出発点
龍と人は聞くと架空の生物だと誰しも思ってしまうだろう。架空の生物を作り出すのは毎回人間であることだというのを忘れてしまうのではないだろうか。だが、それを忘れさえてしまうほどの出来事が起こることも事実なのだ。それから逃れたいと思うのもまたしも人間だからだといってしまえる。そんな出来事が起きてしまう現実にもたたえないのかもしれない。
ある人物はさびれた街並みに一体化したようにとぼとぼと歩いていた。おいてある看板さえも見えなくなっていたが、ある看板に気づいて入ってみた。
「いらっしゃい。」
「どうも。」
「まぁ、固くならないでよ。そんな堅苦しい店じゃないんだから。」
そういって彼女はお酒を聞いてきた。彼女に此処は何かと尋ねると、不思議そうに顔をかしげながら言った。スナックだと。彼女は付け加えるように言ったのだ。優美という名にしていることもあってか、自分の名前か娘の名前かと問われるのだというのだ。最初のころは嫌だったが今はそれすら楽しくなっているのだという。
「此処のスナックの名前は優しいと美しいと書いてゆうびと読むのよ。意味を知っている人が少ないのよね。辞書を引くっていう面倒なことを嫌がる人のほうが多いでしょ。だからよ。」
彼女はそう笑って生ビールを出してくれた。スナックの名前に優しいという字が入っているのは確かなのだというのを感じてしまった。
「貴方、何か悩んでいることでもあるの?」
「どうしてそういう風に思われるんですか?」
「こういう仕事柄っていうこともあってかね、人の顔色を見るようになって悩みを抱えている人の悩みを聞くことに慣れてしまっているからかしら・・・。残念な部分かもしれないし、私の単なる思い違いかもしれないからさっきのことは忘れて頂戴。」
そういって彼女は逃げるように言った。彼には思い当たる節があった。それは誰にも明かしていないことだった。いや、明かしていたが、誰も相手にしてくれなかったというのが正しいのかもしれない。それに気づいてくれたことに対する喜びと何か余計なことに巻き込んでしまうのではないかという恐怖を感じてしまったのだ。
「貴方には関係ないことです。」
「そうでしょうね。私の知り合いに腕利きの人がいるから、その人にでも話してみようかと思ったけど、単なる見当違いならいいわ。」
彼女はそういうと裏へと向かってしまった。彼にとっては賭けをしているようにも思えてならなかった。簡単に人は信用してはならないとある出来事から心底思ったのだ。