覚悟の器
村上には笹田が安易に噂を言わないことを知っていたのだ。笹田にとって噂はただの線のようにしか見えないのだとつぶやいていたことがあったのだ。
「その弟が行方不明だって知ったらどう思う?」
「何かに巻き込まれたのかと疑うけどな。その口ぶりだと捜索願すら出されていないんだろ。」
「正解。むしろ、父親の勉は別に焦った感じもなさそうだったんだ。まだ本人には会えていないけど。」
宗は会うつもりでいっているのだろう。もとはといえ、増岡勉も政治家だったのだ。安易に会えるほどの人ではないはずだ。特に裏で何かをしているのであるならばなおさらといっても可笑しくない。断られたときの手をもっているはずだ。
「お前は確か裏社会に通じている情報屋とつながっているんだろう。」
「よく知っているな。・・・まぁ、あの人も警視庁にのけ者にされた挙句の果てだよ。刑事殺しすらろくに全て調べなかったんだから。だから生まれるんだよ。・・・警察が生み出す被害者っていうのが・・・。」
当たり前に警察は正義感の構えをしているからといってそうは言っても権力にはあっさりと負けてしまうのだ。法律がといっておきながらも何処かで緩んだところに付け込んでしまうこともあるのだろうから。
「名前は明かさないのはわかっていると思っているんだろう?」
「そうだ。村上じゃなくて他の奴だってわかっている。裏社会に通じる探偵がいても可笑しくないからな。その辺を否定するつもりもさらさらないさ。」
宗はそういってグラスに残っていたワインを飲み干した。飲み干したところで飲み足りないことに気が付いてしまったのだ。真由美にいって新しいワインを出してもらった。
「別に年代物とかいうのはないのよ。せっかく昔の仲間に会って話しているんだからいいものを飲んだら・・・。」
「そうかな。村上にはあの時には助けてもらったから。」
あの時というのは誤認逮捕されたときだ。最初に疑われた段階で彼はずっと否定していたのだ。初動捜査を誤っている可能性があるのにどうしてそこまで断定して進めているのかともいっていたのだ。それでもぐいぐい来る警察官に対してかなりいっていたのだ。真由美に頼んで年代物のワインを出してもらった。彼女は何時もキープしてもらっているお礼だとして値段を下げてもらったのだ。
「そのあと、笹田が辞めただろう。あの時所長がつらそうな顔をしていたよ。たぶん、検事の時に冤罪事件にかかわったんじゃないかって思いがあったのに、新たにお前が誤認逮捕でいなくなった。思い出したじゃないのか。苦しみが・・・。」
川城尚子はそれほど冤罪という重みに耐えかねていたのだろう。警察にかなりの言葉を投げたのだという。それは今後の生活を保障する覚悟があるのかとも・・・。




