短入生はくっそ悪魔
「い、行ってきます」
「いってらっしゃいお兄ちゃん!」
妹の元気な声とは裏腹に緑制服の生徒・ナナタリーは陰鬱な雰囲気で魔剣学校へと歩き出す。
ナナタリーは校内身分最下級の奴隷生徒なのだ。
どうしてこんなことをする必要があるのかナナタリーにはわからなかった。
だが校長が言うには、
『世の中の理不尽を体験しそれに耐え抜くことで強靭な精神を身につけることが大切なのです』
らしい。
『そんなの一部の奴らは理不尽な体験をしていないじゃないですか!』
そう言ったはいいが後の祭り。
校長に目をつけられ学校中から嫌厭されている。
なんども辞めたいと思ったが母や父が苦労して手に入れているお金もすでに払っていてしまい申し訳なくなり辞めたいなどとは言い出せない。
魔剣学校は九年制で彼は今6年だ。
実力があれば誰でも入学できたまに大人もいる。
ナナタリーは思わず右手の人差し指にはめている指輪を見る。
この指輪の価値は一体いくらぐらいするんだろう?
魔力を通すと半透明な薄い黄色い結界が現れる。
「ふぅ〜」
魔力を通すのを止めると結界も消えていった。
不意に時計塔を見る。
「あ!時間無い!」
ダッシュした。
〈少し後〉
ギリギリ間に合った。
良かった。
「今日は珍しく遅かったねナナタリー」
隣の席の友達が話しかけてくる。
こいつがこの学校でたった一人僕に話しかけてくる生徒。
「寝坊してね。それよりもまた校内身分が上がったんだね。ミリー」
ミリー。赤毛が似合う美少女。この子だけは派閥関係なくみんなと仲良くするとても明るい子だ。
ちなみに公爵令嬢。
実際の身分さも異常だ。
「うん。なんかごめんね」
「白の君に頭下げられたく無いんだけど、、、」
「それよりも!」
「!!、、なに?」
「その指輪。誰からもらったの?」
「えっと〜、、知り合いのおじさんから、、」
「そうなんだー」
ガラ!
「おらぁ〜席につけぇ〜」
「ベーグ先生酒くさ〜い!」
「昨日飲み会だったからな〜」
「毎日飲み会じゃないですか!」
「そうですよ!周りの迷惑も考えてください!」
「うるせぇなぁ〜。今日はこの6ー6に短期入学生が来てんだぁ。早くしろぉ」
ざわつく教室。
「先生!それ本当ですか!」
「そんな嘘つくわけねぇだろぉ〜。入ってこい」
短期入学生、略して短入生が入ってきた。
その瞬間教室はざわつく。
三人いたのだ。
しかも三人が三人とも超がつく美少女。
朱髪と蒼髪の双子のような少女。
そして血のような真っ赤な赤に暗く全てを吸い込むような黒が混じった髪の少女。
「みなさんこんにちは。“ミイマ”と言います。よろしくお願いします」
「アーネよ」
「アーノです。よろしくお願いします」
ただ、みんながざわつく理由は他にもあった。
全員が黒なのだ。
魔法で外見を少女に変えて学校に潜入成功!
とは言い難い結果になっている。
なぜかって?
全員が黒制服だから取り巻きがうるさいのだ。
特にノアには多く付いている。
俺は前世の名前であるミイマ。
ノアとネアは名前を逆にしただけである。
どうやら短入生である俺たちが気になるのか廊下の外にも大多数の生徒がつめよっていた。
朝の休みの時間だしね。騒ぎたくなるのもわかるよ。
「アーネ、アーノ行きますよ」
「わかったわよ」
「はい」
詰め寄っていた生徒たちを押しのけ廊下から中庭の誰も見え無いところに隠れる。
「とりあえず入学はできた」
「なんでまたこんなことを?」
「そうです必要性が無いです」
「要するに暇つぶしだ」
「「え〜〜??」」
「どうやら身分上げのため試験がもうすぐ行われるらしいんだよ」
「それで?」
「クラスにいた緑の少年わかるか?」
「ああ、校内身分が奴隷のあの子ですね?」
「身分上げ試験は班で行われる。あいつを班に入れあいつの身分を上げる」
「何のために?」
「実はね。いじめ問題が発覚し解決が必要になった。そして解決する代わりに帝国兵が
進軍してきた場合捕虜をいろいろな実験に使わせてもらえることになった」
「なるほどね」
「さて戻って勧誘だ」
班は7人。
さて、誰にしようかなぁ?
