写真
最初に言い訳を並べておきます。
途中から何を伝えたいのか分からなくなりました。
『写真』という題名も回収されているか微妙です。
1ヶ月。そう医者に告げられた。
目の下が赤い。若い奴に何言わせるんだ、もっと年取ったのが居ただろうに。
ああ、他人事のようにしか理解できないのだろうな。
死ぬのか、僕。
支払った後の帰り道が死刑執行までの白い廊下に感じられた。
ああ、雨だ。もういい、濡れてこう。
1日や2日、縮まったとしても変わりゃしない。
死ぬんだな、僕。
画面の向こうの親の顔を見たら色々溢れ出した。
ノイズだらけの泣き声に、自分の枯れた声が重なる。
死ぬらしい、僕。
死ぬまでどうしようか、そう呆然と暗くなった画面と窓の外を眺めてたら、ベルが鳴った。
開けに行くのも面倒くさい。
「ごめんくださーい。」
ああ、五月蝿い。
子供のように言い返すか。
「ごめんくださーい。」
「いませーん。」
「そっか…いないかあ。」
何故か罪悪感が湧いてきて結局ノブを捻った。
あ、居た、と少し安心そうに笑った。
「何。テレビなら持ってないよ。」
「え、えと、お届けものです。」
「先にそう言ってくれ。」
どう見ても学生にしか見えない女配達員だな。
玄関で待つよう言ってハンコを探していると、懐かしいものが出てきた。
出てった彼女との最後の写真だ。
あれから20年。
孕んだ体でどこかへ消えてからもう───。
いかん、ハンコだ。
「あの」
振り向くと例の配達員が気まずそうな顔でいた。
きちんと土足は脱いである。
その手には探し物があった。
「玄関に…」
「…そうだったな」
そう言いつつハンコを受け取る。
ありがとうぐらい言おうと顔を見ると、固まった。
思わず写真を手に取り見比べる。
いかにも、あの頃の僕らを足して等分したような顔だった。
「どうしました?」
「いや」
…偶然だろう。そう思いつつ軽い段ボールにハンコを押し付ける。
「はい、確認できました、それでは」
任務完了、そう言わんばかりに立ち去る彼女を引き止めたくなったが、我慢した。
それを確認できても何も変わらない。
「あの」
靴を履きつつ振り向いて彼女は僕を向いた。
口をパクパクさせて、深呼吸した。
「私の、お父さんですか?」
「は?」
急に何を言い出すんだこの女は。あいつに似て結論しか言わないな。
少し怒っているように思われたのか、少しおどおどしつつ続けた。
「えと…あの写真…私の母も持ってまして…えと…写真と貴方が似ていて…なんというか…」
なんたる偶然。神よ、こんなことが起こるのですね。
「美咲は元気か?」
そう静かに呟くと、娘は一瞬歓喜した後、直ぐに暗くなった。
「私を産んで──」
「そうか」
呆然と上を向いた。
20年前にいってたのか、美咲。
「貴方は、どうですか?」
「…元気だよ」
「元気では無さそうです…」
嘘が見破られた。やはり苦手らしい。
「1ヶ月だ。色んなとこ回ったが声は同じだった。」
「そ、それって…あぁ…」
そこで会話は途切れた。外を駆ける救急車の声が響いてくる。
鳴り止まぬ踏切の声。深夜を走るバイクの声。
僕はやっと口を開いた。
「写真を、撮ってくれないか…僕と。」
「…はい」
古びたカメラを引っ張り出し、タイマーを入れた。
絞り出すような小さな声で、娘は言った。
「私、貴方と同じ大学に通ってます──父さん」
「そうか…頑張ったな」
子供に見せるよう練習した微笑みを自然と出せた。
互いに嬉しそうに笑った姿が移っていた。
「ありがとう」
「いえ、また明日、会いに行きますね」
配達員は小走りで去っていった。
名前を聞くのを忘れていたな。そう思いつつ、いきなり現れた眠気に身を委ねた。
───。
───さん。
───タカシさん。
───貴方はまだ来ちゃダメ。
「はっ…」
目を覚ますが、家ではなかった。これが本当の見知らぬ天井と言うやつか…
ピッピと五月蝿い思っていたら、ドラマで見るような計器と繋がっていた。
病院か。そうか、倒れたのか。
残り少ないもんな…そうだよな。
死ぬんだから、僕。
「…っ…本多さんっ…ご気分はどうですかっ?」
「悪くないよ」
走ってきたのか息を切らし看護師は聞いてくる。
続けて伝えられた事に僕は驚愕することになる。
運良く最新療法の実験体にされて僕の余命という制限が撤廃されたらしい。
胸に提げてる病院名で全てを察した。
人命優先の狂った母校だった。
「お父さん!」
似合わぬ白衣を纏った娘がかけてくる。
まだ生きれるらしい、僕。
娘以前に彼女すら出来ない自分の将来が不安でしょうがないです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
連載小説の方も読んでいただけたら幸いです。