笑った顔
宗が連れてきたこともあって2人は警戒心というのはなかったが、何処かにらみつけるような感じはあった。
「龍哉、奏斗。まだ仮契約といったところだが、紹介する。古巣の川城探偵事務所の村上だ。」
「初めまして川城探偵事務所の村上です。」
村上は頭を下げると龍哉は値踏みをするかのような目をしていた。奏斗は安心しきった顔をしていた。対照的な2人の表情には驚いてしまった。龍哉は幾度と資料で川城という名前を見ているからだろうか。
「川城探偵事務所って川城尚子さんが所長なさってますよね。川城という名前で有名なのは検事のほうですが・・・。圧力とかかけられないんですか?」
「以前はあったと聞いています。探偵という仕事をよく思っていなかった父親からだとも聞かされました。裁判をしてもふりになることもわかっていたそうです。」
「よく耐えましたね。俺だったら無理ですよ。俺の場合は普通の会社員の息子ですから、弁護士になってくれただけで喜んでくれたんですけどね。」
龍哉はソファに座った。奏斗は話を聞きながらコーヒーを作っていた。奏斗も考えることが同じなのだろうか、うなずいていた。
「厳しかったとも聞いています。検事になったにも関わらずやめて弁護士にならずに探偵という職業を選んだんですから・・・。」
川城の苦悩はとてつもないものだったのだ。所長をしているのは探偵として武器を持たせるわけでもないのだ。警察が取り扱わないのを調べて取り扱わせるように仕向けるようにしている。そのためだということもあるのだ。机にコーヒーが置かれたときに龍哉が思い出したかのようにいった。
「あぁ、すいません。申し遅れました。白笹探偵法律事務所の所長をしております。弁護士の白浪龍哉といいます。」
「同じく白笹探偵法律事務所の林奏斗です。俺はもっぱらパソコンを扱うことをしています。」
「林奏斗ってもしかして以前マスコミに取り上げられていたプログラミング少年か。だって君は有名な企業に入っていたはずじゃ・・・。」
村上が驚くのは無理はない。マスコミに取り上げられるのはその時の栄光に過ぎないのだから。奏斗も何処か照れ臭そうに笑った。聞かれるのはわかっていたのだろうから。
「その会社には俺の作ったものを取られてしまっていたんです。だからやめたんですよ。・・・それからいろんなことを転々としていました。その会社のことも弁護士事務所にいっていました。だけど、扱ってくれなかった。それを扱ってくれたのが此処だったんです。」
奏斗が見せる笑みはかけがえのないものを見つけたような笑みだった。




