第2イベントですわ
アーレン様とヒロインの第2イベントは登校してすぐの教室で起こる。
イザヴェルに常に張り付かれている事に少々嫌気を感じ始めているアーレン様がその日まだ早い時間帯にお1人で登校なさった所に花を持ったヒロインが登校してくる。
「おはようございます、早いんですね」
アーレン様に気付いたヒロインは極々普通に挨拶をして大きな花瓶を抱えて教室を出ようとするのだが、おっちょこちょいぶりを遺憾無く発揮して花瓶を落としそうになってしまう。
「危ない!...気を付けろ」
咄嗟に助けたアーレン様はヒロインを後ろから抱き締めるような格好になり2人は思わず硬直。
「あ、ありがとう、ございます」
「...礼には及ばない」
何となく甘酸っぱい空気が流れ、ご褒美スチルとして背後から抱き締められる形で見つめ合う初々しいスチルがGET出来るという流れだった。
それをレンに話した所「ウゲッ!」と聞いた事もない声が聞こえた。
「話を聞くだけで鳥肌が凄い!」
「...大丈夫ですか?」
「そもそもベルに嫌気がさしてるという前提からして有り得ないのに、そんなイベント起こる訳がないと思うんだが?」
「そうですわね...でももしかしたらレンの心のどこかにそんな気持ちが無きにしも非」
「怒るぞ!ある訳ないだろ、そんな気持ち!」
「ごめんなさい」
「そもそも俺がベルにいて欲しくて一緒にいるのに、ベルが俺を嫌になる事があっても逆はない!絶対に!」
「それに何故ヒロインは教室に花を飾るなんて真似をしようとするんだ?勝手に花を飾るなんておかしいだろう!」
「そうですわね」
イシュタリカ学園には王族や貴族が通う為、不審物となりえる物を持ち込まないルールが存在している。
無毒な花は大丈夫だとしても教室内に爆発物等を仕込めてしまうような花瓶等は飾らないし、勝手に飾ってはいけない。
どうしても飾る必要がある場合は何重にもチェックが入った上で飾られる事になる。
そもそも教室内に花瓶等置かれていないのに、ヒロインは何処から花瓶を持ち出してくるのだろうか?
強制力の力で勝手に湧き出てくるものなのかしら?
そんな話をしながら2人で同じ馬車で帰宅した。
「明日も当然迎えに来る」
「お待ちしておりますわ」
**
翌朝、レンと2人で登校して教室に入ると、教室内は騒然としていた。
学園の警備の者が何人もいて、その中心にはアリシアが震える子犬のような雰囲気で小さくなっていた。
教壇の教卓の上には黄色い花が活けられた大きな花瓶が置いてあった。
「...本当に飾ったんだな。馬鹿なのか?!」
「イベントを起こしたかったのでしょうね...」
あの花瓶は何処から持って来たのだろうか?それが非常に気になる。
「知らなかったんです...」
プルプルと震えながら必死に謝っているアリシアだったが、花瓶と共に警備の者達に囲まれて何処かに連れて行かれてしまった。
「規範を読まなかったのか?」
「生徒手帳にきちんと書いてありますよね?」
「あの花瓶、まさか家から持って来た訳じゃないよな?」
「あんなに大きな花瓶、家から態々持ってくるやついるか?!」
暫くクラスは騒然としていた。
わたくしと同じく「花瓶は何処から?」と疑問を抱く生徒がチラホラいる事に少々安堵した。
「はいはい、静かに!席に着くように!」
担任の先生がいらしたので皆は静かに席に着いた。
「あー、皆知っているだろうが、アリシア・ザボルガールが少々騒ぎを起こしてしまった。本人は善行のつもりだったようだが、今後このような事が起きないよう、各自生徒手帳に再度しっかりと目を通して欲しい」
クラスの生徒の評価はそのまま先生の評価へと繋がる為、この後先生は厳しく叱られてしまうのかもしれませんわね。
顔色がとても悪くて気の毒ですわ。
**
アリシアは2時限目から教室へと戻って来た。
こってりと絞られたのか疲労の色が濃く、顔色も凄ぶる悪く覇気がない。
結局花瓶の謎は全く解けないままなので何だか消化不良のようなモヤモヤが残っている。
先生に聞いた所で教えてくれるはずもないし、まさか本人に直接聞く事も嫌だ。
謎は謎のままという事だろう...残念だ。
授業を受けている最中にポラリティ様の第2イベントを思い出した。
イベントが起きるのは今日のランチタイム。
日直の仕事で食堂に行くのが遅くなったヒロインが急いで食堂へと向かっている途中、曲がり角でぶつかるのがポラリティ様。
ポラリティ様は食堂ではなく別の場所でランチを摂る為に軽食を購入しており、ぶつかった衝撃で軽食を落としてしまう。
そして運悪くその軽食はヒロインの手の下に敷かれておりグチャグチャに。
「ご、ごめんなさいっ!」
「いや、こちらこそすまない。怪我はないだろうか?」
「は、はい、大丈夫です...でも、お昼ご飯が、台無し、ですよね...ごめんなさい」
「君に怪我がないのなら僕の昼食なんて何て事はないさ」
爽やかに微笑むポラリティ様はヒロインに自分のハンカチを手渡す。
「手が汚れてしまっているよね?これで拭くといい」
如何にも高級そうなハンカチに戸惑うヒロインにポラリティ様は優しい笑みを浮かべると、跪くようにしゃがむとヒロインの手を取り汚れた手を優しく拭い、ヒロインはポッと頬を染める。
手を取って汚れを拭っているシーンがご褒美スチルとなっていた。
「それは誰だ?」
レンに思い出したイベントの事を話したら一番初めに出てきた言葉がそれだった。
「あいつは突然の出来事が起きると間違いなく女言葉が出る。ぶつかった瞬間「痛ぁぁぁいっ!」と叫ぶに決まってる」
その光景が目に浮かびますわね、もう間近で見て来たように鮮明に。
「そして「やぁだぁ!私のお昼がぁぁ!」と大騒ぎする!絶対に!」
そうですわね、その光景も鮮明に思い描けますわね、ゲームのイベントよりも鮮明に。
「そもそも「ニッチュク?ニッチョク?」とは何だ?」
そう、日直!
