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走り込み

注)新エピソードです


 私にとって人生とは、海を漂うような行為でした。


 漂流感とでも表現しましょうか……人間関係、学校行事、アーチェリーの全国大会……それらは遊魚や悪天候のような突発的な出会い、上手くかわして受け流し、平和な海に戻るのです。


 人と魚は、価値観が違います。海の温度が何たるかも分かりませんし、プランクトンの気持ちも私には分かりません。


 流れゆく時間に身を委ね、淡々と弓を引くだけの人生に、恵みのプロテインが降り注ぎます。



▼▼▼


▼▼▼


▼▼▼



 [ジム]



 おはようございます、ジミカです。


 目が覚めたら筋肉に包まれていました。


アテナ:「おはよう」

ジミカ:「おはようございます」


 なんという包容力…冬場の毛布よりも優しく暖かいです。


 他の人間は魚に見えるのに、アテナ様はまるで女神様です。


アテナ:「筋肉痛は大丈夫か?」


 筋肉痛は……あれ?


ジミカ:「痛くない…です?」

アテナ:「やっぱりな…これ持ってみろ」


 昨日のダンベルですね。触れると違和感、まるで割れ物のガラス細工のような弱々しさを覚えたのです。


ジミカ:「…軽いです」


 自分の変化に驚きです。



▼▼▼



 朝のジョギングです。


アテナ:「お前の筋肉を見ていたが…回復速度が異常だ」

ジミカ:「はあ…」


 1キロ5分のペース、喋りながら走ります。


アテナ:「通常の人間は、筋トレ後2〜3日かけて筋肉を増やすんだ。」

ジミカ:「はい」


アテナ:「しかしジミカの筋肉は、30分で回復する!」

ジミカ:「早っ!?」


アテナ:「しかも、1日で信じられない程パワーアップした」

ジミカ:「は、はぁ…」


 そうだったのですね。アテナ様が驚くわけですよ。


アテナ:「そうだ、それ持ち上げてみなよ」


 黒塗りの高級車……ヤクザに怒られちゃいますよ。


ジミカ:「どうなっても知らないですよ。ふんっ!」


   ググググググググ……


ジミカ:「重い……けど、動きます!」

アテナ:「明日には片手で持てるといいな!」



▼▼▼



 朝食は、悪魔の肉でした。


アテナ:「サンダーバードの鶏胸肉だ。食え」

ジミカ:「あ、はい」


   もしゃもしゃ もしゃもしゃ


 生臭いけど、スライムよりは100倍マシです。


ジミカ:「アテナ様、いつの間に用意したんですか?」

アテナ:「ジミカ、筋肉があれば」ビュン「高速移動ができるんだぞ!」

鳥:「コケー」


 うわっ!? …さすがアテナ様、全く目で追えない速度でした。



▼▼▼



ジミカ:「それはプロテインですか?」

アテナ:「ああ。このように作るのだ」


 プラスチック容器に水を入れ、プロテインの粉を加え、フタをして素早く振り混ぜます。


   ジャクジャク ジャクジャク


アテナ:「綺麗な水じゃないから変な味かもしれないけど、我慢しろよ」

ジミカ:「……」ごくり


 昨日のプロテインを思い出してしまいました。



▼▼▼



アテナ:「今日はスピード……よし、走るぞ!」

ジミカ:「はい」


 レギンス脱いでランパンに着替えて出発です!



▼▼▼



 [ジム前]



 今からするのはペース走、陸上の人の練習メニューです。



アテナ:「5km × 10本だ」

ジミカ:「はい」


アテナ:「1本目、よーい、はい!」

ジミカ:「すっ すっ はっ はっ」


 アテナ様が一定のペースで先導します。そこそこ辛いですが、普通に着いて行けます。


 無人の車道を無言で行きます。


アテナ:「ペース落とすな!」

ジミカ:「すっ すっ はっ はすっすはっは」


 すぐに呼吸が乱れ、足が重くなります!


アテナ:「1キロ 3分07」

ジミカ:「すっ すっ はっ はっ すーーはっ」


 まだ1キロですか!? これは…あまりに遠い…


アテナ:「200m 先にオーガの群れ、片付けて来るよ」ビュン


 構わず走り続けます。


 30分に渡る恐ろしい鍛練、乱れる呼吸を制して、重い足を持ち上げる作業の、なんと、辛い事でしょう。


アテナ:「ラスト100メートル」

ジミカ:「があああああーっはーすー」


 あー、終わったぁぁ、足がガタガタです!! アスファルトに倒れ伏します。


アテナ:「お疲れ様、はいプロテイン」ちゅっ

ジミカ:「ふぐっ!?」ごくごく


 ほわぁぁぁアテナ様の聖水(プロテイン)!!!!!