僕とミリー以外は取り巻きになるために短入生である3人に詰め寄っている。
僕なんかどうせやっても無駄だ。
それに彼女らはすぐに自分の派閥を作るだろう。
やっても意味の無いことはしない。
「ミリーは行かなくていいのか?君ならすぐに派閥に入れると思うけど?」
「私はいいの。派閥とか大っ嫌い」
「ははは、、なるほどね」
突如彼女らは立ち上がり中庭に消えていった。
この意外な行動に僕やミリーどころか取り入ろうとしていたものまで驚愕している。
1分程消えた後彼女らは戻ってきた。
また取り入ろうとする人たちが集まっていくが彼女らはこっちに来た。
「なんですか?」
ミリーが威圧をかけた声で彼女らを睨む。
「ねぇ?私達と、班を組まない?」
「っな!?」
「ミイマさん。そいつは奴隷ですよ?そんな奴より、、
「私はあなたに声をかけていない」
取り入ろうとしていた赤の生徒がばっさり断られた。
「近くに身分上げの試験があるでしょう?あなたたちに協力したいの」
「あなたたちに得があるとは思いませんが?」
「ミリー!止めよう!相手は黒だよ?」
「ナナタリーを何に使う気ですか?」
険悪な雰囲気が流れる。
「ナナタリーねぇ。いい名前じゃない」
『これでいいかしら?』
「「っな!?」」
『声に出さないの。ただの魔法だから』
『何が望み?』
『その前にナナタリーくん。指輪、でわかるかしら?』
『指輪?』
僕にはわかった。
たったその一言で。
髪の色も一致している。
『ミリー。この話を受けよう』
『いい判断ね』
『何があったのナナタリー』
『一回切るわね』
僕との魔法が切れてミリーとミイマさんは未だに話していた。
ミリーの顔が赤くなっていく。
え?なんで?
怒ってくれているのかな?
「わかったわ!」
「え?」
「あなたの班に入ります!」
「納得してくれたようで良かったわ」
何の話していたんだろう。
「何を交渉材料にしたの?」
授業合間の休み時間ネアにそう聞かれ俺はこう答えた。
「どうしてミリーって子はあんな反応をしたと思う?」
「さ、さぁ?」
「ナナタリーくんを他の女に取られたくなかったんだよ」
「「あーーー」」
「それこう話しかけたんだ。国王にパイプがあるから平民と貴族が結婚できるように働きかけてやるってね」
「なるほどね」
「つまりあのミリーって子はナナタリーという子と結婚することを前提に
私達の計画に協力したってことですね?」
「そういう事。さて、そろそろ次の授業が始まるぞ」
この会話は魔法で聞こえないようにしているため聞かれていない。
外の会話は丸聞こえである。
とは言っても男子2名しかいないが。
「次どこだっけ?」
「校庭で各分野の練習だってよ」
「じゃあ特に何もいらないか〜」
「どうせ的は上位身分が陣取るしなぁ」
「でもこのクラス黒は短入生の美人しかいないからいいよなぁ〜」
「お前はどれが好みなんだ?」
「ミイマって子かな」
「確かに美人だけど冷たそうだよな」
「その目がいいんだよなぁ」
「ドMだな」
「しかし羨ましいなぁ奴隷とミリーさん」
「それな」
「やべ!時間ねぇ!」
「行くぞ行くぞ!」
あと1分で授業が始まるのか。
三人で教室を出て校庭に行く。
既に6−6は集まっており各分野に分かれていた。
剣と魔法とその他である。
俺ら三人剣は使えないのでパス。
魔法は全員使えるが高度過ぎて図書館と同じ事が起こったら嫌なのでパス。
よってその他だ。
その他には、格闘・槍・弓、そして一人だけフランベルジュがいた。
誰?と思ったがなんとナナタリーくんだった。
フランベルジュとは刀剣類のの中でも炎を模した波打つ刃の剣の形式でめちゃくそかっこいい。
でもそのかっこよさとは裏腹に斬られたものは癒えにくく荒れた傷を付けられるという凶悪な武器だ。
正直神経接続している2Sゲームでは入れたくなかったのだが武器マニアの後輩・飯田が絶対入れたいと言って聞かなかったのだ。
特殊効果は『治癒遅延』で治癒魔法や薬の効果が薄くなるという最悪の武器設定にした。
だがフランベルジュを使えるのは専用の職を手にしたものしか扱えずその職の当たる確率は最高職ほどではないがかなり低い。
