覚醒と逃走
第七階層に入り早くも三時間が経過しようとしていた。
なぜ三時間もかかったかというとナナタリーの特訓の続きをしていたからだ。
第七階層は霧のかかった平野の様な場所に墓所が10個あって全ての墓所の全ての死霊を倒さないと第八階層にいけない仕組みになっている。
5個は俺で4個はネア・ノアに任せてナナタリーとミリーには一つ任せている。
既にナナ・ミリペア以外は終わらせているため中級魔法:『飛行』を使って高みの見物中だ。
「死霊の数は後58体。減ってないな」
「どちらも魔法系ではないですからね。魔法を付与して辛うじて抵抗出来てるくらいですか」
「そもそも苦戦してくれなきゃ困る。これも訓練の一環だ」
「なるほどね」
「お、ナナタリーのHPが5割を切った」
「ミリーの方はダメージを少しづつ与えられているわね」
「そういえば死霊と魔法死霊の違いって何ですか?」
「死霊はプレイヤーに触れてダメージを入れるんだが魔法死霊の攻撃手段は魔法も追加されるんだ。それに加え魔法死霊は物理攻撃が無効で魔法耐性も結構あるんだ」
「死霊に物理無効と魔法耐性と魔法使用が追加されたのが魔法死霊って事?」
「そういう事。まあたまに死霊系に攻撃できる武器とかもあるけどな」
「あ、ナナタリーが倒れました」
「HPは、、1割切ってるな」
弓を構え矢に回復魔法を付与する。
軌道補正と精密狙撃でナナタリーの足にかすりナナタリーのHPが5割まで戻る。
ミリーに何故か大量のゴーストが接近してHPを削っていく。
あ、結構やべえなこれ。
「第一位階魔法:『下位転移』」
ゴーストの群れの後方に転移して見ると結構悲惨な状態になっていた。
「きゃぁぁぁ!!!!」
ミリーのHPがだんだんと削れて行きこのままでは死ぬであろう状況になっていった」
「離れろぉぉぉ!!!!!」
お!真逆のここで限界成長の覚醒きたか!?
ナナタリーのフランベルジュに黒炎がついてゴーストを切り裂き絶命させた。
おめでとうナナタリー。
君は今覚醒したのだよ!
「え!?なにこれ!?」
覚醒した自身が驚いていますね。
いやそうですよねー。
いきなりゴーストが全滅したんですから。
ミリーが崩れ落ちナナタリーが駆け寄る。
「ミリー!大丈夫!?ミリー!?」
「大丈夫だろ」
「ひ!!いたんですか!?」
「とりあえず覚醒おめでとう」
上位魔法:『範囲上位治癒』を使い両方のHPを満タンまで回復する。
墓所の中心に墓が現れて二体の魔人形が襲いかかってきた。
轟音とともに空中から降りてきたネアとノアによってゴーレムは破壊された。
「凄かったですね。ゴーストが一撃ですよ?」
「私たちにもできるじゃない。とは言っても人間には難しいでしょうから凄いのは認めるわ」
「あれ?ゴーストに囲まれてたんじゃ、、、」
「ミリーが起きた」
「ミリー、大丈夫?」
「あ、ありがとう、ございます」
「なんで敬語なの?」
「青春とはいいものだね。そう思うだろうネア君?」
「その言い方むかつくんだけど喧嘩売ってんの?」
「お姉様?」
「すみませんでした」
「この状況を説明してくれない?」
ミリーが此方に向き直し説明を求めてきた。
ナナタリーから聞かなかったんかい。
まあいいや。
俺は俺が見ていたことを細かに説明していく。
最後の方になるにつれミリーの目は輝いて行きナナタリーに対し凄い凄いとしか言わなくなった。
少し怖い。
「ナナタリー。今のステータスを」
「は、はい。Lv21・HP:1247・攻撃力:1342・防御力:994・速度:1084・魔力量:1168。職:『炎曲刃剣士に新しく『格闘家』のジョブが手に入りました。それと、、、なんだこれ!!!固有能力に『限界突破』が加えられています!」
「ナナタリー!?それ私より強くなってない!?私だってステータス最高がまだ800代だよ!?」
「それが『成長限界』の効果だ。限界突破は一定時間ステータスを2倍にできるのだよ」
