道を選ぶ
久保田の言葉は裏がなかった。久保田には後悔というものを隠そうとしているのだろうと思った。それしかするすべがなかったのかもしれない。
「俺は此処から出られるわけじゃないんだ。だけど、貴方みたいに聞きに来てくれた人なんていなかったんだよ。そりゃそうだよな。犯罪者とかかわり持ちたくないもんな。」
「それでも本当の姿を見せたら人は変わったりするものなんですよ。俺は誤認逮捕されたときは誰の言葉を信じていなかったんですよ。でもそいつだけは声を張って否定をし続けたんです。」
宗の心の中にあるのは彼の声が響かせる何かがあったのだ。久保田は不倫の末の横領がばれたときには全てなくなってしまったのだ。それだけならよかったが、放火未遂といったことまでしていたことも引き金になってしまったのではないかと思った。
「金をばらまくだけの関係ならやめておいたほうがいい。俺がそれに近かったから。・・・製薬会社に入った時になんて浮かれていたこともあって金をばらまいていたんだ。それに気づいたのはこんなことがあった後だった。・・・残ったのは裏切りの故のむなしさだけだったんだよ。」
「その虚しさから出る方法は見つかったんですか?」
「さぁな。時間だけが過ぎて見せてくれるだけだからな。逃げてみた道には道がなかったわけじゃないんだよ。何処か現実を遠目から見ることができるんだと知ったこともある。」
今は1人の部屋になっているが、問題を起こしたことがかかわるのだ。そこからは逃れることはできないのだ。起こしてしまった事実と向き合う時間は沢山あるのだろうから。時間がかかってしまったかもしれないが、それでも進んでいるように思えた。
「最初、会った時は反省をしていないようにしか思えなかったですが、あれは去勢を張っていただけだったんですね。それなら時々ですけど、会いに来ます。貴方には何処かには光はあるはずですからね。」
「そんなことを言う人、初めて会った。国選の弁護士ですら取り繕ってしまって結局はろくな話は聞かなかったんだ。事件のことも警察が提示した資料を読んだきっりでそれで裁判にいったんだ。金にならないっていうだけなんだろうな。」
国選の弁護士というのは事件を調べれば弁護人として名前が残ってしまう。それが恥ずべき行為になってしまっていることを知らないのだろう。愚か者がする行為だとなってしまったのだろうからとなっていた。まっすぐな目が映す光景は綺麗かどうかはわからない。




