3.
朝見たら既にブクマしてくれた方が二名もいらっしゃるとは……嬉しい限りです(*^^*)
視界が良好になる頃には、何故か平原に立っていた。
オーケーオーケー、落ち着いて整理していこうじゃないか。まずここは何処だ? 洞窟にいたんじゃなかったのか?
周囲に洞窟らしいものが見当たらないので、あの洞窟とこの場所は本当に別の場所にあると考えた方がよさそうだ。スーツケースの中を確認してみると例の鉱石類が入っていた事から、幻覚でない事は分かる。
となれば……瞬間移動か? まさか、そんな非科学的な……ってここは非科学的なことがあり得る世界か、ならばこの現象は瞬間移動なのだろう。その発動スイッチを俺は踏んでしまった訳か。
(……こんなすんなりと納得していいものなのだろうか)
ふと後ろの方から馬の歩くような、それでいて物の擦れる音が聞こえて来る。振り返ると荷台を引いた二匹の馬と、それに跨る御者がこちらに近づいてきていた。
「おや……これはまた珍しい格好をした人がいますね」
整髪されたオールバックに寒色で纏められた衣類、指に嵌められた宝飾類を見るにそこそこの地位の人間なのだろう、柔らかな笑みを浮かべた男性が話しかけてくる。
「……」
「おっとこれは失礼。別に怪しい者ではありませんよ。
私の名前はメノー、しがない奴隷商人をしています」
奴隷商人。名前からして奴隷を販売する職業に従事するのだろうけど、この世界では奴隷制度が存在するのか。これはまた良くない情報を聞いてしまったものだ。
奴隷が存在するという事は身分、格差が当たり前のように存在するという事で、言わば中世ヨーロッパに似た世界観なのだろう。衣類や馬車での移動も踏まえて考えれば、文明レベルは地球より劣っていると考えていいかもしれないな。
メノーは馬車から降りると俺を食い入るように見つめてくる……いや、正確に言えば俺の衣類を興味深そうな目で見ているのか。
「これは……ふむ、やはりそういう事で……」
「……何が言いたい?」
「いやはや、これは失礼を。
一つ確認なのですが、貴方様は”異界人”、つまるところ異世界から来た人ですよね?」
「……」
何故バレた。確かにこのスーツ姿とか怪しいとは思うけど、だからと言ってそう簡単に異世界から来たって分かるものなのか?
「どうやら図星のようですね。
何、簡単な話です。貴方様の着ている服はおろか、貴方様のお持ちになっている鞄ですら見た事もないのです。
これでも様々な商品、人を扱ってきた私ですから、私が分からない物となればそれはもう異世界から持ち込まれた物だと判断して然るべきだと。そういう推理ですよ」
「……成程。異世界から人が来るのは珍しくないのか?」
「いえいえ、珍しいですよ。ただ以前に比べて回数が増えたといいますか、突発的に現れる機会が増えたといいますか」
「……物珍しさが減ったという訳か。どうりで反応が薄い訳だ」
異世界から来た人なんて、言ってしまえば宇宙人のようなものだろう。もし目の前に宇宙人が現れでもすれば驚く、いや腰を抜かして奇声を上げるとまで言っていい。見た目がまるで人と変わらないとは言え、メノーの落ち着きぶりは寧ろこちら側が不安になってしまう。
「ええ。でも驚いてはいますよ? 珍しいことには変わりはありませんから。
……話は変わりますが、その鞄には一体何か大事な物でも?」
「あー、見るか?」
「よろしいのですか?」
「見られて困るものじゃないからな」
その場にスーツケースを置き、ケースを開いて中の鉱石類をメノーに見せる。途端、メノーの目つきが大きく変化したのが分かった。それだけで、この鉱石類が貴重な品物だという事が証明された。
「……これはまた良い物をお持ちですね」
「だろう? 運良く拾ったんだけど、見ての通り重たくてこれぐらいしか持ち運べなかったんだよな」
俺の一言一句に注意を傾けるメノー。さぁ、ここからは俺のセールストーク力の見せ所だ。
「因みにアンタなら、これらに幾らまで出せる?」
「私ですか? ……良い所、白金貨3枚ぐらいでしょう」
「はっ、話にならないな。別の店にでも売りに行くよ」
「……よいのですか? 他の店では、今提示した額よりもさらに低い額を提示されるかもしれないのですよ?」
「その時は『メノーなら白金貨5枚で買い取るって言ってた』とでも吹っ掛けるさ」
「はは。中々身に堪える脅しですね。しかも私の提示した額より更に上乗せした額を告げるとは……もしかして同業者だったりします?」
「もしそうだったとしたら、俺はこの商品に白金貨6枚の価値をつけるがな」
「……過ぎたる欲は身を滅ぼしますよ?」
「ならとっくに滅んでる筈だろ? 俺もお前も」
「お前だって足元見ているんだから」と肩を上げて見せると、メノーもまた失笑していた。やはり俺の見立て通り、物の価値の分からない異界人だとして安値で買い叩くつもりだったのだろうな。だがまことに残念ながら、それを見過ごしてやる程俺は甘く無いんだ。悪いな。
「……分かりました、白金貨6枚で手を打ちましょう。しかし今それだけの額を持ち合わせていませんので、一度私の経営する商館までご足労願えますか?」
「いや、別にこれの支払いは現金じゃなくて現物支給でいいぞ?」
「と、言いますと?」
「なに、そこに丁度いい金品があるじゃあないか」
そう言って馬の後ろの荷台を顎で指し示すと、「なるほど」という声が返ってくる。正直、国や街によるつもりのない俺が金を持ってもただの荷物だからな。
奴隷を買うことに抵抗は無いのか、と言われると勿論無いとは言い切れない。しかし、『郷に入っては郷に従え』という言葉がある通り、こちらの世界で奴隷が当然のように扱われているのなら、それを買って用いることに何の罪があるだろうか。世の中、順応力も必要である。
「かしこまりました。では査定する前に私の商品をお見せいたしましょう」
メノーの後についていき、荷台の裏側へと歩いていく。
荷台に掛けられた厚めの布に手が掛けられ一気に捲られると、荷台の中には衣類や刀のような武器、そして枷で拘束された麻の薄汚れたワンピース姿の女が三人、俺を見て驚いた表情をしていた。
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