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イキってる幼馴染みをわからせてやろうと思う。

作者: 空夜キイチ

 

 同じ村の出身である幼馴染みのマイラは昔からお調子者だった。


 お調子者と言っても、マイラは善悪の分別はついている方だった。やって良いことと悪いこと。それの善し悪しは理解しているはずだ。

 もちろん俺が傍に居て軌道修正していたから大事には至らなかった。



 俺はそんな彼女に付き合って、波風立てないように立ち回っていた。けれど、彼女が冒険者として成り上がる! と言い出して俺の傍を離れて行ったとなれば、話は変わってくる。



 ああいう人間を下手に煽てれば、増長して手が付けられなくなるのは火を見るよりも明らかだ。

 彼女の冒険者としての実力は悪いものではなかった。一生懸命努力を重ねて、仲間にも恵まれたらしい。


 村を出て五年、一度も帰郷することはなかった。たまに手紙は寄越すけれど、それだって近況報告に留まる。

 とはいえ、順風満帆な冒険者生活を送っているようで、俺は彼女の事は何も心配していなかったのだ。



 しかし、突然のマイラの来訪に、五年ぶりに彼女を見て俺は頭を抱えてしまった。




 ===




「ルクス、久しぶり!」

「五年ぶりだな」


 彼女の出で立ちは冒険者のそれだった。

 満面の笑みを浮かべて上機嫌な彼女の傍らでは、仲間であろう三人がなぜかどんよりとした顔をしている。


 随分と元気がない様子に俺は眉を寄せた。

 何かあったのだろうか、と邪推をしていると――


「アンタ、鍛冶師になったんだってね」

「ああ、良い師匠に恵まれてな」

「ふうん、でもこんな田舎じゃ仕事なんてないんじゃない? わたしが協力してやっても良いけど?」

「協力?」


 彼女が俺に提案したのは、仲間たちの武具の新調だった。

 こちらとしても仕事をもらえるのは有り難い。


「ちょうど手が空いてたんだ。構わない」

「そう言ってくれると思った! それじゃあ、予算はこれくらいで……よろしくね!」


 喜んで引き受けると、マイラはテーブルの上に金の入った袋を置いて出て行った。

 どうやら久しぶりの帰郷に村中を見てまわるのだという。

 それを快く送り出した俺は、さっそく仕事に取りかかることにした。


「それじゃあ、武具はこちらで預からせてもらいます」

「あ、ああ……頼むよ」


 仲間の一人が身につけていた武具を外してテーブルの上に置く。

 それらを見て、俺は奇妙に思った。随分と使い古されている武具だったからだ。剣なんて刃先がボロボロ、防具も穴が開いてたりヒビが入っていたり状態はお世辞にも良いとは言えない。


