慢心、それが彼女の特技です
合計三種の階級戦の表彰式が終わり、解散となった階級戦であるが…案の定、新入生でありながら白銀の階級戦チャンピオンになったグロリアに好奇の視線が向けられていた。向けられるどころでなく、決して少なくない人数に囲まれ、揉みくちゃになりながら話を聞かれていた。その光景はまるで、不祥事を起こした芸能人を取り囲む記者たちのようであるが…まあ、雰囲気はそんな感じなので似たようなものである。
「し、新入生であるのに白銀のチャンピオンになった感想を頂いてもよろしいですか!?」
「ハルバードを用いた奇襲の戦法に度肝を抜かれました! どこの流派の戦い方かお聞きしても…」
「その美貌、その強さ。来る手数多だと思いますが…実際のところはどうなんですか?」
なんとかかんとかエトセトラ…。
様々な種族、老若男女に囲まれ、問いただされるその姿はもう既に空腹の動物に餌を与えるような感じで、グロリアの少し引いた冷め切った表情とは違い、時間が経つに連れ、押し寄せてくる質問は徐々に熱量を増していく。ミツバチかな、とそう見間違えるほどである。
なんて返そうか、と悩んでいたグロリアであるが、最中で目当ての人物を見つける事に成功し、人混みから無理やりに出る。流石に話を聞く、とその建前で集まっている人達なので渋々といった感じで道を開ける。だが、視線はグロリアから代わり、グロリアが声をかけた人物に移る。
「ケイン殿! よ、よかった…流石にこのまま揉みくちゃにされたら私でもスムージーのなるかと思っていたところで…」
と、そう声を掛けながら見るからに怪しげなフードを被り、表情の分からない男性に近づく。
見た目が分からない人物であったが、グロリアのその言葉に反応し、呆れたような声を出す。
「スムージーか…やっぱ、お前はいつになってもグロリアなんだな。まあ、場所もなんだし変えるぞ。着いて来い」
何故スムージー=グロリアになるのか甚だ謎な老若男女一行であったが、その問いは見つける事が出来ず、移動する二人を見送る事で一連のお祭り騒ぎは終焉を迎える事になる。
残った一同はお互いに顔を見合わせ、突然現れた人物に対して情報を交換する。
「…お前は知っているか、あれ」
「知っているかって言われても…被っているフードが安価で購入できる劣化品で、地下街の露店で販売されている事しか分からないな」
「…いや、フードの出所わかる時点ですげえよ。つか、声的にも有名人に当てはまらないし…」
「いきなり階級戦を掻っ攫っていった彼女の知り合い…うーん、まだ情報が少なすぎるわよねぇ」
「ケイン、だっけ? 名前も知らねえしな」
取り敢えず、今日の記事は『階級戦を掻っ攫っていった謎の美少女新入生とは!?』の見出しである事を決定する一同である。
二、三個の大手出版社、三、四個の小規模の出版社が少し手を加えた記事を出すのはグロリアの知らないところである。知らぬ間に人気が出るのもグロリアが知るのは少々先の出来事である。
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これが学園にあって良いのか、と甚だ疑問が残る光景だが、まあ、やっている事を考えると妥当だよな、とそう判断しながらグロリアはケインに着いて行く。視界に映るのは先程までの華やかしい戦いの舞台では無く、薄暗くじめっとしているアンダーグランド的な場所であった。ちょこちょこネズミの姿が見られ、見るからに怪しげな人物が未知に風呂敷を広げ商売をしている。
その光景を見ていると、ケインが説明を入れる。
「…ここはまだ地下街の入り口にも過ぎねえ。最奥で商売が出来ない弱者が知恵を振り絞って商売する所がここだ。良い物は売ってねえし、掘り出し物は最奥にしかねえぞ?」
少し、歩く速度を落とし、グロリアの隣に着いたケインが通り過ぎた商売について話す。
グロリアは急に隣に来たケインに驚きながら、話を聞く。…が、フードから溢れるケインの顔にびっくりして頬を染める。
