デールの迷宮
「いやぁ!悪いな付き合わせちまって!」
「いえいえ、私たちも行く予定でしたから」
どうしてこうなったんだろう?
ここはデームの迷宮『悪魔の巣窟』の中、第五階層である。
基本的に一階層から五階層は魔界に居ない『悪魔の血脈』と言われる下位悪魔より弱い種族しかおらず6人(ナナタリー以外)は苦戦することなく進んでいた。
え?一人多い?
そう。一人多いのだ。
食堂で肩を叩いてきた厳ついにいちゃんが一緒である。
迷宮に潜りたかったそうだが残念ながら“この世界”の迷宮は3人以上でしか入れないらしく、デームはかなりの高ランクらしい。
因みにAD.worldではランクという制度はない。
国もそうだったがこの世界はAD.worldにないものが多い。
そもそもAD.worldの世界は大陸間で戦争をしており第一大陸・エンズが天使側、第二大陸・ミールが悪魔側の大陸として戦争を続けており、他に第三大陸である中立のノルルヲがあるがそこはひとまず置いておこう。
天使側のプレイを選んだ場合最初はエンズに、悪魔側のプレイを選んだ場合は最初にミールに現れることになっている。
天使側は天使を殺せず悪魔側は悪魔を殺せない
因みに敵側の天使や悪魔を召喚した場合襲われることになっている。
これで経験値を荒稼ぎしようとしたやつもいたが無効になるのですぐに居なくなった。
魔物ももちろんいるがPK(player kill)が行われるのは当たり前であり寧ろPKをしないプレイヤーの方が少なかったのだ。
だって戦争だもん。
NPC(non player character)である悪魔や天使の中で悪魔の大王と天使の賢王のみ超極稀にかなりの低確率で(プレイヤーは)超ドS職として一人だけゲット?できたはずだがそれは俺と近藤哲生がキャラクターの種族として保持していたので無理な話だったはずだ。
「とうとうきたぜ、第6階層へ行くためのボス部屋!」
おおと、どうやら気か付かぬうちにボス部屋に到着したようだ。
確かこの迷宮の五階層ボスは『悪魔の血脈』の中でも低位に位置するブカバクだ。
ブカバクは人間の赤ちゃんほどのサイズで6本の足を持ちコブだらけの顔の若干カエルっぽい悪魔の血脈で人間を体で絞め殺そうとしてくる。
が、HPは低くあまり強くは無い。
「とうとうボス部屋だね!ナナタリー大丈夫?」
「う、うん」
「おいナナタリーつったか?お前さんは努力すれば成長するとおもうぜ!なんせそんな剣見たこと無いからな!」
「は、はい!」
「この先にはブカバクがおります。体に近づけると絞め殺そうとしてくるので注意が必要です」
「なんで知ってんだ?初見だろ?」
「はい。でも知っているものは知っているので」
「言う気はないんだな?それはそうと後ろの嬢ちゃんたちはあんな大きな槌を使いこなせるのか?」
「簡単よ」
「簡単です」
「サラッと言うな。そんな大きな槌使ってるやつなんて見たこたねえぞ」
「今見たでしょ?」
ガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!
俺たちを招き入れるようにボス部屋の扉が開かれて行く。
迷宮のボス部屋は簡単には逃げられないようになっており扉が閉じてからボスが現れる仕様になっていて、ボス部屋で死んだ場合、迷宮の入り口にリスポーンするようになっている。
「勝手に開いたな」
「死んだ場合は生き返るんですの?」
「は?何言ってんだ?死ぬに決まってるだろ」
え?まさかのリスポーンなし?
悪魔であるネア、ノア、俺は魔界に復活するからいいけど人間であるナナタリー、ミリー、厳つい兄ちゃんは復活しない事になるぞ?
