過去から進んだもの
宗は気分転換に少し事務所から出ることにした。ちっぽけなビルから出ると大きな世界が広がった気がした。騒がしい喧騒に追われている人もいるのだろうか。カフェを見る度に何処か静まり返っているときが騒がしくも思ってしまうのだ。近場の駅の近くに来てしまったので帰ろうと思ったが、そこに大きくサンズという名前が目についた。
「確か・・・北見がいっていた働いていた店舗だったよな。」
そこにはサンズ池袋店と書かれていた。立地もいいこともあってお客が絶えない状態になっていたのだ。それでも社員と思しき人間の姿が見えなかったのだ。宗はあることを思い出した。大学の時にバイトをしていたのだ。そこで何かを盗まれたということで騒動になったのだ。そこで容疑者にされたのが宗だった。宗の過去を知っていた社員の男が笹田宗だと思わせるようにして盗んだのだ。それは売上金だったこともあって警察に突きつけるように差し出した。みな、そこで信じ切ってしまっている中、白浪だけは違ったのだ。断固としてやっていない証拠を探っていたのだ。そのうち、アリバイが立証されたとわかって警察はしぶしぶ返したという感じだった。その時にはすでに笹田は探偵をしていた。それも警察は知っていて疑ったこともわかっていた。それだからこれから起こりうることとして黙っていたのだ。ただ白浪だけは違って弁護士になるといった時から待っているようだった。
「お前も違うなら違うって言えよな。だって警察なんて有罪ありきの捜査なんて数知れないんだ。お前の過去に何があったのかと思ってしまうのだろう。それに生い立ちも調べてそれなりにこじつけをして納得したのだろう。」
「いいんだよ。俺なんて・・・。あの時からそうだよ。俺にとって此処まで生きてこれたのは養護施設の人のおかげなんだから。大学に行くように言ってくれたのは養護施設の人だった。それがなかったら行かなかったんだ。全てはおかげで詰まっているんだ。」
龍哉は宗を思っていることがあるのだ。高校の時に思い当たることが多かったのだという。高校の時には宗は養護施設で育っていることを知られたくなくて1人で行動をするのが日課だった。それを超えたのは白浪だけだった。多くは語らず、そばにいるだけを繰り返していた。
「お前はそれだけで失ってはいけない人間なんだよ。探偵をしているってことは人助けだろ。本題を別にしてもだ。そんな奴を安易に疑う警察が嫌いだ。」
吐き捨てる言い方をする龍哉に心がほっとした。