黙ったグロリアを疑問に思ったケインが再度顔を覗く。合点が行く。
「あー、確か育った場所は男がいねえ場所だっけ? まあ、俺美男子だからなぁ、惚れるなよ? 俺には愛しの彼女がいるんだ」
「ば、ばか! そんなのじゃない! ただ私は…そ、その不釣り合いな顔に驚いただけだ!」
「それ貶しているのか…? まあ、別に良いけどよ。その調子で階級戦やっていけるのか? 所詮はあのヒゲモジャだったから良いものの…結構、ツラの整った相手は上に沢山いるぞ?」
そう言いながらケインは記憶の中から何個かイケメンをピックアップする。ケインがこのアンダーグランドに似合わない線の細い美男子であるが、ピックアップしたイケメンは俺様系、不思議系、ショタ系、ガテン系の兄ちゃん。と、様々な種類がいるのだ。顔ぶれを知っているケインからすると階級戦ではなく、ホストじゃねえか? と、思ってしまう顔ぶれなんだと。
男に慣れていない様子のグロリアを気遣って言ってみたケインだが…グロリアの表情は予想と違ったものになっていた。
「ああ、大丈夫だ。戦いは戦いだ。目的は違えないと誓おう。…わ、私のタイプは一番強いお調子者だから尚更問題はないぞ!!」
そう、胸を張って言うグロリアに微笑ましい表情になるケイン。
「なら問題はないな。よし、ここを下れば目的の場所だ。一応…分かるよな?」
周りに誰もいない事を確認し、小声で言ってポケットから一枚のカードを渡す。
グロリアはそれを受け取り、表に書かれたエンブレムを見る。
黒く塗りつぶされた太陽に、剣が何本も突き刺さっている絵だ。
太陽は貴族を表し、黒く塗り潰す意味は地に落ちる事である。何本も刺さった剣は…
「大丈夫だ。『我らの一矢で搾取の世を変える』だ』
実力至上主義、ランキング頂点が貴族のように振る舞う学園を、将来は世界を変えようと活躍する団体、
「『革命軍』それが私達の名前だからな」
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場所が変わって学園から少し離れた荒野。
荒れる砂埃から体を守るために服を着込み、ゴーグルを嵌めた白髪の男と、場違いな程にメイド服な美女が悪路に苦戦しながら道を進んでいた。
一歩、二歩…と、一切景色が変わらない荒野を黙々と進む二人であったが…白髪の男が深い砂に足を取られコケそうになる。一瞬で張り詰めた空気は張り裂けた。
「ん゛〜、もう!!! マジでなんなのこれ? なあ、本当にこんな秘境の先に学園があるのか?? なんか、お前が俺を殺すために都合のいい場所に移動させているようにしか思えないんだが…だが!?」
そんな情緒不安定に喚き散らす白髪の男に母性を醸し出す妖艶な笑みを浮かべながら
「なら何回でも背後から襲える機会はありましたけどね。別にお話は良いですけど足は動かしてくれませんか? デクの棒って愛称に変えますよ?」
「それは愛称って言わねえんだよ…」
言われ、渋々といった表情で靴の中に入った砂を出し、歩き始める。
「して、秘境と言われましても…我が家から出て30分もしてませんけどね、ここ。確かに我が家から学園までの立地の悪さは私も腹が立つものがありますが…この方向であっていますよ、デクの棒」
「…薄々気付いていたけどお前俺に対する敬意全然足りないよな? 寧ろ不敬しかお前に感じた事はないんだけど…マジで。お前のメイド要素が衣服しかねえんだぞ? もっと、こう…さ。メイドっぽいこと出来ない?」
「メイドっぽい事と言われましても私メイドでは無いですし。…でも、唯一出来ることはどんな環境でもメイド服を来ていける根性ですね」
「おーう、見上げたメイド根性じゃん。…それ、ただのコスプレな」
と、そんな事を言い合っているが、白髪の男の二倍はある大きな荷物を背負っているのはメイドであるし、礼儀正しく歩く姿はメイドそのものである。まあ、言い合っている内容はメイドでは無いのだが。
そんな言い合いをしながら進む事数十分。微かに、摩天楼かのように学園の姿が見え始めていた。