まあいいか。
その時はその時で蘇生魔法使って蘇らせよう。
ドアが閉まりボスであるブカバクがでてくる。
「キモいな」
「ナナタリー、あんなキモい奴早くやっつけちゃおうよ」
「ははは、僕にはちょっとできないかもね」
「ジュガァ!!!」
ブカバクは早速一番弱そうなナナタリーに襲いかかって行く。
「ブギャァ!?」
ブカバクはナナタリーにたどり着く前にミリーの槍に貫かれ絶命した。
結構早かったな。
ナナタリーも一応は反応はできたようでフランベルジュを抜いてはいた。
「あれ?ボス倒したのに奥の扉開かないね」
「ああ、言い忘れていたんですが、、、、」
「ブギャラ!!」
「ギャララァァ!!!」
「ジュロァアァァ!!」
「ブカバクは20体出てきます」
奥からぞろぞろと気持ち悪いブカバクがでてくる。
「ねぇ!一体だけ真っ黒のがいるよ!」
なんだと!?
黒いブカバクだと!?
黒いブカバクは変異種で通常のブカバクよりも強く固有能力:『中速再生』を持っている。
HPも同時に回復するし結構厄介な相手だ。
ナナタリーにはちょうどいいかな?
経験値がそれなりにあるから勿体無いんんだけどなぁ。
まあいいか。
「ナナタリーは黒い奴相手にしてください」
「んじゃあ俺が5匹受け持つぜ」
「じゃあ私は3匹でいい?」
「お姉さまは下がっておいてください。私が下等生物を片します。
「ガルラァァァ!!!」
俺らの態度が気に入らなかったのか全てのブカバクが襲いかかってくる。
とりあえず俺とネアは下がって観戦している。
ノアに襲いかかったブカバクは空中で槌の打撃によってミンチへと変わったものもいれば、魔法で氷漬けになったものもいる。
厳つい兄ちゃんに襲いかかったブカバクは全てが四つに分かれて絶命していた。
ミリーは槍で突いて殺したブカバクの死体をもう2体のブカバクに投げつけて行動を阻害し足を数本槍で横薙ぎにした後に一気に串刺しにして勝利した。
一方ナナタリーは変異種ということもあって苦戦をしている様子。
中速再生は治癒遅延で相殺されておりブカバクに焦りが見えている。
ブカバクのHPが1割になった時に頭にフランベルジュが突き立てられてブカバクは絶命した。
『限界成長』で攻撃力が低くなっているからブカバクのHPをあまり削れなかったのだろう。
ナナタリーのHPもほどほどに削れており残り4割程度だった。
なぜわかるって?
それはもちろん初級魔法:『生命力可視化』を使ったからだよ。
「ナナタリー大丈夫?」
「4割ほどしかHPがないようですね」
「回復したほうがいいな」
「お姉さま、お願いします」
「はいはい」
上級魔法:『上級回復』がかけられHPが回復し傷が治っていく。
「あ、ありがとうございます」
全てのブカバクが倒し終わったため奥の第六階層へと続く階段と地上へ戻るための転移魔法陣が解放される。
この転移魔法陣は一回しか使えず戻ってくることもできない。
「どうする?行くか?」
「どちらでも構いません」
「そうか、俺はこの後用事があってな。先に帰らせてもらうぜ。また会おうや」
「はい、ではまた」
厳つい兄ちゃんは魔法陣を使い地上へと戻っていった。
あ、あの人の名前聞いてなかったな。
魔法陣は甲高い音と共に砕け散った。
「あーーーーー!!!魔法陣壊れちゃったじゃーん!」
「僕たち戻れなくなるんじゃ、、、」
「いや大丈夫よ。次のボス倒せば戻れるわ」
「次ってどこですか?」
「次は第十階層だな。その次が二十、三十、四十だな。四十〜五十は強力な『悪魔の血脈』と悪魔が一体ずつ出てくるから一階層ごとあるぞ」
「なんで知ってんのよ、、」
「秘密」
階段を下りていくと堅い壁がだんだんと小さくなり最終的には柵へと変わっていった。
あたりには墓が大量にあり濃い霧がかかっている。
このいかにも幽霊が出そうな場所は開発部切ってのホラー好き・入江上助が作ったものだ。
これが二十階層まで続く。
無数にある墓の中で中心にある青い悪魔の銅像が複数ある大きな墓が次の階層への階段へとなっている。
出てくるのは不死系魔物であり再生能力が高く大量に出てきたりする。