入学して分かったのだけれど、日直なんていう当番システムが存在しなかったのだ。
基本的に先生が何か用事を頼む際にはクラス委員に伝え、クラス委員がそれを手伝ってくれる生徒を見つけてお願いをするというのが暗黙のルールのようなのだ。
薄ぼんやりと放課後の教室で日誌を書くヒロインと誰だか分からない攻略対象者が夕日に照らされているスチルを思い出したのだが、日直も日誌もないのでそのイベントなんて起こりえないのだろう。
それとも今回の花瓶みたいに不思議と現れたりするのかしら?
**
お昼休み、購買で軽食を購入して、ポラリティ様の第2イベントが起こる場所が見える場所に潜んで様子を伺っている。
屋上へと向かう階段の踊り場のような場所で人はおらず、そこで淑女としては少々お行儀が悪いけれどレンと共に昼食を食しながらぶつかりポイントを眺めている。
何処からともなくバタバタと足音が聞こえてアリシアが現れたのだが、ポラリティ様は来ていない。
「は、早過ぎた?!」
廊下だからなのか声がよく響きアリシアの声がはっきりと聞こえてくる。
曲がり角の所にしゃがみこんで廊下の様子を窺う様からどうやらアリシアはそこでポラリティ様が現れるのを待つようだ。
あちらの声が響いてよく聞こえるという事はこちらの声もあちらに届く可能性が高い為、わたくし達はお互いに声を潜めた。
こういう事は長年一緒にいる為に言わずとも通じる。
暫くしゃがんでいたアリシアがスクッと立ち上がると、勢いよく廊下に飛び出した。
チラッと見えたポラリティ様。
「痛っ!」
だけどアリシアがぶつかったのはポラリティ様の隣をたまたま歩いていたらしい見知らぬ男子生徒だった。
「君、大丈夫?...あー!僕のランチがぁぁ!」
アリシアに手を差し伸べた男子生徒だったが、立ち上がったアリシアの下から現れた無惨にも食べられる状態ではなくなったランチに悲痛な叫び声を上げた。
本来であればヒロインの手で潰されるはずのランチはアリシアのお尻の下に敷かれており、アリシアのスカートには何かのソースらしい物がベッタリと付いていた。
ポラリティ様はというとその様子を「何だ?」という感じで見ていたのだが、早々に飽きたのかそのまま立ち去って行った。
「ご、ごめんなさい!」
「君!何で廊下を走るんだよ!お陰で僕の昼食が台無しじゃないか!」
「本当にごめんなさい!」
「あぁ、限定ランチが...」
限定ランチとは毎日20食限定で販売されている購買のみで買えるお弁当のような物で、値段の割に内容が豪華な為に人気が高く即売り切れるので争奪戦になるのだと聞いている。
「折角の限定ランチですのに気の毒ですわね...」
「全くだ...」
「確か本日はローストビーフでしたわね」
「そこまでは知らないな」
今世の兄達に「限定ランチのローストビーフは絶品」と聞いていたので、購買でランチを購入する際「本日の限定ランチは何かしら?」とついつい確認を怠わなかった為に覚えていたのだ。
何時か食べてみたいですわね、ローストビーフ。
**
「あの女、イベントを起こす気満々だな」
「そのようですわね」
「やはり全員を攻略する気でいるのか?」
「...逆ハーレムルートは存在しませんけれど、あの様子ですとそうなのでしょうね」
「ハーレムなんて何がいいんだ?争いの種だろう?!しかもあいつは女だろう?男を侍らすなんて女としてどうなんだ?」
「...貞操観念が希薄、なのでしょうね」
この国は基本的に一夫一妻制であり、男女問わず複数の異性を侍らせる事を良しとしていない。
また、婚約者がいる者が婚約者以外の異性を傍に侍らす事もまた然りであるし、婚約者のいる相手に粉をかけるような行為も良しとされない。
国王ともなれば世継ぎ問題で、正妃に子が儲けられない場合は側室なり愛妾を持つ事が許されているがそれは最終手段である為推奨はされていない。
その際も正妃側がもう子が望めない年齢まで待たれるし、国王が拒否をすれば無理に据える事も出来ない。
他国ではハーレムを作る王侯貴族がいるが、それはあくまでも男性側の特権であり、女性側が逆ハーレムのようなものを作る事は世界的に見ても許されている所はない。
貴族女性の不貞や色恋沙汰は男性のよりも世間の目は厳しく、一度でもそういう烙印を押されるとまともな縁談など望めない。
「ますますもって好感が持てないな」
「...そうですわね」
アリシア、あなたは何がしたいの?
少しバタバタしていた為に更新途切れていました(*_ _)人ゴメンナサイ