「やっぱ、徒歩で行ける距離じゃねえよな…」
「…それは私も同感です。が、向かう理由はヴェリル様ですよね? 確か…『強え女を見つける』とかそんな感じの。なら学園みたいな箱庭では無く、世界を相手にした方が良いんじゃ無いかと思いますが…実力もありますし…」
「…まあ、確かにな。強い、って視点だけだと…なんだ、ドワーフの姫君とか巨人族に引けを取らない剛腕の持ち主とか。ドラゴン族の王は最強である、とか言われてるけど…学校生活って憧れね?」
「確かに」
世界に視点を向ければ、所詮箱庭である学園以上の濃厚さでやりとりをしているので強者がうじゃうじゃいる訳なのだが学校生活に憧れを抱く年頃なのだ。やっぱ、男は何歳になっても制服姿で同年代との異性とキャッキャウフフしたいし、青春をしたいのだ。そんなヴェリルの考えはメイドであるクーリアにも当て嵌まっていた。
まあ、ヴェリルの容姿はまだ青年、と言えるものだがクーリアはどう若く見積もっても二十歳前後のお姉さんである。何年留年したの? と、思ってしまう感じなのだが…目先の青春に囚われ、そんな事に気づかないクーリアである。どこまで年齢をとっても心の中は花のセブンティーンなのである。
そんな両者が学生生活を青春の一ページで彩りながら歩みを若干早く、進める。見上げればやはり、学園は摩天楼かのように儚く、遠いものであり、直ぐに心が折れる。通算三回目の出来事である。
波乱万丈を巻き起こす二人が学園に到着するのはまだまだ先の出来事である…。日は跨がないが。…跨がないと思うが。
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新入生入学、と一大行事の中で大きな出来事があったが、そんな一日も終わり、華やかな学園生活二日目がスタートする。
入学生の席割りは学園中心部である闘技場の脇にある、これまた巨大な建物の入り口に張り出されていた。闘技場から伸びる通路は校舎に伸びているのではやり、戦って決めるが普通なのか、見るものによってはそう感じてしまう。実際、入学二日目であるのに闘技場の使用者が現れていた。二日目である。まあ、入学初日で階級戦に参上する、と同じようなノリである。実力至上主義を色々と考え過ぎた者が毎年多発するので恒例行事とも言える光景であ。
そんな恒例行事も新入生にとってしてみればクラス発表そっちのけで戦う野蛮な人種である、とそんな認識なので感情としてはヤンキーに絡まれた生徒を見る一般生徒な感じだ。
触れぬ神に祟りなし、と連れていかれる生徒の喚き声をBGMとして聞き流しながら視線はクラス発表の張り出された用紙に向かっている。
と、恒例ならこのまま、見るからにか弱そうな男子生徒が断末魔を午前中から響かせながら「なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだ…」と、現実の実力至上主義に恨言をつらつら言いながら、下剋上を可能とする呪術とか秘剣とか魔剣とかを探す旅に出るのだが…生憎と今年はそんな事を見逃さない騎士系新入生が居るのだ。
「おい、何をやっている」
連行される光景に割り込むようにしてグロリアが出てくる。何故か背中に背負っていたハルバートは無く、その空いた武器枠を補填するように腰に剣を携えている。より一層騎士感が強まった。
そんな救世主の登場に一瞬喜びの表情を見せる連行される男子生徒であるがその救世主が女性である事に気が付き、一瞬で落胆が混じった表情に変わる。直ぐに声を張り上げる。
「ぼ、僕は良いから放っておいて!! この人はあの有名な剣武術の有段者なんだよ!! うげっ」
と、情報を開示するメガネ君を遠慮なく殴るあの有名な剣武術の有段者。しっかり顔面を殴り、そのままの勢いで腹を蹴る。全くの容赦がない女性である。
そう、クラス発表当日の午前中に闘技場を使用する実力至上主義を深読みし過ぎた生徒は女性であったのだ! 情けないメガネ君!!
