転々
企業の大きさでしり込みをする弁護士事務所はあるだろう。それでも立ち向かう弁護士事務所は少なくなってきているのだ。立ち向かうからこそ得るものがあるのではないかと思ってしまったのだ。
「奏斗さんってもしかして林奏斗さんですか?」
「そうです。・・・幼いころにIT企業に入るだのなって新聞に載ったことがあります。」
「ですよね。俺は貴方にあこがれていました。早く自分の好きなことをしたいと思っていました。でも、うまくはいかないものなんだって改めて思ったんですよ。」
北見はそういった。悲しそうにも思えたうえに寂しさを感じさせないように取り繕っているようにも思えた。北見は山田に会ったのはたまたまだったのだろう。
「俺も大学で部活に入ってプロを目指していたんですよ。」
「なんのですか?」
「野球です。野球はいろんなポジションでできるようにしておけば大丈夫だと思ったんです。そこまでにはいかなくてできて外野で守るしかできなかったんです。それでもいい成績を残してきたわけではなかったから余計に声なんてかからなかったんです。・・・あきらめた人生を歩もうと決めたんです。」
北見はあきらめた人生と一図けてそこを歩いているんだと思ったのだ。あきらめたを持ったまま、やっている仕事は楽しくなかったのだ。それに加えて山田の偉そうな態度が特に目についたのだ。
「それでもやる気をもってやっていたんです。それでも山田のパワハラに耐えられないとしてやめる人も多かったんです。黙って見守っているしかなかったのかもしれないです。標的になったら最後とも言われてましたから。」
「よくそんな人のところでしばらくとはいえ働けましたね。」
「なんででしょうね。感覚がマヒしていたのかもしれません。もしくはそこでやっていかないといけないという思いもあったのかもしれないんです。」
改めて残酷な現場にいたのだと実感したのだ。北見が出会った中で3人は異色のようにしか思えなかったのだ。宗はソファから立ち上がった。
「俺は以前、大学生の時ですけど、誤認逮捕されたことがあります。」
「貴方がですか?」
「生い立ちの所為もあるかもしれないですけど・・・。養護施設で育ったうえに元刑事の養子となったらそりゃ下手でも疑いますよね。」
疑われたことがあったとしても名誉までは回復まではいかないこともわかっていた。だからこそ、探偵事務所を転々とすることでわかることもあるのだと思ったのだと。




