遮られた線
春香は村上が宗が誤認逮捕されたことを知らぬままにいたらまずいと思ったのだろう。
「まぁ、警察も凝りてくれればいいんだけど反省もなかったから新しい誤認逮捕は生まれるんだよ。現実ではね。」
「仕方ないわよ。組織のためなんて都合のいい言葉しか言わないもの。お母さんだってそのことを知っているの。事件が起きないと動かないのは傲慢だとしか思えないもの。」
彼女にとって警察としての定義が事件が起きなければ動かないというものが疑うことなのだろう。本当に守るべきものを判断をミスしてしまった時に切り返しすらなくなってしまう恐れすら感じてしまっているのだ。
「春香さんは笹田が誤認逮捕されたことを知っているんですね。」
「そうよ。お母さんから聞いたもの。・・・そこから探偵事務所を転々としていることも知っていたの。だから此処で事務所を開くようになってよかったと思っているの。」
「助けてもらってばかりだから何も返せていないけど・・・。」
村上は此処に連れてこられたわけがあるのではと思った。龍哉と奏斗も来る前提で声をかけていたことも含めると大きな決断としか思えなかった。村上はそっと宗を見つめた。
「何かを言うために此処に来たんだろ。いったらどうだ?」
「さすがだな。村上。2人もそのために来てもらったんだ。」
ワイングラスにかすかに残ったワインを何処かあおるようにして飲んだ。飲んだというよりかは飲んだふりをしているようにしか見えなかった。
「俺は今回の事件を受けて増岡勉に会ってみようと思っている。そこに村上も来ないかっていう話だ。」
「俺は構わないが、話ができる相手じゃないぞ。区議会議員か何かをやっていた経歴があって今でも糸を引いているのではないかと噂がある人だ。」
増岡勉の屋敷に入り込むことすらいくら探偵と言えど難しいことであるのは事実だ。裏には裏社会で通じている人間の1人や2人いやそれ以上いても可笑しくないのだ。そんな人物と会うだけの情報は得られるのかということもあるのだ。
「大丈夫だ。脅しのネタくらいはあるさ。・・・それを提示されれば親なら困るはずだ。」
「単純な人だとは思わないけどな。」
「子供が殺されているとしても何も言わないところを見ると自分の地位しか考えていないんじゃないのか?」
増岡勉はいまだに康太についてテレビや週刊誌で表立って語っていなかったのだ。それは不自然なほど口をつぐんでいるとしか思われていないのも事実だ。




