線となして
「そのパワハラもなかったことにしようとして示談にしたかったようだけど、これは長引いてしまっているんだ。それも示談金も払っていないから解決していないんだよ。」
「公になってなかった理由はなんだと思ってるんですか?」
マスコミが興味をもっていなかったに過ぎないのだ。奏斗はふっと椅子から立った。龍哉の資料を見るためだと思う。奏斗はパソコンの前に座っている時間のほうが長いために慣れないのかと思ったがそうでもないようだった。
「2人とも兄弟みたいだな。」
宗がそっと笑った。乾いた笑い声に聞こえてしまったのか、2人が心配そうにこちらを見たが、見えなかったふりをしてパソコンを眺めた。彼の中には決まったような答えがあるわけでもないが、2人を見ていると笑顔になる。
「山田剛三はかなり恨みを持たれているのに、逃げ道が作られてしまっている世の中が許せないです。俺みたいのが増えてしまった困るのに・・・。」
奏斗も苦い経験を受けてのことだからこそ思ってしまったのだ。奏斗はそんな人がいなくなればと思って此処にいるのだろう。少しでも経験が役に立つとかに限らずに奏斗のやりがいにつながっているのだろう。
「会社にとってはあまりいい印象は受けないからな。真っ先に受けるとすれば示談としたがるという感じだろうな。まぁ、示談っていうのは認めたも同然なんだけどな。認めたうえで金を払って解決へと向かわせるってところ。」
龍哉にとっては裁判の資料ほど大切なものはない。検事のデータを取っているようなものだ。それで勝てる道を導いて行けるものになっているのだ。彼にとっても此処に座っているだけなのは駄目だと知っている。
「此処で事件を解決するっていうことにはならないじゃないですか?」
「今回ばかりはそういうわけにはいかないっていうことか。」
宗は事務所を歩き回ってしまっている。それでも2人にはしっかりとした部分があったのだ。それを見る度にうれしく思ってしまうのだ。最初に事務所を作った時ではなかったような空間が出来上がってしまっているようにしか彼には思えなかった。
「大丈夫だよ。俺を甘く見てもらったちゃ困るね。ただ探偵事務所を歩き回っていたわけじゃないんだよ。腕を磨くために言っていたんだ。簡単じゃないがその分くらいはまかない切れている。」
複数のことが混ざり切ってしまっているのは事実だ。それでも前にあるのは1つ1つの点であったとしても線につながると思っている。




