3 プロローグ的なの終わり。
どうやら新入生入学と同時開催の階級戦…今は春か。春の階級戦に間に合う事が成功した。一時は間に合わないとクーリアとわきゃわきゃ言いながら急いでいたけど…まあ、報われてよかったわ。
今度は普通に乗り物とか夜に移動しよう、と決意する。
見た感じお遊び感が拭えないがまあ、箱庭である。本気でやって闘技場の『死なない』の効果を超えてしまったら元も子もないだろう。って事は…武器無し、の素手で戦わないといけないのか。
ちょっと、若干の憂いが残るがグリアの声援を受け、観客席から飛び降りる。戦いの流れ的にヒイラギの負けが決定しているので俺が相手するのはグロリアか。
判断し、グロリアの方に向け歩みを進める。気分的には最終局面、死にかけの状態で助けに来るヒーロー的な感じである。まあ、その場合の敵が女性なのでなんとも言えない気の抜けた感じになってしまうが…まあ、それが階級戦である。血で血を拭い、武器と武器、技術と技術の攻防で高みを目指し合うのだ。初戦はほんわかした感じで始まるのもイイよね、と。リラックスしながら近付く。
謎に喧騒が目立ち、戦っている二人の視線がこちらに向かうが…え、参入の仕方ってこれじゃなかった? もっと派手な登場の方がいいのかな…? いや、新入生って枠組みだから謙虚な方が良いよな。
妙な視線を受けながら距離、数メートルって所まで近付く。そこで騎士ーーグロリアが口を開く。二人の体勢的に命乞いをする村人を無常に剣で突き刺そうとする感じなのだが…えっと、こんなに善悪はっきりとした階級戦なの? 学園って。
「…その様子からするとお前もこの女の仲間、参入者か」
「参入者? お、おう、そうだぜ」
どうも気の抜けた反応で返してしまい、反応がいかんせん悪いことに気づく。いや、何? 参入者って受付とかでエントリーシート書くわけじゃないよな? こんな感じでいいと思うんだが。
巾着状態で双方が視線を合わせる状況が数秒と続き、流れを変えたのは今まで倒れていたヒイラギだった。
「よ、よう! 助け遅かったじゃねえか! グロリア、そんなに人助けがしてぇならこいつも実力で黙らすしかねぇぞ!!」
と、そう言ってこちらの方まで来る。
小声で
「す、すまねぇ。会話合わせてくれるか? 少しの間時間を稼いでくれればオレが何とかするからよぉ…」
と、耳に口を近づけて頼まれる。
えぇ…? 階級戦って協力対戦ありなの? と、よく分からないルールに驚きながら、まあ、でも勝てば良いだろう。と、結論付ける。肩で息をする、体力の限界なヒイラギに任せろ、の意味を込めて口を開く。
「時間稼ぎじゃなくて、俺が終わらせてやるよ。ざっと…30秒いかないくらいか? 短い見せモンだけど特等席で休んでろよ」
そう言うとヒイラギが呆気に取られた表情を見せる。…あれ、意外とコイツ美人じゃね? と、そんな意外な発見を見つけてしまうがヒイラギの豪快な笑い声に掻き消される。
「はっはっはっ! お前、おもしれぇ奴だな! まあ、期待はしねぇけど言葉に甘えさせてもらうわ!」
背中をバンバンと叩かれ、言葉通りに休むのか数歩下がってどかっ、と地面に座った。えー、めっちゃタイプなんだけど…実力はそこまでなかった感じだけど。
任され、目の前のグロリアに視線を移す。
数分前の攻防を見ていて分かったのだがやはりお遊びであり、少しの駆け引きは見られるがそれもじゃんけんの時に「俺、最初グー出すから」的な感じなのである。本物はそこから関節技を決めるだろう。駆け引きとは。
だが、そんな感じであるのだ。
一応試合の中であるのに対し、なんのアクションも起こさないグロリアに不信感を抱きながら、一応、近付き宣言する。
「ヴェリルがグロリアに挑む。よろしくな」
「…ああ、よろしく頼む」
グロリアは剣を構え、ヴェリルを睨む。
・・・・・・・・・・・・・・・
なんだこいつ、と思ったが、妙な安心感を感じ共闘を持ちかけたのだが…返されたのは「休んでろ」だ。オイオイ、相手はこのヒイラギさんだぞ? 剣武術の有段者だぞ? と、舐められた事にイラつきを覚えたが、それ以上に面白い。頼もしい、とそう感じたのだ。
白髪で、妙に目が赤いイケメンだなぁ、と思ったがその力強い視線に心を打たれたのだ。ああ、コイツなら任せても良い、話を聞いてやっても良い、と。
だから直ぐに助っ人に入れるように近場で座り、見ていたのだが…
圧巻だった。
良い意味で期待を裏切られたのだ。オレが圧倒され、翻弄されたグロリアを赤子をあやすかのように手玉に取り、翻弄し、遊ぶように攻撃を当てていくその様はとてつも無くカッコ良く、何時の日か追い求めていた尊敬していた父の姿を重ねていた。まあ、比べると圧倒的に父が劣ってしまうが…。
が、目前で繰り広げられるものはオレが追い求め、憧れ、恋焦がれたものだった。
オレ、今日から女になります!!
だが、そんな戦いもながくは続く筈もなく、宣言通りの30秒程でグロリアの剣を避け、剣の腹を殴って無力化し、降参の言葉を引き出したのだ!!
やばい、強い、かっこいい! そんなヴェリル伝説が目の前で起こったのだ、惚れない筈がない。
だが、直ぐに大好き! と、飛びついてもヤバい奴である。じっくりと、外堀を埋めるように近付いてゲットするしかないだろう…その為に、手始めとして。
「ナイス! ヴェイル君めっちゃつえーのな! 最高だぞ!!」
「お? おう! 任せろっつたろ?」
勝ったヴェイルの肩を抱き、全力で喜びを示す。
ヴェリルが勝った事も確かに嬉しいが…一番は戦い以外の楽しみを見つけられた事が嬉しさ満点である。
一方ヴェリルは
「(これって、コイツ俺の事好きだよな? マジか、モテ期、ここで来ちゃったか…)」
全身でヒイラギからのラブを感じ取っていた。