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この吸血鬼は日中行動可能です  作者: 椎木唯
第一章 蔓延る弱肉強食、根を張る吸血鬼
5/7

再会の約束

「……だから微妙に闘技場での反応が悪かったのか」


「そうです、すみません……どうしようも無い私はどうすれば……」


 学園敷地内、新入生の為の居住スペース。地図的には校舎に付随する形で繋がっているので殆ど寮的な場所にある。

 そこで、二人一部屋のヴェリルとクーリアの二人が真剣そうな表情で話し合っていた。両者とも浮かない様子で、クーリアはメイド服のスカートをくしゃくしゃになるほど握りしめ、悔いていた。その様子は人を殺めたのか、と思ってしまうのだがそんな事はない。


 そんな空気になったのは一重に、時間配分をミスった移動によって春の階級戦に挑むことが出来なかった為である。

 完全に間に合った、と意気揚々にヴェリルが突っ込んで行った先は生徒同士のいざこざであり、そりゃあ、変な男が入ったらブーイング起こるよな、と認識を改める。


 入学二日目で登校すると言った、不真面目な登場で幕を開けた二人である。


 重い空気をどうにかしようとヴェリルが口を開く。重い空気云々より、クーリアの挙動が若干おかしいのだ。妙に思い詰めすぎた感じが‘する。


「まあ、過ぎた事だし次の…夏の階級戦か? で、取り返せば良いさ。だから気にすんなよ、な?」


「い、いえ……私がもっと時間の配分を考え、効率的に行動すればヴェリル様の野望を叶える事が出来た筈なので……この始末は、」


 と、そう言ってどこから取り出したナイフを逆手に持ち、勢いをつけるクーリア。その光景を眺め、焦りながらヴェイルはベットから立ち上がる。

 いきなり目の前で心臓にナイフを突き立てる、と吸血鬼的死に方をしそうになったクーリアの腕を掴み、ナイフを奪い取る。


「別に死に急ぐ内容じゃねえだろ……お前は俺と違うんだからもっと命を大事に行動してくれよ……」


 と、そう言いながら奪い取ったナイフを…逡巡し、握り潰す。返すのも、保管するのも今度を考えると危ないと考えたからだ。

 何度か思ったがクーリア、俺と一緒にいる時間が長過ぎて死生観バグってる節があるのだ。直ぐに死のうとするし、直ぐに命で過ちを取り戻そうとする。俺と違って一個しかない命をそう粗末に扱うのはどうかなぁ、と思うが、結局、クーリアは死んでも俺が生き返らせてくれる。だから、その時は従僕となって誠心誠意従おう、と思っているのだろう。


 まあ、俺と違ってクーリアは普通に人間だからなぁ、とどこか難しい死生観に悩まさせられるが


「俺はクーリアが死んだら眷属化しないつもりだ。一応言っとくな」


 と、その言葉に絶望の色を濃くするクーリア。


「わ、私はやっぱり要らない子なのでしょうか…?」


 若干涙ぐんだ声で呟くクーリア。ぽすん、とベットに崩れるようにして座った。そのクーリアに続くようにして俺も隣に座る。


「要らないとか要るとかの問題じゃないんだよ。俺はクーリアと一緒に過ごす時間は楽しかったし、下らない軽口も以前は言い合える仲の奴なんて限られたバカしかいなかったら新鮮で、真新しかったんだ。でも、クーリアには有限で、儚くも、素晴らしい人としての人生を送って欲しいし、わざわざ眷属化してまで俺に縛り付けたくないんだ。……それほど、俺はお前を大事にしてるから」


「そこまでヴェリル様は私を思って…」


 優しく語りかける事でようやっと理解してくれたのか、ナイーブだったクーリアのテンションが戻って来た。


 さっきまで軽口を叩き合っていた仲だったのに…と、変貌ぶりに目を張るものがあるがクーリアと出会った時から情緒不安定な節があったのだ。最近はそんな節を見せないことで忘れかけていたが、ようやっと思い出すことが出来た。面倒は面倒だが…それ以上に一緒に居る事での楽しいが上回るのだ。