その暴力に慣れた相手を見ながらキョトンとした表情を見せるグロリア。
「うっせチンチクリン!! まあ、そんな訳なんよ。騎士サマは目を瞑ってくんねえか? これはオレ達の問題なんだ。まあ、文句あんなら闘技場で是非決めようや」
手をコキコキと鳴らす彼女にヒィ、と声を上げるグロリアの背後にいる生徒たち。溢れるように声が聞こえる。
「あ! ゆ、有名な剣武術の有段者ってヒイラギさんの事だったんだ…!! や、やばいよあの子ボコボコのけちょんけちょんにされちゃうよ…!」
怯えたような声で相手の名前が知れたグロリアは売られた喧嘩を言い値で買う。
「ああ、是非を決めようヒイラギ。私は弱い者イジメが嫌いだから少々癪だが…まあ、困っている人を助ける為だからな」
「弱い者イジメ…? ハッ、誰にものを言っているのか分からせてやんよッ!!」
ヒイラギは首根っこを掴んでいた男子生徒を放り捨て、吠える。対してグロリアは冷静そのもので、手をクイクイと挑発をしている。
挑発し合う両者であるが、グロリアは剣武術の有段者は普通に全国的に有名かつ、強く、ヒイラギは剣武術内の大会で入賞できる実力者である事を知らないし、一方のヒイラギはグロリアが入学初日で白銀の階級戦参入者で白銀の称号を取った事を知らない。
知らない知らない同士で、お互いがお互いを侮りながら試合は始まっていく。
クラスはグロリア、ヒイラギ共に同じクラスで、担任である先生は前途多難だな、と初日から困り顔である。白髪が加速する勢いであった。
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ああ、大変なことになったぁ、と妙に達観した感想が出るが…生憎と事の発端は僕である為、そんな楽観視は出来ないのが一大事である。これが僕を取り合う恋愛バトルだったらどんなに良い事なのか…と、考えてしまう。
そんな事はないので視界に移る強い女性と、騎士の戦いは現実のものであると再認識してしまう。
「ああ…どうしてこんな事になっちゃったのか…」
理由は入学初日の、学園に入学した! やった! これで僕も強くなるぞ! と、そんな意気込みのまま校舎内で迷子になり、エンカウントしたヒイラギに目を付けられた。…と、もはや悪い理由の一端すら無い、不条理な原因である。まだゲームの正解の敵キャラとのエンカウントは逃げるコマンドが選択出来るのに現実ではどうして…と、思ってしまう。
絡まれた瞬間にあの有名なヒイラギである事を知ったので強さは十二分に理解しているのだ。これから起こる美女達の血で血を拭う戦いをどんな視点で見れば…と、何度も胃の中がグルグルいってしまう。今日から胃腸の薬常備安定かな、とズレたメガネを直しながら考える。
両者はどっちとも美女であり、もしグロリアが勝ったとしても可憐な女性を戦わせた原因である僕は目の仇にされるだろうし、ヒイラギが勝ったとして最初に戻るだけなので意味がない。寧ろ悪化する事大だろう。
その片鱗として僕の周りの観客席に同じ生徒は居らず、うっすらと聞こえてくる会話の内容が完全に僕に対する批判である。僕は悪くないのに…と、思わなくもないが、これで僕が強かったら話は変わったんだろうな、と思ってしまうのでやはり、自分の実力の無さを恨んでしまう。
悪口を試合のBGMとしながら試合のゴングが鳴り響く。
剣武術の戦い方としては剣を握った殴り合いである。ので、基本的な戦法は相手の懐に踏み込んで、体術を用いて戦い、最中で刃物によって致命傷を与えるものである。
「剣武術、ヒイラギ」
「我流、グロリア」
お互いが名前を名乗り、一例する。直ぐにゴングが鳴った。
なった瞬間にヒイラギは開始のゴングと共に駆け出した。
ああ、これだ。これがヒイラギが剣武術の大会で入賞できる実力者たる所以だ。と、思ってしまう。
ヒイラギは他の剣武術有段者と違って圧倒的に恐怖心がないのだ。それ故に開始と同時に駆け出せる。その為、相手は向かってきたヒイラギを対処する、と防御に回ってしまうので戦いの主導権がヒイラギになってしまうのだ。
これから防戦一方、もしくは速攻で決められるのかな、と考えていると
「…え、グロリアさんってもしかして…強い?」
強い。強い。しかも結構強いのだ。
何度か見たヒイラギ戦の公式映像では、防戦一方だったのに対し、今回の戦いでは防戦一方ではなく、グロリアのカウンターが何度か決まり、逆にヒイラギの攻撃は殆ど当たっていないのだ。
これは同じ武器同士じゃないから立ち回りが変わる、と確かにそうなのだが、でもそれ以上にヒイラギの定石を見切り、カウンターを決めているのだ。凄い! いや、凄いどころじゃ収まらない強さだ。
「押して、押して…ああ、ヒイラギさんが崩れた!?」
最初は少々うるさいくらいの観客席の声だったのが、徐々にグロリアが優勢になる度に声は大きくなっていき、ヒイラギの体勢が崩れた瞬間にマックスボルテージになった。熱量が数値化されるのであれば、限界突破しているだろう。まだ午前中であり、授業の最中であるが、観客席は半分以上も埋まっていた。
崩れたヒイラギの隙を見逃さず、両刃の片手剣をしっかりと握り、踏み込む。寸前の所で回避が成功したヒイラギであるが、既に形勢逆転であった。
誰もがヒイラギが破れる、とそう確信した。その時、メガネ君の隣に誰か座ったのがわかった。
「へー、えっとこれって今、戦ってるんだよな? 初日なのに」
「へっ!? あ、うん! えっと、優勢な方がグロリアさんで、剣武術で戦っているのがヒイラギさんだよ。初日…まあ、そうだね。色々とあってさ」
試合に向けた視線を隣に移すとそこにはゴーグルを外し、赤い目を持った異様に顔の整ったイケメンがそこにはいた。イケメン要素で来ている服が浮浪者っぽいな、とそんな印象は初対面では出てこなかった。
そんな彼は興味深そうに眺め、疑問があったのか言った。
「これって有段者との戦いだよな? あ、俺はヴェイル、よろしくな。んでもってこいつがクーリア」
「あ、うん…えっと、ヒイラギさんは有段者だけどグロリアさんはどうなんだろ…?」
でも、見ているとグロリアもグロリアで戦い方が奇想天外で、最初の挨拶の時に我流と言っていたので流派には入っていないと思うけど…と、考えているとイケメンーーヴェイルが自己紹介をした。
へえ、ヴェイル君って言うのか…と、思っていると背後にいたメイドに気が付き、美貌に驚き、ヴェイルのメイドだと言うことにまた驚いた。
め、メイドって事は貴族…?