「実質ナナタリーのステは二倍ってことになりますね」
「こんなことがあり得るのか、、、」
「さて皆さん?第8階層行きますよ!」
〈一時間後〉
「倒せたー!!」
「やったねミリー!」
只今第10階層ボス部屋です。
戦力が増強したので簡単にクリアできました。
帰りますか。
「お〜い。もう帰るぞ。明日は学校あるしな」
五人揃って転移魔法陣に入り外に出る。
外はすでに夕方になっていた。
「もうこんな時間なの!?王都に戻る頃には真夜中になっちゃうじゃん」
「心配いらないぞ。第三位階魔法:『複数転移』
王都の街中に五人とも転移させる。
「え!?えぇぇぇ!?」
「転移した?」
「今日はここで解散。ちなみに言っとくが家のままじゃ班人数が足りない。あと二人目星つけといてくれ」
「わかったわよ」
「はい」
ミリーとナナタリーと別れて王城の国王がいる部屋に転移する。
バレンバーもいるが気づいていないな。
体の外見を元に戻して話しかける。
「只今戻りましたわ」
「のぉ!?」
「な!?」
「そう驚かないでください」
「なんでいるんですか!転移ですか!?教えてくださいよ!そんな魔法があるなら!!」
「バレンバー落ち着け」
「とりあえず戻ってきましたので一応話しておこうかと。では失礼しました」
「ホントびっくりしましたぞ」
「今後は注意します」
三人でおそらく執務室であろう部屋を出てあてがわれた部屋に戻る。
機密保持のためメイドはつけてもらえなかったがそこは魔法でなんとかできる。
ネアとノアは隣の部屋であり極たま〜に防音し忘れているのか声が聞こえて来る。
もちろん優しさで防音結界張ってやるけど。
防音魔法の発動を感知する。
はいはい、お楽しみですね。
あ〜あ、暇だなぁ。
この体って基本寝る必要ないからなぁ〜。
外装変換という魔法でスーツをラフなパジャマに変えてベットに転がる。
超ふかふか。
「班のやつ、あと二人誰かいないかなぁ〜」
ミリーとともに暗くなりつつある王都の道を歩いていく。
さすがに一人は危ないから僕が送ることになったけど正直まだミリーに勝てる気はしない。
「暗くなってきたね」
「そうだね」
会話はあまり繋がらずだんだんと人もすくなってきて静かになっていく。
見馴れた平民街から貴族の屋敷が並ぶ区域に入っていく。
一生かかっても住めなさそうな家が何軒も並んでおり正直羨ましくなってくる。
中でも大きな屋敷に近ずいてミリーが門を開ける。
「ははは、流石は公爵家ご令嬢だね。僕の家と比べ物にならないや」
「私はこんなゴテゴテした家よりナナタリーの家の方が好きだよ?」
「ありがとね」
「貴族ってめんどくさいんだよ?誰かの誕生日があるとパーティー行かなくちゃならないし言葉遣いも面倒だしお見合いの話とか婚約とかの話もあるし、もちろん断ってるけどね」
「はは、貴族の娘で庶民的なのは君だけかもね」
「偉いでしょ?」
「偉いかどうかはわからないなぁ」
「じゃあまた明日」
「うん」
門が閉まりミリーの背中が遠ざかっていく。
お見合いかぁ。
僕もミリーと、、、
「何を考えてるんだ僕は。彼女と僕が釣り合うわけないじゃないか」
そう。
彼女は公爵家の令嬢だ。
僕には友達的な感情しか抱いていないし公爵家なのだから結婚できるのはその上の王族ぐらいなものだろう。
そもそも僕は平民だし校内身分は最下級の奴隷。
きっと無理に決まっている。
だからせめて彼女を手伝うことぐらいはしよう。
たとえどんなことでも。
ナナタリーと別れて私は憂鬱な気分とともに家の中に入る。
この家でまともに会話してくれるのは執事であるスナルくらいだ。
「おかえりなさいませお嬢様」
「お嬢様とかやめてって言ってるでしょスナル?」
「執事であるいじょう、お嬢様と呼ばなければ執事として失格になってしまいます」
「もういいわよ。はぁ〜」
「恋のため息ですか?」
ずか!
