声なき響き
奏斗はパソコンを操作していた。彼が待っているのは轟からの連絡だろう。予想している通りになっているのか、確かめたいのだと思った。
「龍哉、お前裁判はどうなったんだよ。」
「今の裁判はあっちが終わらせたんだ。賠償金を払うから大きなことにしないでくれってな。今回の山田の事件を通じて大きな出来事にしてほしくなかったみたいだ。だから朝飯前に終わってしまったわけさ。」
龍哉は面白くなさそうにいった。サンズの悪事をあぶりだしてたっぷりと取るチャンスが消えてしまったと思ったのだろう。だが、少なからず山田剛三という人間が何かをしているのが明らかになってくるだろう。週刊誌も黙ったまま指をくわえてみている連中じゃないことは知っている。
「奏斗、週刊誌を味方にしておけば得なんだからな。怠るんじゃないぞ。」
「わかってますよ。敵は厄介だけど、味方にするればそれなりのことが起こるんだって。」
龍哉はもったいないことをしてしまったとでもいうようにしている。紙きれになってしまった資料は彼にとっては別の裁判の材料にしかならないのだ。どんどんと裁判の依頼が来るわけではないのに、何処からかわかっているのだろうから。
「あとは宗の山田からサンズに変わった依頼だな。・・・複雑に構造の中に渦巻いているようにしか見えないのだ。政治家が過去にかかわった経緯がある会社なんてろくな事ないからな。」
「それだけじゃないさ。奏斗の探してほしいという前川総一郎だ。彼も何かしら絡んでいるだろうな。ましてや奏斗が恩人だと思っている人なら奏斗、お前が怒ってやれ。それくらいしても大丈夫だ。俺が守ってやる。」
宗は少し低いビルの窓を眺めながら言った。奏斗は宗を見ながら力強くうなずいた。何度も。何度も。龍哉は名前を聞いた途端に以前の裁判の資料を見つめ始めた。
「宗、名前は前川総一郎だったよな。」
「そうだ。」
「前川は警察や検察が追いかけている奴と同じ名前だ。だからきっとそいつは偽名を使っているとしか思えない。名前だけじゃわからないこともあるから、写真か何かないか。奏斗。」
龍哉が言うと即彼からパソコンにデータが送って来た。奏斗にとって思い出の写真なのだという。やめることを正式に伝えるとよかったなといってお祝いだといって小さな居酒屋で飲んだのだ。その時に撮った写真のことだ。誰でも言えることじゃないこともぼやくように聞いてくれたのだ。
「いい写真だ。きっと役に立つはずだ。」
「そうですか。」
悲しそうな寂しそうな声が彼の元から漏れた。




