落とし穴
公安というのは警察の中ではある程度はエリートといっていいほどの立場であるはずなのだ。それなら何故、捜査二課になっていて調べていたのか。失態でもしたのだろうか。村上はそう思って大学ノートを見た。そこには轟勇と書かれていた。字は幾度となく見た、宗の少し角ばった特徴的なものだった。轟のフルネームを知っているのだと。轟は大学を卒業後、警視庁に入った。警察学校の成績はすごいよかったわけでもなかったのだ。警察学校での成績が主席だった人物があっさりと悪事を働いたのだ。あまりにもその時に印象が悪くなったとしている。
「主席だった人が悪事を働いたってことになってます。」
「その時の警視庁の警察学校は厳しい教官もいたけど、甘く見た教官もいたらしいのよ。そこにいたっていう話で・・・。交番勤務の時に確か顔なじみの小さな商店のレジにあった売上金をとったのよ。動機としては、まぁよくある話のギャンブルなの。交番勤務をしていてもストレスがたまったうえに吐き出し口がなかったみたいなの。」
その人は一時は塀の中にいたらしい。今は社会復帰したといってもいいのだろうか。家族との縁も切れたことも彼にとってはよかったのだろう。プレッシャーに耐え切れなかったところにギャンブルにはまったのかもしれない。
「だから、その時の警察学校の同期の人たちを不運の時代とか周りは言ったみたいよ。どう考えてもよく思われないわよ。同じことになるじゃないかって思われてしまってね。」
彼女の言い分も分かった気がした。轟にとって思わぬ落とし穴にもなったのだろうか。