「ななな、なにを言ってるの!」
「そうじゃないんですか?多分あのナナ、、
「わー!わー!わー!」
「うるさいわね〜。もうちょっと静かにできないものですか?」
「お、お母様!」
「ミリー。あなたはもう少し上品になりなさい」
「わ、わかりました」
「貴方は公爵家の令嬢なのです。その自覚を持ち行動しなさい」
「はい、、」
「よろしい。ミリー、貴方に少し話があります。来なさい」
お母様に連れられて父の執務室に入っていく。
中にはお父様が集めている様々な武器があり町では到底見られない高価かつ強力な武器が大量にあった。
「そこに座りなさい」
「あなた、武器をいじりながら言われても困るわ」
「それもそうだな」
お父様は短剣を机に置いて回転椅子をこちらに向けて私を席に座るように促した。
お父様は真剣な顔つきでこちらを見ている。
この顔で大体わかる。
どうせまたお見合いとか婚約とかの話だ。
「お父様。何度も入っていますが私は結婚などする気はありません」
「ダメだ。今回ばかりはダメだ」
「なぜです?納得いく理由をお教え下さい」
「相手は法国の枢機卿だからだ!」
「っ!?」
枢機卿といえば法国の二番目の権力者だ。
法国はかなりの大国であり最近予想されているであろう帝国との戦争に軍事同盟として招き入れたいのだろう。
その立役者がこの家だとしたらそれは同盟を結ぶきっかけを作り戦争を勝利に導いた公爵家として勲章ものだろう。
貴族の娘は所詮道具でしかないのだ。
「嫌です!納得いきません!」
「おまえに拒否権はない!」
「それだったらお父様のその武器を差上げれば良いではないですか!そしたら満足することでしょう!?」
「それはダメだ!私が子供の頃から集めた高価な品だぞ!」
「だとしても私の人生が売られるのは一人の人として嫌です!」
「ミリー!貴様!今まで育ててやった恩を忘れたか!」
「そうよ!あなたの学園に入っているお金は誰が払っていると思うの!」
「なぜ断る!貴様は色恋にうつつを抜かすなと言っておったはずだ!別に男がいるわけでもなかろう!それにこれは決定事項だ!もう向こうと話を進めている!」
「、、、、」
「男がいるとか言わないでちょうだい!」
「いや、いるのか?」
「、、、、」
いない、と言ったら嘘になる。
まだ付き合っているわけじゃないけど好きな人ぐらいはいる。
お母様の今の表情はなんでもするときの顔だ。
ここでナナタリーの名前を出したら恐らく彼はお母様が始末しようとするだろう
「いるのかいないのかはっきりしろ!」
「いません!」
「ならばよかろう!貴様は今日から退学だ!法国に送り届ける!」
もう嫌だこんな家。
折角ミイマが平民と貴族の一つの隔たりをなくしてくれると言ってくれたのに。
こんな国がどうした。
もういい。
逃げよう。
壁にかかっている槍を掴んでそれを構える。
「っな!?貴様!何を、、、」
ガシャァァァン!!!
ミリーの投げた槍はガラスを破り庭にささった。
ミリーはそこから飛び出し槍を取り門を飛び越えて街の暗闇に消えていった。
その夜、高級住宅街に公爵の悲痛な叫び声が響いたという。
その時まだ公爵と公爵夫人は知らなかった
ミリーの班には凶悪かつ強大な悪魔がいることに
そしてまだミリーは知らなかった
自身の逃亡がこの時代に大きな変革を起こすことに