伝えるべきもの
村上は話すだけ話して終わるとそそくさとかえってしまった。去り際にカフェで頼んだコーヒー代くらいは払わしてほしいといわれたので払わせておいた。村上のいる事務所はゆとりがあるといえるほどの依頼もあるので行けるのだろう。それに加えて笹田に会っていたとすれば所長も許すのだろう。村上と別れた後に歩道をのんびりと歩いていた。騒がしい街並みを見る度にのんきに過ごしているようにも思えてならなかった。事務所に帰る道も帰るほどの気力もなかったのでそそのまま帰った。一応にドアをノックすると見覚えのある人がソファに座っていた。
「あら、かえって来たの。しゅうちゃん。」
「はい。・・・真由美さんですよね。北見を紹介してくれたのって。」
「そうよ。何時もの仲介料をもらいたくて来たら、りゅうちゃんとかなちゃんしかいないから寂しくって待っていたのよ。」
彼女はスナック「優美」のママの古谷真由美だ。事務所のすぐにしたのスナックをしていることもあって依頼者を紹介したら仲介料をせびるようになったが、金額が微々たるものなので容認しているようにしている。
「もし多額の金額を要求したらどうなるか、わかってますもんね。」
「そうよ。取りすぎたら民事を起こすっていうんでしょ。物騒で仕方ないもの。・・・そういえば、北見とかいう人、最初は話したがらなかったの。別に言うことじゃないとかいって。」
それでも話す気になるまで時間がかかったのだ。北見がスナックに入って来た時から何処か物寂しそうに感じてしまったのだ。それがずっと気がかかりだったのだ。
「信頼できる人がいるからとかいって何とかいって話してもらったのよ。そしたらサンズで証拠もあって警察も動いたっていうのに会社がおとがめなしにしたって聞いてね。それでしゅうちゃんなら動いてくれると思ったのよ。」
真由美は探偵事務所と弁護士事務所を別段、詳しく知っているわけではないのだ。真由美自身、以前会社でひどい目に遭ったこともあったのだが、誰も言えずに泣き寝入りをしてしまったことがあったのだ。そこで良心的な事務所があれば協力したいと思ったのだ。そこが普及すれば少しでも泣き寝入りする人が減ればと願っているのだ。
「それにしてもしゅうちゃん、出て行ったと聞いたときから長かったんじゃない?」
「前の探偵事務所の人間に会っていたんですよ。・・・俺が断っても来てほしいって声をかけてくるんです。」
「それほど腕があるっていう証拠じゃない。みんな、わけあって此処にいるだけで腕は確かなんだからね。」
彼女は納得させるように笑顔でいった。




