闇となし
「あのころの遊びだったに過ぎないんです。そこで何処かのコンテストでいいところに残ったこともあってか、会社に入らないかって言われたんです。遊びの延長ができると期待をしていたんです。まだ、幼かったからですから・・・。」
奏斗はマスターから届いたコーヒーを即座に飲んだ。苦味と甘味と酸味の中にある何処かに埋もれているらしい新しい味を探った。会社に入れることがコンテストの副賞に近いものであったのはそれから数年後に知ることになった。
「会社に入れるというのが副賞になっているなんて明記されていなかったのは、いい人材がいれば受け入れる程度のようにしか思っていなかったんですよ。ベンチャー企業だと偽ったとしてもその当時は浮かれていてわからなかったですから。」
「そのこともあって、会社に入ったのか?」
「いいえ。母親はてっきり高橋小太郎の会社に入るものだと思っていたんですよ。高橋小太郎の会社はそのころもまだありましたからね。だけど、そうではなかったんです。」
奏斗の母親は高橋小太郎の会社に入ってもらうことを願っていた。高橋の会社は何処かで有名だったのだ。人材の扱いから何から何まで最先端を行っているにも関わらず、何処か謙虚な態度をとっていたのだ。強がった様子もなかったのだ。
「人となりも何となくですけど覚えているんです。教え方は何処か遠巻きに観察をしてその子、その子にあった対応をしていたんです。だから、よかったのかもしれません。」
奏斗は幼くして会社に入るまではプログラミングの教室に通っていていた友達と遊んでいたりしていたのだ。それがコンテストに優秀賞になり会社に入ることが決まると手の平を返すような態度になってしまったのだ。悪い噂が持ち上がったのだ。
「誰かが言い始めたんですよ。コンテストを金で買ったんじゃないかって。それが広まっていたたまれなくなってしまって会社に入ると同時にやめたんですよ。」
のちにわかる話なのだが、その会社の役員が広めたものだったのだ。奏斗が会社に入ることを許可した社長を許せなかったのだという。それでも入って来た時にはその役員はさっさとやめてしまったのだ。会社では有名で悪党の扱いをされている人間だったのだ。彼が入ってくることによる脅威を感じてしまったのかもしれない。社長が決めたのは新しい人材を受け入れることを決めてしまったと思ったのだろうか。
「俺はその時には全てを失っていました。それも気が付かなかったんですよ。」
まっすぐに見つめていた目は何時しか闇を導いてしまう結末になってしまうのだろう。




