顔を上げた空
村上との弾むような会話には何処かなつかしさを感じてしまった。川城はそれを望んでいたのだろうかと思ってしまった。
「これから2人に会いに行かないか?」
「2人って誰だよ。」
「白浪龍哉と林奏斗だよ。」
村上は驚いた顔をした。まさか会わせてもらえるとは到底思っていなかったのだろう。宗にとっては2人を合わせることがどれくらい大切かをわかっているのだ。
「いいのか。お前の大切な仲間だ。下手な奴に会わせるなんてよさないか。しかも、同業者だ。」
「お前はそんな奴じゃないことくらいは相棒として組んでいた時には知っていたさ。所長もそれくらいはいいと思ってくれるだろう。うまいコーヒーを味わっているんだからな。」
村上は笑った。会ってくれることを認めてくれたのだろう。彼はコーヒー代くらいは負担をするといったのだ。彼はいっても何処か抱え込んでいるところすらもわかってくれていた。村上はそういって電車に乗り込むことは躊躇しなかったのだ。近くには警視庁があるがそれすらも思わないのだ。
「あくまでも仮契約といっても所長は本契約に近いだろうな。お前だったら疑わないんだよ。嘘がないことは知っているからな。」
「それは所長は作り上げたものだからな。」
宗はそういって電車の窓に映るあっさりとした世界を見た。作り上げられた世界に拾われたに過ぎないのだろうが、それも感じさせないものがあったりするのだろうから。塗り替えていけるほどの力が備わっているのだろうから。くだらない話をしている目的のビルにたどり着いたのだ。その前には真由美がいた。
「しゅうちゃん、何処いっていたのよ。時間がかかりすぎよ。春香が話があるとかいっていたけど、またの機会にするっていっていたわ。」
「しょうがないじゃないですか。俺も仕事なんですから。」
「そうよね。あの子ったら自分の都合しか考えないんだから・・・。」
真由美はそういってスナックに戻っていた。真由美の姿は驚くようなこともなかった。村上はただ近所の人にしか思わなかったのだろう。古びたビルには看板は全くなかった。
「お前のところって看板はないのか?」
「ないよ。看板をつける金すらなかったんだよ。だから全く明るさがないんだよ。それでも成り立っているんだから。」
事務所にたどり着くとそっと開けた。そこにはパソコンに張り付く青年と資料をじっと見つめている青年が椅子に座っていた。異様な空間としか思えなかったのだ。じっとしていた見ていた人物がふと顔を上げた。




