封じた書物
雑居ビルに付けている看板としては豪勢なものをつけていた。それはきっと最初の時より金周りが良くなっている証のようなものだ。劣化をしてことを大きくするよりもいいことだと思った。川城探偵事務所と書かれていた。雑居ビルということもあってか、管理人もあまり機能していないことも明白だった。勢いよくドアがバタンとなった。私服のどう見ても学生にしか思えない男性がそそくさと階段を駆け下りた。
「おい、他人を巻き込むなっていっているだろう。」
大きな声で注意をしている様子がうかがえるのだ。それでもほっとしたような顔をしていたのだ。宗と顔が会うと少しうれしそうな顔をした。
「なんだ。お前のほうからくるってことはよほどのことが起きたんだな。所長がいるから会うか?」
「そのために来たんだ。村上はあれか。後輩の指導もしているのか?」
「まぁな。俺は一応は野暮用じゃ指導係だよ。それは野暮用だけにしか過ぎない話だ。・・・中に入ったほうがいい。こんなところで立ち話をしすぎると目立ってしまう。」
彼はそういってオフェスへと誘導していった。宗がいたときとは違っているようで変わらないところもあって落ち着くものがあるのだ。部屋の奥には一応所長室があるのだが、大概は必要とされていないのだ。川城は状況を判断するほうがいいといって部屋から出てきてしまうのだ。それを見てはたびたび笑ったものだった。応接室はないためにソファが無造作に置かれたままになっているのが応接室の代役といったところだ。
「あら、笹田君。来てたのね。」
「はい。予定より相手の状況が早まったものだからね。やっぱりキチンと契約をしたうえで村上と行動するのがすべだと思っているので・・・。」
宗はソファに座るとパソコンに向かっていた女性がすっと消えてコーヒーを入れ始めた。行動には堅苦しさもありながら決まっていることだともとれるような行動だった。
「貴方だからいいのよ。手の内すらも明かしたくない探偵事務所はざらにあるわ。けど、貴方は此処にいたという記憶が余計にそうさせてしまうのね。あれさえなかったらこんなことにもならなかったじゃないかって思うのよ。」
彼女はそういって窓から見える町の喧騒を見ていた。そこには善と悪だけでは終わらないところで揺らいでいる人も含まれているのだろうとしか思えなかったのだ。
「いいんだよ。過去の話はね。」
「そんなことないと思っているんだけどね・・・。」
川城は寂しそうにつぶやいた。




