【星新一風ショートショート】エフ博士の偉大な発明 「台風かき氷化計画」後編
前作「エフ博士の偉大な発明 「台風かき氷化計画」前編」 の続きです。まだご覧になっていない方は、前編からご覧くださいませ。
冷凍ミサイルを積んだ軍用機は台風10号の真上、高度1万1千メートルほどの成層圏に到達した。軍用機はここから下に向かってミサイルを撃ち、ちょうど真ん中あたりで爆発させた。すると爆発した周辺の雲が次々と凍りつき、まるで巨大な洗濯機の渦を真上から見ているような形になって止まったのだった。そして重みでひっくり返り、下部の細い部分が上に、上部の広い部分が上になって海上に浮かび上がった。その姿はまさしく巨大なかき氷のように見えた。
「やった!大成功だ!」
このニュースはたちまち世界中に報道され、大絶賛を浴びた。エヌ国だけでなく、同じくハリケーンの被害になやむエー国やティー国などからも使わせてほしいという依頼があり、エフ博士は一躍時の人となった。それだけではない。巨大な氷の塊と化した台風の姿をひと目見たいという観光客が殺到し、商魂たくましいツアー会社によって台風見学ツアーまで組まれ、挙句の果てには台風氷まんじゅうまで売られる始末。ついこないだまで台風が発生しただけでオロオロしていたとは思えないほどの盛り上がりっぷりだ。
「まったく現金なもんじゃわい。まあ平和になったという証拠じゃから良しとするか。」
「しかし博士、台風を防いだのはいいのですが、あんな巨大な氷の塊がいつまでも海上にあっては危険なのではないですか?」助手のオー君が尋ねた。
「確かにの。じゃが心配無用じゃ。氷は日光に照らされて、だいたい1~2週間ほどで完全に溶けるからの。よっぽど大きい台風でないかぎり、氷がとけないということはないわい。」
ところがその1ヶ月後、その「よっぽど大きい台風」が発生してしまった。今度の台風は前回とは比べ物にならないくらいの巨大なもので、エヌ国の3分の2をすっぽりと覆いかぶさるほどの規模であった。さすがにこれは大きすぎる。
国民は「今度こそ終わりだ」「博士地球をすくってくれ」などと騒ぎ出した。もうすっかり博士はスーパーヒーローのような扱いを受けている。さすがのエフ博士も自信がなかったが、1発では足りないだろうということで、急遽5発のミサイルを製造し、台風めがけて発射した。
「で、どうなったかじゃと?まあ一応成功はしたんじゃがな・・・」
熱い紅茶をすすりながら博士は語った。たしかに5発のミサイルは超大型台風を氷漬けにし、上陸を防ぐことに成功したが、その代わりエヌ国の南方800kmのところに、超巨大な氷の塊ができてしまった。その規模は北極と同レベル。つまりエヌ国のすぐそばに北極が出現したのと同じ意味を持つ。計算によると、この氷が溶けるのは10年後ということだ・・。
8月31日、通常なら残暑の厳しいこの国の本日の気温はマイナス20度であった。ニュースによるとオキナーワ地方に初めてスキー場ができたらしい。逆に台風からもっとも遠かったホッカイドー地方の方が温かいくらいだった。
「さてと、ここは寒すぎる。ちょっくらサマーバケーションにでも行ってくるかの。」
エフ博士は荷物をまとめると、ホッカイドー行きの飛行機に乗り込んだ。
おしまい