「え、あ、ぼ、僕はグリア! よ、よろしくね」
「おう、よろしく。新入生同士頑張ろうな?」
「う、うん!」
と、そう微笑みかけながら言ってくれるヴェイルに半ば恋のような感情を抱き始めている事にびっくりしながら、友達が出来た事に喜ぶ。しかもイケメンである。そして優しいイケメンである。
よって、調子に乗ってしまうのも仕方がない事なのだろう。
「じ、実はね僕が虐めらそうになった所をグロリアさんに助けてもらったんだ! その颯爽とした感じが凄くカッコ良かったんだ! まるで本物の騎士みたいだったんだよ!!」
良い終わり、どんな反応をしてくれるのかな? 同じようにカッコイイと言ってくれるのか、虐められそうになった僕に同情するのか…答えはそのどちらでもなかった。
暖かかった視線は何故か、急激に冷え、鋭くなった相貌でヴェイルはこちらを見ていた。
「虐められそうになった? ここって実力至上主義って奴なんだろ? 虐めって…なんだ? 新しい制度か?」
「え、いや…制度じゃなくて…ただ、僕が弱かった感じで…」
「んだよ、それ早く言えよ〜。俺がくる前に新しい制度が始まったのかと思っちまったじゃねえか!」
そう言って肩を持たれ、寄せられて頭をグリグリとやられる。痛いが、痛い以上に友達感が凄くして気分が良くなる。さっきまでの冷たい視線はどこに行ったのか暖かい表情になっていた。
だが、変わらなかったのは表情だけで、行動には示していた。
「って事はグロリアって奴がお前を助けたんだよな? よし、じゃあ丁度良いわ。クーリア、階級保持者になる姿見てろよ〜?」
そう言って高さ数メートルはある観客席から闘技場に飛び降りる。
「え、なんで!? どうして飛び降りたの!? え、試合中だよ!?」
と、そう言って驚く僕を尻目にヴェリルは戦っている中心に向かって走って行っているし、置いてかれたメイドははぁ、とため息を吐いた。
「あ、あの…ヴェリル君行っちゃいましたけど…」
恐る恐る言ってみるとこれまた冷たい視線を向けられる。
「学園の入学生であるのにその頭の弱さ…だから虐められるんですよ。ヴェリル様は階級戦の参入者として参加使用としているのです」
さも当然かのように言ったメイドに「ああ、そうだっけ…」と思ってしまうが…そんな事はない。
同じように恐る恐る言ってみる。若干、冷たい視線に興奮を感じているんじゃないか? と、新しい自分を見出せそうだった。
「えっと、その階級戦は新入生の入学日に開催されるので…昨日ですね、階級戦は」
その言葉に無表情だったメイドは数秒の時差を掛け、呆けた表情になる。
「…では、この戦いは? これが初日の階級戦じゃないのですか」
「今日の試合はえっと…僕が虐められそうになった所を助けてくれたグロリアさんとのモノでして…今日は入学してから二日目ですね」
答えると一番大きなため息を吐き、ゆっくりとその場の席に腰を下ろした。場所的には僕の左後ろである。そして呟くようにして
「ヴェリル様…日、跨いじゃいました…」
と、掠れるような声で言った。