笑みとして
探偵事務所にいるだけでただでさえ胡散臭いと思われてしまうこともしかりだ。それでも探偵という職業はやめられなかった。1人になったとしても続けていることもあるだろう。
「村上にとっては探偵をして長いじゃないのか?」
「まぁな。それも所長のおかげだよ。家族のためにとかいってさ、時間を割いてくれるからだよ。野暮用に付き合わされるのも結構疲れるんだよ。めったにない仕事じゃない。頻繁に起きてしまうものだからな。」
村上は今の野暮用のことすらも忘れてしまって久々に会えた笹田と話すことのほうが大切だというようにしている。彼はまだ話したりないからといって知っているカフェへと行かないかと誘ってきた。笹田はそれにのって一緒にカフェに行くことにした。村上のいる事務所には今でも依頼が舞い込むので人手が足りないといって嘆いているらしい。嘆いたところで増える職ではないことも理解している。カフェを出て歩道を歩いた。街並みは小さくても変わっていくのに変わらないことも多くあったりするのだと改めて思った。
「所長が言っていたぜ。いまだにあの事が引っかかっているみたいでさ。」
「俺が疑われたことか?」
「そうだよ。お前がするはずがないっていったところで刑事たちも無視しているようでさ。それも探偵というものをしているからなおさらっていう感じで・・・。うんざりしなかったか?」
「したさ。したところで探偵以外にしたいと思う仕事がなかったんだ。俺なんて養護施設で育って何も目的がなく生きていたんだから。」
村上は笹田の言葉を気にするように顔を見ていた。顔色を窺ったところで変わるわけでもないことを村上はわかっていた。探偵事務所をやめるというを独断で誰にも相談しなかったことで事務所内が何処かピリピリとしていたのを思い出した。誰もが引き留めようとしても決めたことに対しての意思は固かった。そこの探偵事務所をやめても別の探偵事務所で点々とされるのはいづらさを感じてしまうことがあったのだろうか。
「お前の親はいったいどんな人か聞いたことがあるのか?」
「ないさ。養護施設の人もそれに関しては話したがらなかったんだよ。それだけは駄目だというようにして俺を少し避けたからな。それっきりだ。最近はいってもいないな。」
「かえってやれよ。寂しがっているんだろうしさ。」
「そうでもないさ。新しい子供が増えて困っているのに、以前いた子にまで気にかけないはずだからな。」
笹田はそういってビルの隙間に吹いている風のように狭く細い笑みを浮かべた。