 大腿四頭筋に染み渡ります。


アテナ:「いいねいいね。筋肉増えてるよ!」


 足と肺にパワーがみなぎってきました!! 今なら自動車を追い越せそうです!


アテナ:「じゃあ2セット目、さっきの2倍速でいくぞ!」

ジミカ:「はい!?」



▼▼▼



 アテナだ。


 弱みにつけ込む事になったが、無事に頭のネジが外れたようだ。


 ジミカの筋肉は育て甲斐がある。見てて楽しいよ。


 これから私と筋トレの事しか考えられなくなるんだ。ふふふ、どこまで強くなるのか…楽しみだ。



▼▼▼



ジミカ:「あ゛〜〜ぁぁぁ……ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」


 ジミカです。ようやく10セット終わりました。


 ジムの入り口に、仰向けで倒れます。


 肺が、ヒリヒリ!

 筋肉が、熱い!

 手足も胸も腹筋も筋肉痛!!


アテナ:「お疲れ様」ちゅっ

ジミカ:「ん…」ごくごく


 あぁ、至福の時……白い思考がアテナ様に染まります。プロテインで満たされますッ!!



▼▼▼



アテナ:「もう歩けるのか。再生時間が短縮されてる…」

ジミカ:「そうなんですか?」


 歩きながら喋ります。筋肉痛がジワジワ響きます。


アテナ:「このペースだと…あと5分で治るな」

ジミカ:「5分ですか」


 早いですね


アテナ:「休んだら…音速くらいは出せるんじゃないかな?」

ジミカ:「そんなにですか!?」


アテナ:「試してみようか?」



▼▼▼



 [ジム前の国道]



アテナ:「100メートル走だ。」

ジミカ:「いきますよー」


 クラウチングスタートです。位置について……バァン!


   ギュゥゥン!


アテナ:「0.51秒、およそ時速700キロ」

ジミカ:「ほえぇ……」


アテナ:「すごいじゃないか、もうすぐ音速だぞ」ナデナデ

ジミカ:「え、えへへ、そうですか〜」


 嬉しい、我ながらチョロいですけど、嬉しいです。



   ドドドドドドドド ドドドドドドドド



 おや、何でしょう?


恐竜:「ギャーオ!!」


 恐竜(モヒカンサウルス)の群れですね。高速道路を走っています。


アテナ:「時速300キロか」

ジミカ:「降りて来ますよ?」


 心なしかジムに近づいて来ます。


ジミカ:「どうします?」

アテナ:「もちろん、ぶん殴る!」ニヤリ


 さすがアテナ様です。今のニヤリ、かっこいいです。


 恐竜が300匹、次々と国道に飛び出してきます。


 ガオォ、ガオォ、と雄叫びを響かせ、ドシンドシンとアスファルトにヒビを入れます。


 当然、時速300キロという事は、F1カー並、巨体に反して俊敏です。


アテナ:「そうだ、ジミカから殴ってみなよ」

ジミカ:「わ、私ですか?」


 怖いですがアテナ様が言うなら…


 腹にパンチしてみましょう。アスファルトを蹴って、急接近です!


ジミカ:「えいっ」ポス


   [3]


モヒカンサウルス 7697/7700



恐竜:「ガルウゥゥゥゥ!!」

ジミカ:「うわぁ!」


 速ッ!? 音速で噛み付いて来ます!!


 包丁みたいなキバが右手をかすめます。噛まれたら大怪我間違いなし!


   バキバキィィィ!!!


 うわぁ、電柱がへし折れました!


ジミカ:「助けてアテナ様ー」

アテナ:「うーん、まだ筋肉が足りなかったかー」


 アテナ様が瞬時に歩いて割り込みます。


 そして指先一本で恐竜のキバに触れます。


 あの恐ろしい恐竜はピタリ!


アテナ:「いいかジミカ、よく見てろ! 筋肉があれば何事も、殴って解決できるんだ!」ドゴォ


 拳を一振り、恐竜は鈍い音と共に霧揉み回転、遠くのビルを粉砕し、空の彼方へキラリ!


ジミカ:「すごい…です…」


 流れるような筋肉、理不尽なまでのパワー、まるで筋肉の女神です。


 素敵ですアテナ様、一生着いて行きます!


 そして、自分の手を見て、足を見て……足りない。もっと筋肉を鍛える必要がありますね。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 話を追加すると、既読のマークがそのままシフトするのじゃな……。 初めて知ったのじゃ。 > 目が覚めたら筋肉に包まれていました。 妾ならぞわぞわしそうなのじゃ。 あと、寝違えそう。 …
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