光を得る
「その人の名前って憶えていますか?」
「そりゃ忘れることなんてできないよ。俺を此処まで陥れる要因を作ったんだからな。貴方にならいったらきっと調べてくれるでしょうしね。」
「藤川正治っていうんだよ。藤川は殿山製薬の近しい人間からのコネで入って来たことも知られていたんだ。コネだというのでいづらかったのは確かだと思う。」
藤川はきっと何処かで逃げ道を探したのではないのだろうか。殿山製薬が行ったことは罪なき人間を罪を犯したと評価をしたことだ。そのことで生まれた横領だったのだ。
「藤川は薬の成分とかに詳しかったから副作用とかはわかっていたと思うんだよ。結局はコネで入ったこともあってか、保護を受けたに過ぎないんだよ。」
久保田はそのことや不倫があって今に至るのだが、それを救うだけのこともなかったのだ。誰も手を差し伸べることができなかったのだ。しなかったのだ。社会からも見捨てられてしまったことをきっとわかったのだろう。
「国選で選ばれた弁護士がろくに金にならないとかいってとりあえず執行猶予が取れればいいからとかいっていたんだよ。ふたを開けてみれば執行猶予どころか無期懲役ってそれよりも悪くなっているんじゃないかってな。弁護士になってかなりの年数がたっていても金になれば本気になるタイプだな。」
「あきらめたんですね。世の中全てに対して・・・。」
「そうだよ。あきらめたほうがいいことだってある。確かに放火未遂もした。不倫もした。横領もした。だけど、そこまで求められていないのなら更生する必要もないじゃないかってな。何も役に立たないんだってな。」
久保田には消えない傷を負ったままになってしまったのだ。宗は黙ったまま、じっと見つめていた。変わらない世界や社会にぶつけるだけの武器も持ち合わせているわけでもないのだと思った。武器をもっていても扱い方を間違えてしまったらたたかれるだけ。静かになっているのだ。
「宗君は誤認逮捕を受けたことがあるから案外他人事にできないんだよね。」
「吉田さん。」
「俺もあまり口を出してはいけないんだけどさ。それでも2人は似たもの同士という感じがするよ。」
笹田はその言葉を聞いて思い立ったことがある。
「殿山製薬に対して損害賠償を取るというのはどうですか?」
「できるわけがないでしょ。だって、あちらは被害者ってことになっている。俺の名誉棄損で起きたことなんてなかったことになっているんだから。」
宗は少しでも名誉を回復をさせたかった。小さな光を導くことができるのではないかと思った。