その代わり強力かつ凶悪。
だったはずなのにナナタリーくんは緑なのだ。
「おい奴隷、お前弓の的になれよ」
「え、、」
「それよりも俺のサンドバックになって欲しいんだが?」
「みんなやめて。ナナタリーいきましょう」
「う、うん」
なんと槍はミリーだった。
面白い班になりそうだ。
二人はこちらにきた。
「たいへんですね」
「図書館みたいな騒ぎはやめてくださいよ」
「何したんですか?」
「秘密」
「お〜い授業を始めるぞ!」
なんと教師が数名出てきて各分野ごとに授業を始めた。
「デ、、おほん!ミイマさんは何をやるんですか?」
「弓です」
「他のお二人は?」
「大槌です」
「お、大槌なんだ、、、、」
「槍とフランベルジュは先生がいないんですよ」
「黒だからって調子乗んないでよね!」
「わかってるわよ」
「ちょっと来てくれない?」
「いいけど何するの?」
「秘密」
四人を引き連れて誰もいない校庭の中央に向かう。
中級魔法:『土壁』を多重発動し校庭の中央に円形の壁を作る。
「っな!?」
「なんだアレは!?」
外から驚きの声が聞こえるが無視する。
「さてナナタリーくん。君は武器はフランベルジュ。それでいいんだね?」
「はい」
「じつはフランベルジュを扱える者はこの世にほとんどいないんだ」
「っそ、そうなんですか!?」
「ああ。ほとんどの者は装備もできないはずだ」
「そうだったんだ。やったねナナタリー!」
「う、うん!」
「それなのになぜ緑なのか?そう考えたときにある仮説が出てきた」
「か、仮説?」
「そう。可能性は2つ。君の固有能力の可能性。もしくは呪いか」
「の、呪い!?」
「でもそんな呪いを私は知らないんだ」
「つまり僕の固有能力?」
「それを制御できるようになれば君は強くなれるはずだ」
「ミイマさん」
「なんですかミリー」
「説明してるときにキャラ変わってたよ?」
「変わってたわ」
「変わってました」
「それよりも!君の職・Lv・固有能力を教えてくれ」
「は、はい。『炎曲刃剣士』・Lv8・『限界成長』です」
「あ〜、成る程。理解しました。貴方に必要なことは、、、」
「「必要なことは?」」
「死ぬレベルの危険な訓練だ」
「「「「え?」」」」
「おらぁ!もっとはじけぇ!!」
「無理無理!!」
「矢を予測して剣の軌道と合わせてはじけぇ!!」
今何やってるかって?
それはもちろん俺以外の4名を魔法付与した矢を大量に躱させているところだよ。
ちなみに声は魔法で遮断しているから壁の向こう側には爆音と矢しか確認できないはず。
「あいつ絶対多重人格だってぇ!性格男じゃぁぁん!!!」
「素の口調がこれだぁぁぁ!!!!」
そして数分後ついに、、
「ぐはぁ!!」
「ナナタリー!?きゃ!!!」
「この数は無理!」
「お姉様!危ない!」
「え!?きゃぁ!!」
「お姉様!?う!?」
ボロボロになった四人。
制服も危ないところまで来ている。
上位魔法:『範囲上位治癒』を使いまずは体の回復。
そして中位魔法:『衣服複製』を使い服も直していく。
「全方位からの矢攻撃はやりすぎたか?それでも限界成長に覚醒の兆しは見えず、か」
限界成長は隠し要素があり、最初は職がうまく使えず雑魚だが危機に瀕すると『覚醒』という現象が起こり限界成長は消えるがその代わり身体能力やLvの向上に加え新たな通常能力が手に入り職もうまく使えるようになるという結構な強め能力なのだ。
「ぐほっ!ごほっ!」
「これは、やり、すぎ」
「魔力切れです、、、」
「最悪、、、」
流石にネアとノアは疲れただけだったがナナタリーとミリーは咳き込んだり息切れでぶっ倒れ状態だ。
「上位魔法:範囲上位疲労回復」
赤の魔力が四人を包み魔力や体力を回復させていく。
「さて、」
「「「「っツ!!」」」」
「続け、、、、、
「もうすぐ授業終わりだぞ〜!!!」
壁の向こうから先生から声をかけられたため中断を余儀なくされた。
「っち、」
壁を崩し6−6の集まっている場所へ戻っていく。
「さて、おまえら。有意義な時間にはなったかな?このあと飯だからさっさと行くぞ」
『『はい!』』
四人だけ、返事がやりきった感があった。
このあと扱こう。
飯である!