 決して楽しかった、とは言い難いが濃厚な期間を過ごした過去であるので、昔話に花を咲かせて、思い出を口に出してしまったら最後、クーリアのナイーブが再発してしまう。


 最小限の地雷原で済むように慎重に言葉を選ぶ。


「だから……クーリア。お前は帰って家の管理をしてくれないか?」


 その言葉を受け取ったクーリアは「え、役職御免? お役御免? 私、役立たず…?」と、絶望が入り混じった表情に変わる。

 全力で絶望を表現しているクーリアを落ち着かせる為に手を握り、語りかけるように説明する。


「別にお前が必要なくなった、とかじゃ無いんだ。ただ、俺はここから階級戦で戦って行く事になるし、その内学園を飛び出して他の領土で強い奴を探すことになると思う。まだ、学園内は良いが、他の領土は生死を賭けた戦いになる。そんな危険な場所にお前を連れて行く訳にはいかないんだ。分かってくれるか……?」


「…って事は私が邪魔だと言う訳では無く、私の身の危険を心配してって事ですか」


「ああ、そうだ! そんな訳だからお前には俺が戻ってくるまで家の管理を頼みたいんだが…」


 考えるクーリアである。先程までの自分の失態は許しを貰った訳であるが、その対価として頑張りを見せていない所である。だが、その頑張りもこれからの活動において生死が関わるものに変わっていくし、ヴェリル自身の考えとしてはクーリアには普通の人としての人生を歩んで欲しいというのだ。

 理解できるし、大事にしてくれてるんだ、と納得する。

 こんな面倒くさい性格の私を側に置いてくれるのはヴェリルだけであり、それならば全力で頼み事を遂行するのがメイドとしての役目である。


 と、考えが纏まったクーリアは以前の無表情の鉄仮面の様な無機質っぷりでは無い、多少の感情を織り交ぜた女性らしい表情に変わる。


「はい、畏まりました。では、私はヴェリル様の帰りを待つ中で自身の戦闘力に磨きをかけ、出会ったら直ぐに求婚したくなる様にお待ちしております」


 ヴェリルに対しては百点満点越えの回答をし、満開の笑みを見せる。


 そんなクーリアに胸がドキドキし、ドキがムネムネするヴェリルであるが一応としての主人としての形を保つ。


「じゃあ、プロポーズの言葉を考えてやるからしっかり待っててくれよな」


「はい!!」


 と、場面や形は多少違うが青春の甘酸っぱい恋模様を意図しない形で醸し出す両者である。ピンク色の空間になっていることに気付かない二人はその後、何個か情報交換し、今後の方針を決める。

 数十分ほど話し合い、じゃあ、お別れか。と、なった時である。ヴェリルがクーリアのナイフを壊してしまった事を思い出す。思い出すというかテーブルの上に壊れたナイフを放置していたので見て思い出した。


「ごめん、そう言えばお前のナイフ壊しちゃってたわ…」


「気にしないでください、予備は、ほら」


 と、申し訳なさそうに謝る隣のヴェリルから数歩離れるようにして移動し、スカートを持ち上げ、ご開帳する。そこにはガーターベルトに黒のタイツ、そこから見えるこれまた黒のパンツに、異様な存在感を誇るナイフがスカートの裏地に数十本単位で装着されていた。

 ああ、クーリアの今日の下着は黒なのね、と妙に冷静な心の中で永久保存版の記憶フォルダにデータを保存するヴェリルである。直ぐに恥ずかしそうに両目を手で覆いながら叫ぶ。


「ちょ、お前下着もろに出てるぞ!! せめて、隠せ!! 隠すか、武器はありますよ、で終わらせろ! 心臓に悪い…」


 と、視界を隠したことで先程のご開帳の記憶が流れ出す、閉じても天国、開けても天国と気持ちの良い板挟みにあっているヴェリルの内心とは真逆にクーリアはイタズラ心満載でゆっくりと近付いて来ていた。

 隣まで移動し、耳元に顔を近付け…


「…将来は貴方様のものなので、もっとじっくり見ていただいて構わないのですが」

 

 誘う様に呟く。



 爆発寸前である。

 生まれて、生きて百年ちょっとの年齢おじいちゃんなヴェリルの未だに脱せていない童貞心が「襲っちゃいなよ、向こうも誘ってるんだぜ?」と、悪魔の囁きをしているが全力で無視し、理性を保つ。

 野獣の心の代わりに表に出たのは紳士の精神である。


「と、取り敢えず隠せ! 武器はある事分かったから、じゃ、じゃあな! 期間はまだわからねぇけど…早めに帰ってくるから」


 そして言い逃げである。

 逃げる事は恥だが、リセットである。こんな状況の異性程強敵なものはないのだ。そんな雰囲気をヒシヒシと感じながら、脳内に張り付く映像にムンムンとしながら寮の中を見て回ろうか、と気持ちを入れ替えるヴェリルである。