「これ、随分と酷使していますね。魔物相手に戦うには充分な物とは言えない」


 残りの二人の武具についても同じような有様だった。

 ここまで来ると物を大事に使うなんてレベルじゃない。明らかにボロボロの武具を使わされている。


 冒険者が自らの仕事道具である武具を蔑ろにするとは聞いたことがない。下手したら死ぬかもしれないのだ。

 それにはどんなに金をかけたって、それを愚かであると揶揄する輩はいないはずだ。


 訝しんでいるとマイラの仲間である男が俺に声を掛けた。


「ルクスさんはマイラの幼馴染みなんですよね?」

「ああ、そうだけど」


 彼らが俺に話してくれたのは、相談というよりも愚痴だった。

 仲間を大事にしない。横暴な性格に疲れ果てている。もう限界だ。


 口々に不満を吐き出す彼らに俺は同情する。マイラの相手は他人には荷が重いはずだ。


「それで……そろそろ限界だって話が出てきて、だから俺たち、マイラをパーティーから追放しようかって考えてるんだ」


 仲間たちの追放宣言に、俺は頭を抱えた。

 部外者である俺が話を聞いてもそれが一番現実的に思える。幼馴染みでなかったら庇ってもいないだろう。


 けれど幸か不幸か、マイラは俺の幼馴染みだ。だから、彼らの発言に待ったを掛けるのは当然と言えば当然のことだった。


「その……少し待ってくれないか?」

「待っても俺たちの考えは変わらないですよ」

「その通りだけど……ここは俺に任せて欲しい」


 突然の提案に仲間たちは顔を見合わせる。

 俺の考えはこうだ。


「ようはアイツが考えを改めて、調子に乗らなければ問題ないってことだろ?」

「まあ、そうだけど……何を言っても聞き入れないと思いますよ。例え昔馴染みだとしても、だからこそマイラの性格はわかっているでしょう?」

「そうだな……」


 これには同意しかない。マイラは誰かに何を言われたところで自分の考えは変えないだろう。今までの行いを反省して改める、なんてどう考えても不可能だ。

 幼馴染みの俺がそう思うのだから、これは絶対。


「だから俺がアイツを叩き直す」

「……どういうことですか?」

「マイラと俺が一対一の手合わせをする。そこで俺がアイツを負かせれば、歯止めになるんじゃないか?」

「ただの鍛冶師のあなたが冒険者のマイラを負かす? 出来るわけがない!」


 仲間たちは俺の考えを無謀だと言った。

 マイラはそれなりに腕が立つらしく、鍛冶師の俺では彼女の相手は無理だと断言するのだ。

 けれど彼らのそれは過小評価というものだ。


「大丈夫。ただの鍛冶師だけど、言っただろ。良い師匠に恵まれたって」


 俺の師匠は変わり者だった。

 鍛冶師ならばそれを正しく扱えなければその資格はない、などと言うのだ。つまり、どんな武器でも完璧に扱えなければならない。

 故に鍛冶師として成る前に、俺は師匠に徹底的に叩き上げられた。剣を打つならば、達人並の実力でなければその資格すら与えられない。


 現に師匠の武芸の腕はどれも達人並みだった。剣を取らせても、槍を取らせても。どれをとっても、素人目に見ても凄いことがわかった。

 そんな人に限界まで叩き上げられた後、俺は鍛冶師になれたのだ。




 ===




「ルクスが私と手合わせ?」


 村の散策から戻ってきたマイラに手合わせを頼むと、彼女は目を円くした。

 マイラが驚くのも無理はない。昔の俺は剣だって握ったこともなかったし、何よりも運動だって得意ではなかった。


 対照的にマイラは身体を動かすことが好きで、試しに剣を握ってみれば同年代で勝てる子供はいなかった。

 だからこそ、彼女は剣の腕にはそれなりに自信があるのだ。


 けれどそれは呆気なく瓦解することになる。


「え、ちょっと――まっ」


 結果は俺の圧勝。

 俺がマイラの首筋に剣先を突き付けたところで手合わせは終わった。

 しばらく呆然としていたマイラだったが、我に返った彼女は剣を納めた俺に詰め寄ってきた。


「う、うそ……なんでルクスがこんなに強いのよ! 昔はこんなんじゃなかったじゃない!!」

「言っただろ、良い師匠に恵まれたんだよ」


 俺の返答にマイラは納得のいかない顔をする。けれど実力を見せつけられては何も言えないみたいだ。


「ただの鍛冶師の俺に勝てないようじゃお前もまだまだってことだ。これに懲りたらちゃんと仲間たちと協力して――」


 話の途中でそれを遮るようにマイラは俺の両肩を掴んだ。


「きめた! わたし、ルクスとパーティー組むことにする!」

「「「――はあ!?」」」


 突然の爆弾発言に、俺も、事の成り行きを見守っていた彼女の仲間たちも目を円くする。


「だからあなたたち、もういらないから! 追放ね、ついほう!」


 どういうわけか勝手に話は進んでいく。

 もちろん、こんなのは許容出来るわけがない。


「お、おまえ……真面目に言ってるのか?」

「もちろん! ルクスがこんなに強いなんてわたし知らなかった! あなたと一緒なら冒険者家業も安泰ね!」

「まっ、まてよ! 勝手に決めるな! それに仲間たちの意見だってまだ」

「――俺たちは構わないですよ」

「え、ええ!?」


 仲間たちはマイラの決定に肯定的だった。

 元々彼女を追放しようかと考えていたのだ。マイラから言い出してくれたのなら万々歳、そんなところだろう。


「うっ、だけど……俺には鍛冶師の仕事があるんだ」

「鍛冶師なんて、そんなの冒険者引退してから好きなだけしたらいいじゃない! 若い内にいろんな経験を積むべきよ!」

「な、なんだその謎理論は!」


 マイラの暴挙に俺は頭を抱えた。

 こうなっては彼女を説得するにも骨が折れる。マイラは一度言い出したら聞かないところがあるし、俺がうんと言うまで付きまとってくるだろう。

 そんな状態では鍛冶師の仕事どころではない。


「か、考えさせてくれ……」

「幼馴染みの頼みが聞けないの!?」

「無茶をいうな! せめて今受けている仕事だけでも終わらせないといけないし、師匠にも相談しないと――ああもう! いつもお前はそうやって」


 困り果てて怒鳴りつけた俺を見て、マイラは楽しそうに笑っていた。

 その笑顔は、俺が結局断れないことを見越してのもの。そして、その通りなのだからなおさら質が悪い。


「……師匠を説得するとき、お前にもついてきてもらうからな」

「もちろん! 任せといて!!」


 自信満々に胸を張るマイラに、俺は苦笑を零す。


 ――そうして、俺が幼馴染みと共に冒険者として名を挙げることになるのは、まだ少し先の話だ。


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