吐いた名
殿山製薬には隠したい過去があったのだ。死者を出したこともあったのだが、その薬の副作用のことを担当が知らなかったといっていたというのだ。
「よりによってその担当者は久保田だというんです。」
「久保田陽介は薬には詳しくなかったということか。それでも説明に行くだけはいけるということで会社も進めたんだろうな。同罪だな。」
その事件は民事裁判を起こされてしまったため、それを打ち消すために示談を言い出したのだという。それに納得しなかったこともあって裁判を行ったというのだ。久保田の処分の話が上がったらしいのだが、その時には口を濁したのだという。
「会社は久保田の処分を考えていなかったということですね。だから、遺族が騒いでいるという記事がいまだにあるんですね。」
「遺族にとっては久保田が別の事件で捕まってくれてよかったと思っているんだろうな。それも無期懲役という形ではあるからまだいい感じになったわけじゃないよな。」
宗はそう思っているんだろう。裁判を行ってもなお、何処か謝罪を感じされない部分があったのだろう。久保田は会社からなかったことになってしまったのだろう。お荷物の部署に行くことはなかったのだろうから。久保田は何食わぬ顔のままでいたのだろう。
「久保田のことも探りを入れてみるしかないのか?」
「大丈夫だよ。久保田には拘置所で会えばいいだけの話だ。そりゃ話すだろうよ。やめた会社のことなんてよくも思っていないだろうからな。」
彼はそういって上着を取った。今から会いに行くつもりなのだろう。着飾った格好とは言えないが、それでも会いに行くのに適切とは言えぬままなのだから。
「これから会いに行くのか?」
「あぁ、居場所くらいは簡単にわかってしまうからな。」
久保田には話す理由があるということなのだ。改めて自分の罪を見返すときを与えるつもりで会うのだろうと思った。龍哉は裁判の資料を閉じた。これ以上いったとしても結局は変わらないままになってしまうのだからと思ってしまったのだ。
「久保田に会って何を聞くつもりなんですか?」
「あの時、反省していなかった態度が変わっていればいいなと思ってな。手紙すらも送ってこなかったからな。建前でも手紙を送る奴はいるけどな。」
手紙を出すように弁護士から言われるはずなのだ。それでも出さなかったのは自分の罪を悔いていないことを示しているのだろうと思ってならなかった。
「俺でも手紙を出すように言うな。事実ならな。」
龍哉は吐き捨てるように言った。