 一方、部屋の中に取り残されたクーリアは…


「……お待ちしております」


 そう、寂しそうに呟いていた。

 さっきまでスカートを捲り上げていた人間とは思えないほどの変容ぶりである。


 まあ、逃げたヴェリルと、どっこいどっこいの人間性である。


 気持ちを入れ替え、帰り支度をするクーリア。と言っても持ち物は殆どなく、学園に来る際に背負っていた荷物はほとんどがヴェリルの着替えや、諸々の荷物である。道中で野宿する為の道具も入っているのでそれは持ち帰ろうか、と考えたが…まあ、学園生活でもしかして野宿するかもしれないな、と考えそのまま入れて置く事にする。

 って事はクーリアの荷物は無く、替えの下着数枚とメイド服何着かが一応の荷物なのだが、謎の発想で私を忘れないように、との考えでそのまま入れて置く事にする。

 野宿のテントとか、様々な道具は確かに必要になる時はあるかもしれないが…未使用のメイド服と下着類が必要になるときは何時なのか。クーリアが去り、下着類を見つけたヴェリルが不思議そうにするのはもう少し先の話である。






・・・・・・・・・・・・



 そんな荷物の中にとんでもない爆弾が潜んでいる事にまだ気付いていないヴェリルは悠々自適に寮の中を探索していた。

 まあ、探索といっても居住スペースなので扉があって、道があって窓が適度な間隔である位しか発見はない。たまに扉をデコっている居住者もいるが…まあ、大体が女性であるのでヴェリルは声を掛ける事は無いだろう。


 冷静に考えると少し滑稽だが、ヴェリルの目的は「強い女を見つけ、結婚する事である」結婚する為に学園まで来て、強い奴と戦う為の階級戦に間に合わず、色々なんやかんや問題が起こったとなると面白いものがある。

 百歳超えたおじいちゃん年齢であるが、精神年齢は未だ衰える事なく花のセブンティーンなヴェリルであるので盛大なロリ野郎、とそんな事は無い。花だって枯れた花より、瑞々しい花の方が良いでしょって話だ。


 窓から見える景色に庭師の心遣いを感じながら歩いていると所々で視線を感じる事に気付いた。最初は珍しい白髪にでも気を取られているのかな? と、思っていたのだが視線はもう少し下で、丁度顔面を見ている位置になっている事で理解する。


「(確かに俺、そこそこに面の整った美男子だからなぁ…まあ、俺には有象無象に興味がないから意味ないけどな!!)」


 さっきまで女体…とまではいかないが生々しい部分を見て照れていたチェリーボーイはどこに行ったのか、強者の女以外は道端の小石と同義だ! と吐き捨てながら歩いていると向かう視線が別の方向に向かったのに気付いた。

 おっと、俺以外のイケメンとエンカウントするのか?  と、変に有頂天になっていると…妙に聞き覚えのある、記憶に新しい姿が正面から走って来るのが見えた。

 確か彼女は…


「ヒイラギ…だっけか?」


「お、おう!! そうだぜ! 覚えてくれたんだな、ヴェリル君!! 私、嬉しいぜ!!」


 と、結構な勢いで走って来て、目的は俺だったようで二、三歩まで急停止した。なのに息が乱れる事はなく、普通にしているので普段から結構なトレーニングをしているのだろう、と想像する。

 まあ、白と金といった妙に騒々しい柄のブレザーを肩に掛けるようにして羽織り、わざわざ肘の辺りまで捲ったワイシャツから見える腕を見るにそこら辺の男よりかは太い腕であることが見えるのでトレーニングの件は当たっているだろう。


 そこまで判断し、ジロジロ見ていたことで妙な警戒心を抱かれたのか、ブレザーで隠すようにして前部を隠すヒイラギ。


「な、なんか変だったか…? 結構、私なりにカッコイイ着方だと思ったんだけど…。あ、でも、ヴェリル君のワザと制服を着ない、そのファッションもカッコイイと思うぜ! 何か浮浪者みたいで」


 そうか、カッコイイのか。…ワザと?


