第2イベントですわPart2
昼休みも終わり3時限目の授業を受けている時にルーカス様の第2イベントを思い出した。
少々説明致しましょうね。
この世界の学校は午前に2時限、午後に2時限の授業が行われる。
前世の時間割とは異なるのだ。
授業の時間は1時限につき1時間半と長い。
授業の合間には休み時間はきちんと取られるが、部活動はない。生徒会は存在するが。
朝は9時から授業が始まり、最後の授業が終わるのは4時が過ぎた頃となる。
前世の学校程教科は多くない為これで成り立っているが、正直1時限1時間以内の方が集中力は続くのだろうなとは思う。
さて、話は戻りルーカス様の第2イベントですわ。
ルーカス様の第2イベントは本日の放課後に起こる。
ルーカス様が在籍していない今となっては絶対に起きないと分かっているイベントだけれど、まだルーカス様がいない事に気付いていないアリシアだから起こす気満々でその場に行くのだろうと予想される。
イベントが起こるのは校庭(といっても前世のグランドのような物ではなく単なる庭園)の噴水前で転んで膝を擦りむいてしまうヒロイン。
そこを通り掛かったルーカス様が「大丈夫?あ!また君か!」とヒロインに声を掛ける。
「あ、あの時の...あの時はありがとうございました」
「今日も迷子?」
「ち、違います!そんないつも迷子になんてなりませんから!」
「迷子にはならなくても、何もないのに転ぶんだね。アハハ、君、本当に面白いね!」
「も、もう!」
プクッと頬を膨らますヒロインに手を差し伸べるルーカス様。ヒロインの愛らしい表情にドキッとしつつ。
そのシーンがご褒美スチルとなる。
これはレンに報告しなくても、いいかも?
とは思ったが一応話してみた所「絶対噴水の所に行くんだろうな、ルーカスが通ってない事も知らなさそうだし」と同意見がレンの口から出てきた。
全ての授業が終わるとアリシアはパタパタと何処かへ走って行ったのだが、帰り際に噴水の見える所から確認するとやはり噴水の前にスタンバイしていてレンと顔を見合わせて苦笑した。
「暗くなる前にきちんと帰るでしょうか?」
「流石に何時間もあの場所で待ってはいないだろうさ」
「そうですわね」
でも何故か暗くなるまで待っていそうな気がして「帰り、危なくないかしら?」と思った。
帰りの馬車の中で明日起こるカルゴリー様の第2イベントを思い出した。
学園内にある訓練施設で朝の鍛錬を終えたカルゴリー様と偶然遭遇するヒロイン。
汗だくで上半身裸というカルゴリー様の姿に「キャッ!」と小さく悲鳴を上げる。
「ああ、申し訳ない!」
「い、いえ...あの、汗が、凄いですね」
「朝の鍛錬をしていたからな」
朱色の髪を掻き上げるカルゴリー様の姿にドキッとするヒロイン。
「あ、あの、これをお使いください」
そっと差し出したハンカチに一瞬驚くカルゴリー様だったが、ニカッと笑うとそのハンカチを受け取るのだが、ハンカチを受け取ろうとしてその手をしっかりと握ってしまい2人共赤面する。
その赤面シーンがご褒美スチルとなる。
「...本当に誰だ、それは...あのカルゴリーだぞ?「申し訳ない!」なんて言うはずがないだろう」
...確かに。
「あ、悪ぃ!」とは言いそうだけれど「申し訳ない!」なんて言うお人ではない。
実際のカルゴリー様は...少々粗野である。
「それにカルゴリーの傍にイリーナ嬢がいないなんて有り得ない!あの男はイリーナ嬢がいなければまともに人間として生活なんて出来そうもない男だぞ?!」
ご最も...。
「朝の鍛錬ならばミシューラ家で行うだろう。あの家は早朝から厳しい訓練が行われる事で有名だからな。それが終わった後で態々学園で鍛練なぞ出来る体力もないだろうし」
騎士爵最年少保持者であられるカルゴリー様の生家であるミシューラ家は代々騎士や軍人を輩出するお家柄であり、カルゴリー様の父君であるジゼラ様は『泣く子も黙る鬼将軍』として名高いお方で、ミシューラ家の訓練程辛いものはないと言われる程にその訓練は厳しいもので、朝、夕方と日に二度行われる訓練をカルゴリー様は入学してからも続けていらっしゃる。
一度だけその様子を見せていただいた事があるのだけれど、あれは見ているこちらまでもが苦しくなるような厳しいもので、あれを朝にこなした後で学園でまた鍛錬をするなんて、実際に考えたら正気の沙汰ではないと思う。
何せ訓練が終わった後は死屍累々の山が出来ており、1時間程はまともに腕すら上がらないようなのだ。
最年少騎士爵保持者のカルゴリー様ですらその場に倒れ込んで暫く動けなくなっていたのだから、流石にその後授業もあるのだからそこまで自分の体力を削りもしないだろうし、しようとしてもイリーナ様が止めるだろう。
カルゴリー様の無謀な暴走をあっさりと止めてしまうのもまたイリーナ様なのだから。
*
念の為に少し早くに登校したわたくしとレン。
学園の訓練施設が見える空き教室から様子を窺っているとアリシアがやって来た。
その場に佇んで訓練施設の扉をじっと見つめている。
事前に確認したがやはりと言えばいいのか、カルゴリー様は訓練施設にはいなかったし、訓練施設はしっかりと施錠されており中に入る事は不可能だった。
「本当に来たな...もうここまで来ると驚きもしないが...呆れるな」
「その根性といいますか、努力の姿勢は素晴らしいと思いますわ」
「無理して褒める必要はないと思うぞ」
無理に褒めているつもりはない。
本当に「イベントを起こすぞ!」という気負いとその努力しようと頑張る姿は凄いと思う。
わたくしがもしもヒロインだったならばそこまでの行動力は発揮出来ないだろうし、そもそも婚約者がいる相手に手を出そうとは思わないだろう。
前世からもそうだったけれど、略奪愛なんてわたくしには無理だし、恋人や奥さんがいる人を好きになった事がないし、それを壊してまで手に入れたいと思える程わたくしの倫理観が壊れる事はなかった。
奪われてしまう側の痛みは知っているので尚更だ。
案の定カルゴリー様は現れず、予鈴が鳴るまで待っていたアリシアだったが、予鈴が鳴るとバタバタと駆けて行った。