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きれいな世界

依頼者への思いは人一番強いのかもしれない。それゆえに依頼者を守らないうえに脅すような探偵も見てきたのだろうか。

「お前、俺が探偵事務所を転々としていたと知って何度か引き戻そうとしただろ。わかっているんだからな。まぁ、言えば所長が思ってくれたんだろうけど・・・。」

「だって、お前が悪いわけじゃないんだ。警察が初動捜査を誤っていたと認めたじゃないか。だから・・・。」

宗は村上の言葉に少しあざけわらったような顔をした。その顔はいたずらに成功した子供のような愛らしいものだった。彼は幾度、その笑顔を見せてきたのだろうか。明光には見せていたのだろうから。

「あれは警察が権力に屈したからあんなことになっただけだ。・・・少し内部のことに深く入ったが故になったことだ。親父から聞いたら当時の刑事部長はろくでもなかったとか言っていたから。その人がある程度上になったと考えるのが妥当ってもんだよ。」

「それって政治家がかかわっていたってことか。」

「そうだよ。お前が気になっているだろうが、轟勇について調べたのは元公安ってわかったときに大概反感を買って外されたと考えるほうがいいんだ。恐らく、上に突っかかったんだな。同じ公安の人間の死すら隠ぺいに走ったことに・・・。」

彼から語られるのは政治家と警察のあっけないほどの関係だった。宗自身、誤認逮捕されてたほうがむしろ組織の動きを見ることができると思ったのかもしれない。わざとではなく、巻き込まれたという感じのいい方をしていたから偶然ではなく必然だったのだ。

「俺を今でも煙たく思っている警察や政治家連中はうじゃうじゃいるんだよ。それくらい飛び込んだからな。きれいな世界にな。」


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