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福 物語 〜中学生編  作者: 真桑瓜
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夏合宿

夏合宿


夏休みになった、福は妙心館恒例の夏合宿に参加するために道場へ急いだ。

ただ、門下生達に緊張感はない。皆、ニコニコと笑っていた。

数台の車に分乗して、猪島いのしまに向かった。

海の家の主人は、かつて妙心館の門人だった人でこの日は貸切にしてくれる。

稽古は暑い昼間は避けて、朝と夕方の涼しい時に行われる。

「苦行で苦を増やしても仕方がない、もともと人生は苦ばかりなのだから」というのが、妙心館館長、無門兵助の教えらしい。


十時に猪島に着いた。門下生達は早速水着に着替えて海に入る。

冷たい海水が気持ちいい。沖に丸太を組んだ飛び込み台が見える。

「槇草さん、あの飛込み台まで行ってもいいですか?」

「夕方の稽古までは自由だ、何をしてもいいぞ」と槇草は答えた。「ただし溺れそうになったら無理に元の場所に戻ろうとせず、躰の力を抜いてただ浮かんでいればいい。もちろん太陽を睨んでな。そして落ち着いたら岸に向かって泳ぐんだ。力を抜く事は空手の基本だぞ」


「お〜い福、親父さんからボートを借りたんだが、沖へ出てみないか?」酒井が声をかけてきた。

「はい、行きます行きます」福は急いで岸に戻った。

「ボートを押すから乗っていろ」辻はボートを力一杯に押して乗り込んできた。

波は静かだ、酒井の漕ぐボートは苦もなく沖へ出た。

「この辺でよかろう」酒井はオールを船端に置き、箱メガネで海の中を覗いた。「お、いるいる、昼飯のおかずには不自由しないぞ」

「何がいるんですか?」福は興味津々で酒井に訊いた。

「ちょっと覗いてみろ」酒井は箱メガネを福に渡した。

「わ〜っサザエだぁ、ウニもいる」

辻が海に飛び込んで、一潜りでサザエを5〜6個獲ってくる。

競うように酒井が飛び込みウニを獲ってきた。

三十分ほどで皆んなが食べる分のおかずが手に入った。

「これはおまけだ」そう言って辻は大きなタコを船端に投げた。

「福、気をつけろよ、首に巻きつかれたら死ぬぞ」辻は笑って言った。


海岸に戻り昼飯の準備に取り掛かった、海の家の親父さんが福たちの獲ってきた獲物を調理してくれた。

「これ美味しいや!」

福が目を丸くすると辻が言った。

「そうだろう、俺が獲ったんだからな」

「俺の焼き方が上手いんだよ」親父さんが笑った。「ところで無門先生はお元気か?」

「はい、お元気です」槇草が答えた。

「道場にいた頃には、世話になったからなぁ」親父さんは懐かしそうに言った。

「帰ったらよろしく伝えてくれ、今度遊びに行きますってな」

「はい、必ず伝えます」


海の家の板張りの上に、ゴザを敷いて昼寝をした。起きたら西瓜割り。

福がスイカを割ると、みんな拍手喝采した。砂の付いたスイカがとても美味しかった。

浜辺に円を描いて相撲も取った。当然ながら福は一度も勝てなかったけれど投げられた時の砂の感触が気持ちよくて、何度も先輩たちに挑んでいった。

「日が沈んだら稽古を始めるぞ、みんな体力温存しておけよ!」槇草が言った。


稽古は乾いた砂の上、湿った砂の上、膝までの水の中で行った。

道場の板の上とはまるで感触が違う。一歩動くたびに足元の状況が変わる。

「床の上とは比べ物にならないくらい疲れますね」

「戦いは、平らな場所とは限らない。色々な状況で稽古をすることも大切だ」


夜は海の家の板張りに蚊帳を吊るして寝た。

目一杯躰を使ったから、横になった瞬間スイッチが切れるように意識が途切れた。


目が覚めたら朝だった。夢も見なかった。

海辺で準備体操をした。

「俺が準備体操をしていると、師匠によくからかわれるんだ」槇草が言った。

「不意に敵に襲われた時、『準備体操をするからちょっと待ってくれ』って言うのか?って」

全員が笑った。

「だが俺は、準備体操を怠ってアキレス腱を切った奴を俺は知っている。昔の人に比べたら俺たち現代人は躰の造りがヤワなんだよ」


朝の稽古が終わったら朝飯が出来ていた。こんな美味い朝飯は初めてだった。






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