7.
何でも明後日から急激に冷え込むらしいですね~
風邪を引かないように暖を取れるよう準備はしておきましょう。何事も体が資本ですからねっ!!
紫乃とシィを見て、少しばかり疑問に思ったことがある。彼女たち二人の言動だ。
俺のイメージしていた奴隷というのは、人生を諦めたかのような虚ろな目で茫然とし、ただ命じられたままに行動する機械人形のような、そんなものだと思っていた。
だが実際は驚く程に快活で、どちらかと言えば生きる事に希望を持っているようにも見える。奴隷として買われた事が、苦でないような……
「なぁ桃尻」
「主殿は鬼畜だな!?」
「はは、悪かったって。それで、紫乃は奴隷であることに抵抗は無いのか?」
「ん、あぁ……抵抗がない、と言えば嘘になるな。命の保証はされているが、人権が無くなるのだ。怖くて仕方が無いさ。
……でも、恐らくシィも同じ考えなのだろうが、主殿に媚を売って優遇された方がまだ苦しい思いをせずに済むだろ?」
「割と打算的なんだな。それ、俺に話してよかったのか?」
「主殿なら、この話を聞いても別にどうもしないと思ったから」
「まぁな」
成程、紫乃の言葉通りなら納得がいく。下に就くものの考えとしては間違っていないだろうし、世を生き抜く術としては最も有効的な手段だ。実際、新入社員が上司にゴマをするのだって同じような理由だろうからな。
「因みに紫乃はどうして奴隷に?」
「偶々立ち寄った街、というか帝国内で柄の悪い男達に執拗に絡まれてな。体をベタベタ触られてつい斬り伏せたのが憲兵に見つかって、それで奴隷になったという訳さ」
「それはとんだ災難だな……」
「そして奴隷に落とされて奴隷商館に運ばれる途中で主殿に買って貰ったのだが、正直主殿には感謝している」
「どうしてだ?」
「私の頼みを聞いてくれたからな。この二振りの刀だけは、どうしても失う訳にはいかなかったから」
隣を歩く紫乃はまっすぐ前を向いたまま、俺の質問に答える。その手は二振りの刀を離すまいと固く握りしめていた。
こうして二人で会話している間、シィは、というと二人の前方に立ってモンスターが居ないかどうか見張りのような役をして貰っていた。
彼女の種族は音に敏感らしく、遠く離れた敵でもすぐさま察知することが出来るらしい。これ程までに見張りにうってつけな種族はいないだろうという事で、俺が紫乃から情報を引き出す間に見張りをしてもらう事にしたのだ。
「ところで主殿、私たちは何処を目指しているのだ?」
「あぁそういえば言って無かったっけ。取り敢えず雨風を凌げそうな寝床だよ。洞窟とかあればいいんだが」
「……街ではダメなのか?」
「ダメだな。異世界人である俺が街中で何のトラブルも無しに生活できるとは思えないし、それだったらいっその事無人島でもいいから人のいない所を生活拠点にしたいと思っている」
俺が異世界人だという事は購入した時に二人に告げているので、その点では紫乃は驚いては無さそうだった。ただ、街中で暮らす予定がないという点に驚いてはいるようだ。
「……正直、俺も戸惑ってはいるんだよ。ついさっき何も知らされずにこっちの世界に飛ばされて、明確な目標もない、手元にあるのはチート級のポイントカードだけ。それでこの世界を生きて行けって言うんだから、人生エクストラハードだよ、本当……」
何の目的も無い人生ほどつまらない物はない。人は誰しもが何かしらの目的を持って生きている、その目的が混乱している俺には見えていないのだ。
正直、元の世界に戻る方法を捜すというのを目的にしてもいいとは思っている。しかし、元の世界に戻ったとしても結局は社畜ルートに戻るだけ。狭っ苦しい日本で生きるよりは、こちらの世界で生きる目的を見つけた方が有意義なのではないだろうか、と悩んでいたりする。
「……あっご主人様!! 何か見えてきましたよっ!!」
どうしたものか、と考え込んでいると、前の方からシィの元気な声が飛んでくる。視線を持ち上げると、シィのさらに奥の方に木で作られた柵と、それに囲まれ幾つも建てられているオンボロ家屋の集合地が見えてきた。
(……廃村か? だとしたらこれはかなりツイているぞ……!!)