「いや、浮浪者はカッコ良くねえだろ…てかさ、ワザとってどういう事だ? 制服は部屋になかったと思うんだけど…」


「あ、ワザとじゃないんだ…。いや、浮浪者ってカッコ良くないか? 響き的に…」


 ああ、響きで判断してるのね、と若干その判断をするヒイラギに合点がいく。

 この場で話すのも何だし、少し歩かない? と提案される。


「制服もサイズとかあるだろ? だから、簡易闘技場…あー、室内運動場か? で、採寸あって、それにあったサイズの制服が渡されるんだって。入学者に全員配布だから太っ腹だよな〜」


 そう語るヒイラギであるが、その渡された制服を女版番長のような雰囲気で着ている姿に「それ、想定された着方じゃないだろ…」と、思いつつも言えずにいた。

 だって、嬉しそうなんだぜ? 制服。その目をキラキラとさせた状態のヒイラギに「番長みたいだな、それ」って誰が話し掛けられるんだよ。と、思ったが、浮浪者の語呂がカッコイイと言うヒイラギである。寧ろ番長みたいと言われたら嬉しそうにするだろうな、と容易に想像がついた。まあ、言わないけどな。


 話しながら、制服の採寸の場所まで向かう流れになった。流石に浮浪者と言われてそのままでいられる程心が強くないのだ。ヒイラギには「え!? その格好止めるの!? カッコ良いんだけどな…」と、少し止められたが俺の番長姿を想像したのか寧ろ、歩くスピードが上がった

。残念だけど、俺は普通に着るけどな。流石に入学初日で番長スタイルはヤバいでしょ…いや、絡まれそうって点で考えると逆に良いのか…?


 と、多様性について考えていると、室内運動場に着いていた。室内、と名前が付いているので屋根があり、想像以上に広い空間になっていた。広さだけで言うと昨日の闘技場より二倍ほど大きい。何、ドラゴンでも飼ってるの? と、そう思ってしまう程の広さである。


 同じような考えのものがいるのか、それとも校則なのか結構な人数が採寸の列に並び、制服を受け取っていたが俺達が到着すると…目に見えて分かる感じで列が開けた。

 それぞれの表情から完全に怯えている事が見える。もしかして…と、隣でルンルンと上機嫌で説明を挟んでいたヒイラギに質問する。


「なあ、お前…昨日の闘技場で戦ってた理由ってさ、お前が元凶? やらかした?」


 そう言われ「えっ!?」と、何で分かった? そう言わんばかりに驚くヒイラギの表情から楽しさが消えた。

 もじもじ、と言い辛そうにしていたが、決心が着いたのか口を開いた。


「その、ちょっと…気に入らなかったら決闘しようぜって言っちゃって…」


 と、その時の内情を話し始めたヒイラギ。まあ、弱肉強食。強者が絶対的な優位になる学園で、その流れはまあ、何となく理解できるけど…と、話の中で理解を示す。が、それでここまでのモーセレベルの道開きは起こらないでしょ? と、思っていると言葉の最後に


「…を、生まれてから今に至るまで数え切れないほど」


「…え!?」


 そんな驚きをそのままに、採寸が始まった。


 胸部、腹部…と、服を脱がされ測ってもらっていると嬉々とした表情のヒイラギが個室で区切られたスペースを覗き込んでくる。その後「あ、ごめん! 間違えちゃった!!」を数度繰り返していたヒイラギは十回を超えたあたりで係の人の注意に渋々、従い難儀を得た。まあ、その時には採寸が終わってたんだけどね。


 おニューな制服に身を包み「あの、この衣服はどうしますか?」と、係の人に言われたので浮浪者の過去を撤回する為に捨てる事を決断する。


 今、ここにいるのはヒイラギと同じような番長スタイルのヴェリルであった。結局ね、階級戦に挑めないなら、強い奴が向こうから来るのが良いよねって理由で番長スタイルを取ったのだ。ヒイラギの尊敬の視線が痛いのなんのって。


「ヴェリル君すげ! かっけ!! やべえ!!」


 とのヨイショを全身で浴びながらヒイラギ主導の元、学園を探索する事になった。学園、と言われているが箱庭である。世界の縮小版であるこの場所は様々な店が立ち並び、学生なの…? と、疑問に思ってしまう程のおっちゃんおばちゃん。そしておじいちゃんおばあちゃんが存在する。そこまで学業に真剣なのね、って訳ではなく、基本的な学園のシステムとして卒業は個人の自由であるので死ぬまで在学も可能って話である。


 これが箱庭って言われる所以なのか…と、見て周りながら認識する。もう、学生って身分の国民でしょ。っと、認識になる。

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