過去の悪
宗にとっては思い出したいことなのか、それとも全くもって思い出したくないことなのかはっきりしない心の有耶無耶なところに頼っているのを感じた。サンズから出た後に近くにあったカフェに入った。何処にでもあるチェーン店のカフェだ。そこはグッズをもっていることだけでテリトリーがあったようになっていたが、今はどうなっているかはわからないのだ。そこでコーヒーを頼んだ。少し待つと出てきた。1人で座りやすいように横並びになっているテーブルに座って飲みだした。
「よっ!名探偵さんよ。」
「なんだ。村上か。」
「なんだはないだろ。こっちだって野暮用で此処に来ているんだから。」
彼のいう野暮用というのは浮気調査のことだ。ひたすら待つだけに過ぎないから、彼は独自で言い出したことなのだ。以前いた探偵事務所で探偵としてのすべを学んだのだ。所長も優しかったこともあって今も時々交流があるのだ。
「所長が戻ってきてほしいって嘆いているんだよ。お前が辞めるっていった時に所長がかなり引き留めたよな。それでも辞めるっていうから所長が引き下がったんだよ。それで別の探偵事務所を転々としているのを知ってさ。心配してたぞ。それで独立して事務所を開いているんだから。」
「俺はただくだらないことで探偵をしていただけだ。それに俺の過去に巻き込んだこともあったから余計にやめたんだよ。・・・探偵じゃないとできないこともあるってことさ。」
村上は笹田が自分の過去で巻き込んだという言葉に嫌そうな顔をした。
「それは関係ないことだろ。お前の生い立ちも過去も関係ないんだよ。ただ探偵として優秀であったことが全てなんだ。それ以上でも以下でもないだろ。」
彼の言葉を聞きながら流すように笹田はコーヒーをすすった。苦味が強く感じてしまったことはきっと話している内容に反映されてしまったのだなと思って小さく笑った。笑ってみたものの何処か浮かばれない感じがしたのだ。
「お前は野暮用で来ているのにいいのか。俺と話をしていて・・・。」
「いいさ。所長にお前に会っていたと話せばむしろ依頼よりも優先するだろうよ。他のメンツが張り付いているのも知っているし、俺が落ち度になることも少ないしな。」
笹田はいたころを思い出した。人数がそこそこいたにも関わらずそれでも笹田を雇うように言っていたことがあったのだ。その中で一番最初に組んだのが村上だった。村上は浮気調査に定評があるらしく所長は毎回といっていいほど頼んでいた。担当が決まっているのではないかと思うほどキチンと分けられていた。