little braver
人通りの少ない路地裏を一人の少女が走り抜ける。その表情は恐怖に染まり、青ざめていた。
「はぁ……! はぁ……! 」
あまり体を動かし慣れていないのだろう。息は荒く乱れ、時折足を躓かせ体勢を崩しかけそうになっている。しばらくそのまま走り続け、やがて路地裏の出口が見えてきた。少女の表情は安堵から緩み、眼には希望が宿る。そして、出口へと到着した。
「……そんな、ここって……! 」
到着したのは建物に囲まれた小さな空き地。そう、そこは出口などではなかった。少女の心は恐怖から解放されたと安堵から一転、絶望へと引き戻された。少女が絶望していると、背後から複数の足音が近づいてくる。
「へっへっへ……悪いなお嬢ちゃん。ここいらは俺達のナワバリでな? お前さんは俺達に誘導されていたんだよ。」
少女は空き地の奥まで走り、壁を背にする。追っ手の男達はジリジリと少女へと間合いを詰め始めた。
「こ、来ないで下さい! 」
少女は腰につけていたポーチから短剣を取り出し、男たちへと向ける。護身用であろうその短剣は柄に美しい装飾が施されていた。
「おーおー、怖いねぇ! オジサン、ブルッちまうよ。」
「へへ、キレーな短剣だなぁ。高く売れそうだ! 」
男達に怯んだ気配はなく、少女へと近づいてくる。男達の様子に少女は更に恐怖し、短剣を持つ手を震わせた。
「(ど、どうしよう……どうすれば良いの? 誰か……)」
「念の為言っておくが、この程度の事、ここでは日常茶飯事なんだよ。だから、誰かが助けに来てくれるとか思うなよ? 」
「そーそー、お嬢ちゃんせっかく可愛いんだからさぁ、暴れなければオジサン達乱暴なことはしないよぉ? ひひ、ちょーっと遊びに付き合ってもらうだけだからさぁ! 」
「(……誰か、助けて!)」
男達は少女へと手を伸ばす。その手が、彼女の腕に触れようとしたその時
「その汚ぇ手を引っ込めやがれ! クソ野郎共! 」
低く険しい男の声が路地裏へと響き渡る。
「……あぁ? 人がお楽しみの最中に割り込みやがって! どこのどいつだ!」
男達は振り替えるが、そこには誰もいない。不意に何か硬いものを叩いたかのような音が響き、少女に一番近い男がその場に倒れ伏す。
「なっ!? おい、どうしたロッジ! おい!」
「ちっ、野郎どこに消えやがった!」
残りの二人は警戒を強め、周囲へと視線を巡らせる。だが、少女以外には誰もいなかった。あったのは誰かが捨てたであろう薄汚れた熊のぬいぐるみだけだった。
「クソが! おい、ラウ! そこのガキを捕まえとけ。俺は……」
再度、打撃音が響く。残りの男が振り替えるともう一人の男が仰向けで倒れていた。額には殴られたであろう後が残っていた。男は恐怖を覚え、懐から大振りのナイフを取り出した。
「クソ! どこだ! どこにいやがる!? 出てきやがれ! 」
男はナイフを振り回し、見えない敵を探し続ける。しかし、少女以外は誰も見つけられない。
「お前か!? そんなガキの姿で俺たちを騙しやがったのか!? あぁ!?」
男は錯乱し、少女へと掴みかかろうと手を伸ばす。その次の瞬間、男は背後に気配を感じた。
「子ども相手にみっともない真似すんじゃねぇ、このクソ野郎!」
声が耳に届くのと同時に、男は自身の後頭部へ強い衝撃を受け意識が遠退くのを感じた、その場に倒れる。意識を失う前に見たものは自身を見下ろす小さな影
「子どもの前だからな、今回は見逃してやる。次は容赦しねぇから、覚悟しとけ」
その言葉を聞き、男は完全に意識を失った。少女は困惑した、自分を助けてくれた存在に。なぜなら
「さて、怪我はないか? お嬢ちゃん? 」
彼女を助けた存在、それはーークマのぬいぐるみだったからだ。