死んでいるのになぜ不死なのかはよくわからないがとりあえず神聖魔法を浴びせるかばらばらにすれば勝てる。
物理攻撃が効かない死霊や魔法死霊は魔法を叩き込めば大体一発で倒せる。
「ねぇ、絶対ここ不死系魔物でるよね?でるよね!?」
「ミリー落ち着いて」
「うう、怖いよぉ〜」
「あなた本当に白服なの?」
「制服見ればわかるでしょー!!!」
「怖いのですか?それじゃあ、」
ノアが中級魔法:『鉄心』ミリーにかけると震えが止まり怖く無くなっていることがわかった。
「大丈夫?」
「大丈夫よ!ありがとねナナタリー!」
「うがぁぁぁっぁぁ、、」
「きた!」
「前方から動死者が4体きます」
「私が行くよ!」
「あ!ミリー!動死者は潰さなきゃいけないんだよ!」
「分かってる!四段槍術:粉砕槍撃・四段突き!」
一瞬のうちに動死者4体に大木な風穴があいてそこを中心に破裂した。
「なかなかの威力だな」
「どんなもんよ!」
「僕に仕事がなさそうだなぁ」
「アンデットにあまり斬撃は聞かないからな」
「デミル、あなた口調が戻ってるわよ?」
「5人しかいないんだからいいだろ」
「そうじゃなくて違和感があるんです」
「気にしない気にしない、さて諸君?今のゾンビの破裂音で大量に出てくるぞ」
「え?気配感じませんよ?」
「墓からな!」
ボコ! ボコ! ボコ! ボコ!
ボコ! ボコ! ボコ! ボコ! ボコ! ボコ!
ボコ! ボコ! ボコ! ボコ! ボコ!
ボコ! ボコ! ボコ! ボコ!
ボコ! ボコ! ボコ! ボコ!
ボコ! ボコ! ボコ! ボコ! ボコ! ボコ!
ボコ! ボコ! ボコ! ボコ!
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ボコ! ボコ! ボコ! ボコ! ボコ!
ボコ! ボコ! ボコ! ボコ! ボコ!
ボコ! ボコ! ボコ! ボコ! ボコ! ボコ!
ボコ! ボコ! ボコ! ボコ! ボコ!
「むりぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
『鉄心が耐えきれなかったようだ。
腕、頭、腹、足の順番で這い上がってくる動死者達。
魔弓召喚で禍々しい弓を召喚し『死の矢雨』を放つ。
さすが第五位階。ちょっと発動に時間がかかったが威力はすごい。
不死でも一応魂が残留した死体のようなものなのでボコボコ死んでいく。
この魔法を付与つきだったら恐らく死霊系でも死ぬだろうね。
だって魂そのものだもん。
それは置いておいて結構倒したな。
残りは125か。
又々「から揚げうめぇ@たらこマヨ付き」が考えた技である最超位弓術・八十矢奏葬に第一位階魔法:『不動の呪い』を付与した『不動の矢奏葬』を使う。
「から揚げうめぇ@たらこマヨ付き」は偉大なプレイヤーである。
弓矢使いのプレイヤーの中ではランキング1位だったし結構やり込んでいたのは明らかだったな。
魔力によって勢いを殺さず刺さった動死者の動きを次々と封じていく80本の矢。
動けなくなったら動死者を差し引いて残りは45。
問題なく倒せるだろう。
「ナナタリーは20やってね」
「え!?無理だよ!」
「強くなるためにはやらないとダメですよ?」
「わかりましたよ!!」
ナナタリーはミリーの後ろから前に飛び出しゾンビの頭を切っていく。
再生能力は『治癒遅延』で封じられ倒されてはいないが動きが遅くなっていく。
五分後にはネアとノアも前に出てきたためゾンビの大群は全滅した。
その地点から3分も歩くと悪魔の銅像が一体置いてある墓にたどり着いた。
その銅像は動き出し俺に襲いかかった。
「おらよっと!」
砕け散り砂になった銅像が俺の前に積もっていく。
「え!?なに!?」
「第七階層に行くための階段を守っている魔人形だ」
墓の石が浮き上がり階段が姿を表す。
「とりあえず第六階層制覇だな」
「実感がないんだけど、、、」
「弱かったからな」
「いや弱くないよ!」
「貴方達が弱いだけでしょ?」
言い合いが続き降りるのに10分もかかった。