「主殿」
「ああ、もし廃村なら勝手に寝泊まりしても誰も困りはしないだろう。ちょっと立ち寄ってみるか。シィ!!」
「はいなのですっ!!」
見張りの為に距離を取っていたシィを呼び寄せた俺は、ある程度の警戒心を持って廃村へと近付いていく。廃村で無かった場合、村人が友好的だとは限らないからな。
廃村に近づくにつれて、廃村だという確信が高まっていく。
全く修理されていない木製の柵には植物が絡みつき、幾つか腐食していたり、住居の幾つかは穴が開いていたり屋根がずり落ちていたり、中には半壊している物もあった。
(これで人が住んでいるってなったら、よっぽどの過疎化と凶作が起きたんだろうな……)
柵の内側には荒れ果てた田畑も見られ、やはり過去に誰かが住んでいたことは明らかだった。
二人を連れて廃村のすぐ傍までたどり着くと、村の全貌が明らかになった。区画整備がされずに乱雑に建物が配置されている所を見るに、恐らくこの村に政治に長けた者が存在しなかったのだろう。……この村が廃村になった理由は幾つかありそうだな。
「さて、取り敢えず使えそうな建物を捜すとするか。二人とも念のために警戒は怠るなよ?」
「「はいっ!!」なのですっ!!」
シィと紫乃に注意を促しておいて、いよいよ廃村の中へと入っていく。見た目からして穴の開いていたり欠損していたりする建物は飛ばして、なるべく形を保っている建物を捜していく。
「しかし……一体何があったんだろうな、この廃村」
「どういう事だ主殿?
見た所、飢餓か何かに苦しんで場所を移したのだと思うのだが」
「いや、俺も最初はそうだと思っていたんだけどな?
中に入ってみればこんなのが落ちているからさ」
そう言って俺は不自然に間隔の開いた家屋の間の土地に落ちていた欠片を拾い上げ、紫乃に見せる。
「これは……炭か? いや、何かが燃えた破片なのか……?」
「多分だが、一般に使用する炭とは違う、何かを高温で燃やして出来た燃えカスだと思う。その証拠に、これが落ちてた場所だけ草が生えていないだろ?」
「……言われてみれば」
「つまり何かによってこの場所だけ焼き払われた。もしこれがただの火事だとしたら、周囲の家が無事なわけないしな。
……ただの推測だが、この村は何者かに襲われた。それも家一つを燃やして消し飛ばす程の力を持った何者かによって、な」
「はえー、ご主人様は凄い洞察力なのですっ」
「あぁその通りだ。いい推察をしているじゃないか」
「「「っ!?」」」
背後から聞こえて来た声に反射的に振り返ると、いつの間にか一人の女性が近付いてきていたらしく、腕組みをして俺たちを俯瞰していた。
「あ、あり得ないのです……シィの察知能力に引っ掛からないなんて……」
「ん? 何だお前ハウウルフ族か。悪いがお前たちの察知能力じゃオレの気配遮断を看破出来ないのさ」
どうやらこの女性、オレっ娘らしい。中々良い個性だ、日本でも滅多に存在しないからな。
……とまぁふざけた考察は置いといて、彼女の種族は恐らくだが”鬼”だ。額の隆起が何よりの証拠だろう。
上半身は包帯なのかサラシなのか分からないが白い布を体に巻き付けているだけ、下半身は腿上の短パンを履いているだけという、かなり開放的な格好をしていた。
「……そちらの名は?」
「オレか? オレはディエナって言うんだ。見ての通り鬼族だ。
そして悪いがとっととこの村から立ち去れ。でないと────死ぬぜ?」
「なっ!?」「きゃっ!?」「主殿っ!!」
ディエナは背後の住居に立て掛けていた棍棒を素早く手にすると、一切の躊躇いなく俺たちに襲い掛かってきた。
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