為に全校生徒が乗る事は難しい為、今回は学園側から「馬車を出して欲しい」と頼まれた生徒の家の馬車が相当数やって来ている。
全校生徒数が200人を超えるイシュタリカ学園。
それが全員乗れるだけの馬車が集まる光景は圧巻である。
本日わたくし達が乗る馬車は王宮から出された馬車で、王家の紋章などが施されていない仕様の馬車だけれど大きく頑丈で中はゆったりとした作りになっている為8人は乗れる物となっている。
この馬車に乗るのはルーカス様を除いた攻略対象者達とその婚約者達。
馭者に背を向ける方向のシートには右からガルゴリー様、ポラリティ様、マリアリリィ様が座っており、その向かいの席にはガルゴリー様の前からイリーナ様、わたくし、レンの順で座っている。
「楽しみねぇ」
「楽しみですわね」
ポラリティ様とマリアリリィ様は少々テンションが高いようで、互いの手を握り合いながらニコニコと楽しそうになさっている。
「花を見て何が楽しいんだ?」
「たまには良いではございませんか。心の洗濯ですわ」
ガルゴリー様は器用に窓枠の小さな凸凹に肩肘を突いてつまらなそうになさっており、イリーナ様はほんわかした表情でガルゴリー様を見ている。
わたくしはレンに腰を抱かれ、イリーナ様との間に人一人分以上はあるのではと思う程に距離が空いた状態でレンに密着させられて座っている。
「レン...少し近過ぎではないかしら?」
「膝の上に乗せたいくらいだが?」
「もしかして、緊張してる?」
「...少し」
コミュ障のレンはわたくしと2人で馬車に乗る事は多くても家族以外で誰かと共に馬車に乗るという経験がほとんどない。
ポラリティ様とガルゴリー様が側近候補とはいえ、その婚約者様達までいるこの状況に緊張しているようだ。
レンは緊張するとわたくしと離れたがらなくなり、密着度が上がってしまう傾向にある。
パーティーの時は手を繋ぐ事から始まり、最終的には腰を抱かれてベッタリと隙間ない程に張り付かれる。
今回も腰を抱いているので相当緊張しているのだろう。
───可愛い人。
「殿下とイザヴェル様はいつ見ても仲良しよねぇ」
「そうですわね。本当にお似合いで」
そんなわたくし達を見てポラリティ様とマリアリリィ様が微笑ましげな笑みを浮かべている。
「ポラリティ様とマリアリリィ様も仲がよろしいですわよね」
「そうねぇ、仲良しよね!」
「えぇ、仲良しですわ!」
マリアリリィ様はわたくし同様少々キツく感じる大きくて吊り上がった瞳の美人である。
芥子色の髪に琥珀のような瞳をされていて、身長が小さい。
ポラリティ様と並ぶと大人と子供位に身長差がある。
だけど出る所はきちんと出て引っ込む所は引っ込んでいる魅惑ボディの持ち主でもある為男性の間で人気のある女性でもある。
前世でも子供身長なのにナイスバディな女性はいたし、そういう人達は大概がモテていた。
時代や世界が変わってもそういう点は共通のようだ。
一方イリーナ様というと、こちらは平均的な身長で垂れ目の美人である。
髪色は薄茶色で瞳も同じく薄茶色というゲーム内では周囲に埋没してしまいそうな色をなさっておられる。けれども美人である。
内面はかなりしっかりとなさっていらっしゃる世話焼き委員長といった性格の方だけれど、見た目はおっとり系垂れ目美人。
イリーナ様も男性に人気の高いご令嬢だ。
モテモテのお2人に対して友達すら出来ない非モテなわたくし...人生とは無情ですわね。
「俺達の方が仲良しだ!な、イリーナ!」
「もう!空気を読みなさいよ!」
わたくし達の会話に乱入してきたガルゴリー様。
イリーナ様の言葉はわたくしには聞こえましたけれど、肝心のガルゴリー様には届いていなかったようですわ。
「仲良しだよな!な!な!」
聞こえていなかった証拠に「仲良し」だという事をどうしてもイリーナ様にも同意して欲しいらしくグイグイと押している。
「皆様同様に、仲良しですわね」
妥協点としてそう発言されたイリーナ様だったのだが、それに納得出来ないガルゴリー様が「俺達の方が仲がいいじゃないか」と不満を零していた。