01 「転生したみたいです」
温かな、それでいて優しげになでられている感覚に目を開きました。
なんだか見慣れない部屋です。私は死んだと思うのですが。どういうことなのでしょうか。
「あ!お母様!ヴィクトル、目を覚ましたよ!ヴィクトル、お姉様ですよ~」
ヴィクトル。おそらく私の名前ですね。名前的に男の子でしょうか。私は女だったし、もう成人していたから…これは転生ですね。
* * * *
ええと、五年ここで過ごして分かったのは私のいた世界ではないということでしょうか。この世界には魔法が存在します。獣人もいるのだそうです。いわゆるファンタジーの世界ですね!ちなみに、ステータスもきちんとあるのだそうです。私のステータスはおそらくチートに分類されると思いますので、鑑定されないよう気を付けるつもりです。だって、レベル1なのにHPは3,600ありますし、MPも1,800あります。なぜか、年齢が一つ上がるとHPは600、MPは300上がるようです。え?あり得ない?知りませんよ。
私のいる国はビュファール王国と言います。お父様の名前はヴァンサン・ベルナード。ベルナード公爵家の当主なのだそうです。お母様の名前はクロエ・ベルナード。もとは、王女だったそうですがベルナード家に嫁入りをしてきたとおっしゃっていました。お姉様の名前はクリスティーヌ・ベルナード。私の五つ上の姉です。
先ほど、ちらっっと告げましたが母は王女だったので現国王は私の叔父ということになりますね。私にも王家の血が流れており王位継承権もあるそうです。ワァ、素敵デスネ。ですが、姉と幼馴染の第一王子に私より一つ上の第二王子もいらっしゃるので私には関係ないでしょう。
「クリス姉様。何を読まれているのですか?」
「ヴィー!これはねビュファール王国の歴史書よ。五歳のヴィーには難しいわ」
クリス姉様は元気いっぱいの女の子なのですが、本を読むのも好きなのだそうです。勉強はそんなに好きではないそうですが。え?私ですか?私は男の子ではありますが病弱なようでほとんど外には出させてもらえません。なので、本を読んでいますよ。前世も読書は好きでしたけどね。まだ難しい本は読ませてもらえませんし、運動はできませんし何もすることがなくて暇ではあるのですが。
「戻ったぞ」
「お父様!おかえりなさい!」
「ヴァン様、おかえりなさいませ」
「あぁ。ヴィー?」
お父様は私がいないのに気が付いたようです。あ、いえ、別にその場にいないのではなく三人のところにまで行けていないだけなのですが。病弱ゆえに走らせてもらえないんですよ。運動って大切だと思いますけどね。
「おかえりなさい、父様。お仕事お疲れさまでした」
まだ、近づき切れてはいないけれど声をかけます。もちろん笑みをつけて。
自分で言うのもなんだがヴィクトルは美形です。さらさらとした銀糸の髪は光に当たるとキラキラしているし、澄んだ緑の瞳に長いまつげ、日焼けしていない白い肌は儚げだけれど美しい部類でしょう。
ただし、儚いのです。ええ、それはもう少し微笑むだけで周りが涙ぐむくらいには。さあ、ここまで言えばお父様がどんな表情をしたのか想像がつくと思います。はい。涙ぐみましたよ。そして駆け寄ってきたかと思えば私を抱きしめて言います。
「すまない、ヴィー!いつかは走り回るどころか剣も扱えるようになるから!」
いえ、お断りしたいです。言いませんけど。ちょっと、いやかなり大げさかな、なんて思いますけど愛してくれているのがわかりますから。
「大丈夫ですよ。僕、父様の子供に生まれられたこと、とっても誇りに思ってるんです」
「運命だな」
「いいえ父様。僕は父様たちが望んだから、僕が望んだからここにいます。巡り合わせなんかじゃないんですよ」
お父様たちは驚いたようだけれど、これだけは譲れないのです。私は運命なんて認めたくないのです。
そういう運命だった、で終わらせられるのは悲しいでしょう?まるでシナリオが決まっていて操られているみたいなそんな風に。
「お父様。やっぱりヴィーには家庭教師をつけるべきよ!こんなに賢くていい子なら先生も嫌な気はしないはずよ!」
「う…いや、しかしなぁ」
え、そんなの知りませんよ?どういうことなのでしょうか。あぁでも、勉強できるならしたいですね。…久々ですがおねだりしますか。
「父様。僕、お勉強したいです。だって、今は何もすることがないんですよ?僕、早く父様を手伝えるようになりたいのに…」
お父様の服の裾をつかみ上目遣いに見上げ、最後に目を伏せれば__
「わかった。探しておこう」
陥・落 です。え?女性が使うようなしぐさですか?でも私、前世は女ですし。それに、小さい子のおねだりに男女は関係ありませんから。可愛ければいいのです。
ですが…そうですね。少しお父様の優しさを利用してしまいましたし、お礼は言っておくべきでしょう。感謝の言葉は大事ですからね!
「父様。ありがとう」
「…かわいい息子の頼みだ。当然だろう」
照れを隠すかのようにそっぽを向いたようですがバレバレですよ。お母様が好きになったのもわかりますね。
「ヴィー?どうしたの?泣いているの?」
あぁ、どうやら泣いてしまったようです。本当に、子供というのは正直すぎて困ってしまいます。ですが、家族の温もりを感じられるならそれもいいでしょう。優しく触れるお母様の手は心地が良いです。
「へへ…嬉しくて」
でも、嘘はつきます。許してくださいね?まだ…言いたくないんです。今言えばきっと、壊れてしまうから。
まだ不安げな顔をする優しい家族に笑みを向けます。決して偽りではありませんよ。心からではないですけど。私が心からの笑みを向けたのは後にも先にもあの人だけ。これから先もそうだとそう決めているんですから。
ねぇ、父様。母様。姉様。
あなた方は私が転生者だと知ったらどうするのですか?
私が…神の愛し子だと知っても変わらず愛してくれますか?
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《ステータス》
ヴィクトル・ベルナード
5歳
Lv 1
HP 3,600
MP 1,800
《称号》
ベルナード公爵家長男 異世界からの転生者 神の愛し子
《状態異常》
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ゲーム要素はまだまだ先です。次回は4月29日投稿です。