この世界に来てからの一番の楽しみといっても過言ではない食事の時間である。
どうやらこの学校は食事は大食堂でとるらしく身分によって頼めるものも違うそうだ。
やはり俺は一番いいやつを頼む。
ちょっとしたコースである。
つまり言うと運んで来てくれるのだ。
ネアとノアはお揃いのものを頼んだようでご満悦の様子。
こいつらマジのあっち系だからな。
今度防音個室でも用意してやるか。
王城でたっぷり“している”と思うけどね。
さて、料理が来た。
まずは前菜。
春の野菜を使った冷製スープ。
とでも言いたげな緑色の野菜スープだ。
口に運ぶと甘いようで苦い味と少しごろっとした野菜の食感が味覚と触覚を刺激する。
「うm、、おいしいですね」
「今あなた、うまいっていいかけたでしょ?」
「なんのことかわからないですね」
あっという間にスープはなくなりメインの登場である。
数種の小さめチキンステーキが数個ある鉄板料理でハーブの香りが食欲をそそる。
すると近くの席にナナタリーとミリーが座ってきた。
「どうもこんにちは。さっきはよくもやってくれたわね」
「よくわからないです。何をやったのでしょう?」
「こいつ〜!!」
「ところで、、本当に足りるのそれ?」
ネアがいいことを言った。
そうナナタリーの飯の量が異常に少ないのだ。
「奴隷用はこれしかなくて、、ははは」
「やるよ」
俺はチキンのうち半分をナナタリーにくれてやった。
「で、でも!」
「じゃあ奴隷に命令します。栄養のある食事をとり強くなりなさい」
「わ、分かりました。ありがとうございます」
その勢いは凄まじいものだった。
やっぱり腹が減ってるんじゃないか。
半分になったチキンを食べ終え最後に紅茶を飲んで終了。
紅茶はまだ残っておりカップに継ぎ足していくと水音と共にいい香りが席を包む。
「さて、少しお話があります」
「なに?」
「なんでしょうか?」
「嫌な予感しかしない」
「私達はこれからナナタリーを強くして最低でも白にするために動きたいと思います」
「またあれをやるの、、、、」
「あれは無理だから」
「あれはやりません」
「じゃあなにやるの?」
「王都の隣の町の名前は?」
「確か迷宮都市・デームだったわよね?」
「ええ、私たちでそこに挑むわ」
「「「「えぇぇぇ??」」」」
「なんでよりにもよって迷宮なのよ!」
「幸いにも明日は休みだからです。それにナナタリーの限界成長はかなりの危険を味合わないと覚醒しません」
「なるほど」
「それに、、」
「「「「それに、、、」」」」
「あの迷宮の魔物は悪魔系が多いからです」
一瞬にして顔を青ざめたのが一名。
明るくなったのが2名。
よくわかっていないのが一名。
見たことあるやつ・楽勝・知らない、の反応だった。
そのまま、早く昼休みにならないかなぁ。と考えながら食堂に座っていたら急に後ろから肩を叩かれた。
「なんでしょうか?」
厳ついお兄さんがいた。
魔物!!!
魔法死霊王・・・真っ黒なボロボロのローブを着ている。
実体がないため核である赤い魂球という球を破壊すれば勝てる
魔法を使えて強い個体は上位魔法を使う。
魔法攻撃しか効かない。
豚頭・・・強欲で巨大な豚人間みたいなやつ。
女がいればどんな種類であろうと犯して子供を産ませて最後は食料にする。
力が強いが頭が悪すぎてすぐ同じ罠にひかかる。
一回に10匹ぐらい子供が生まれるからシャレにならない。
豚頭王・・・豚頭の頭が多少良くなったバージョン。
豚頭が多少でかくなった感時の魔物。
力は比べ物にならない。
今回はここまで!