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歩き始めた1歩

春香は真由美の言葉に喜んで注いでいたワインを飲み干してしまった。珍しい行動だったこともあって真由美も心配そうにしていたのだ。

「私ね、いずれは此処を継ぐつもりでいるの。お母さんが苦労したのは十分に知っているつもりだし、会社員として働いていたとしても目先ばかりに目をやってしまうことを考えたら此処を継ぐほうがよっぽどいいと思うの。」

「いいわよ。その点は貴方の自由ってことになっているんだから。会社にはキチンとけりをつけないといけないわよ。」

真由美は以前勤めていた会社を中途半端にやめてしまったことがあったのだ。それもこれも元旦那が犯したことによるものなのだが、今の当の本人はいったい何をしているのか知らないままだ。会う気すら起きないのだ。春香に会うことさえ裁判で会わせないようにしていたのだ。

「春香さんってアクティブなんですね。」

村上からそういう問いかけをもらうとすっとした表情をしていたが、ぱっと明るい表情に変わった。

「それは違うの。私はただお母さんに恩返しをしたいだけなの。それは此処を継がなくてもできることだってあることも知っているのよ。それでも同じようなことをしていないと返せない部分があると思っているの。」

彼女は力説するかのようにいった。会社に入ることはあくまで社会勉強だと言い切ってしまっている以上はそのつもりなのだろうと思ってしまったのだ。宗はその姿を見ながら思ったのだ。旦那のことで悩んでいた時とは全くといっていいほど環境が変わったのだ。立場もどちらかといえば上になっているのだ。

「真由美さん、元旦那さんから妙な事は来ませんか?」

「来るはずないわよ。だって、私のスナックの上に探偵事務所と弁護士事務所が併設されているところがあるのに下手なことをしたらまずいって思っているんでしょうね。浮気をしておいて都合よく寄り戻そうなんて思うのが間違いなのよ。恥を知らないからそんなのんきなことが言えるの。裁判をしてはっきりしていることもあって頼ってこないわ。」

権力がある人物に手を出した挙句の果てといったところだろうか。それでも一抹の願いといってもいいほど思っているのだろうか。それも戻れない現実と葛藤しているのだろうか。村上はそっとあくびをした。飲んだこともあって眠くなってきてしまったらしい。

「村上さんってしゅうちゃんが誤認逮捕されたことを知っているの?」

春香は心配そうに聞いてきた。知らないままならきっとあとで悪い目に遭うと思ってしまっているようだった。

「知っているよ。俺がいた古株の探偵事務所だから。」

「よかった。」

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