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生と死の狭間で  作者: 叶山慶太郎
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狭間での日常



「もうやってらんねぇ。なんだよあのクソ上司。いっつも仕事押し付けてきやがって。しかも言いがかりつけてくるし。マジありえねぇ」


「そりゃ災難ですね。うーん、別の部署に異動とか、いっそのこと転職とかって無理ですかね」


「転属決めんのは上の人間だし、転職はちょっとな。俺、親のコネで入ったからやめにくいんだよ」


もう何度目かになる人の死際。今日は勢いで自殺してやろうかって人が来ている。肉体的に死にかけの人も来るが精神的に死に近づいた人もここへやってくることがある。


「今の状況の方がキツイんじゃないですか?」


「それは、そうだけど・・・」


「自殺しようってのは仕事がキツイからじゃなくて、その上司を痛い目に合わせたいからじゃないですか?」


「・・・・いや、そんなことは・・・・」


「昔、重度のいじめられっ子がここに来たんですよ。その子凄いんですよ。いじめた人たちの実名と具体的にいじめられた内容書いて、それをマスコミとか警察とか学校、さらにはいじめた人間の家に送りつける用意済ましてたんですよね」


「た、確かにそれはすごいな」


「『命懸けであいつらを苦しめてやる!』って泣きながら言ってました。で、かなり圧倒されちゃってなに言っても弾き返されそうだったんですけど、とりあえず思ったことをそのまんま言いました」


「なんて言ったんだ?」


「『そんなやつらに命懸けんの?』」


「!」


「これ、あなたにも言えることだと思うんですよね。聞いた限りでは彼に比べればあなたなんて大したことないんじゃないですかね。あ、ちなみにさっき言った子は踏みとどまってくれました」


「そ、そうか」


「憶測ですけど、自殺しようとする前酒とか飲んだんじゃないですか?」


「・・・ストレス発散にちょっと」


「はぁ~。勢いで死のうとか、あほみたいですね」


「・・・うん、そうだな。どうかしてたな俺。ちょっと落ち着いてきた。で、どうしたらいいかな?」


「えぇ、そこは自分でやりましょうよ・・・・」


「いや俺だっていろいろ考えたよ!けど、上手くいきそうになくて・・・」


「んー、その上司より上の人に相談するとか」


「ごますりうまいんだよなーあの人」


「周りに頼れる人とかいないんすか」


「皆見てみぬふりしてんだよね。てか嫌がらせされるようになってから俺のこと避けるようになった。関わりたくないんだろうなあ。まぁ一緒になって嫌がらせしてくるとかは無いんだけど」


「退職しましょう」


「えぇ!?」


「なんですかその職場!とっととやめちまえ!」


「うおう、ビックリした・・・。だからやめにくいんだって」


「ご両親も話せばわかってくれるでしょ。それでやめんなって言ってきたら親の方が悪い。無視してやめましょう」


「・・・でもさ、俺がやめたら他の誰かが標的になるんじゃないかな」


「・・・・!」


「それだとなんていうか、誰かを犠牲にして逃げたって感じになっゃうかなって」


「・・・なるほど。じゃあその上司をどうにかするってことでいいですか?」


「できればそうしたいな。失脚とまでは言わないけど少しでもあいつのやったことを晒せられればいいんだけど」


「ん~。周りから証言を得るってのが手っ取り早いかなって思うんですけど」


「協力してくれないだろ。どうせ」


「いやそこは説得次第じゃないですか?」


「いつも俺のこと見捨ててるやつらにそんな度胸があるとは思えない」


「見てみぬふりをしてる、見捨ててるってことは見てはいるってことですよね。だったら少なくともその上司のことをよく思ってないはずです」


「確かにそれは間違いないと思う。関わろうとしないのは嫌っているから。なんで嫌っているかっていうと何をしているか見て知っているからってことだな」


「でもかといって直接上司にぶつかっていこうって提案すると多分断られます。直接モノが言える度胸かあるんだったらとっくにやってるし見てみぬふりなんかしてません」


「そうだな皆怯えてるって感じだし」


「周りが黙ってるのを見て自分も大人しくしてるって人もきっと多いですね」


「うーん。どうすりゃいいかな」


「直接戦わなくていいなら多分協力してくれますよ。結局皆リスク避けたいだけですから」


「具体的にはどうやって?」


「署名を集める、ってのはどうですか?」


「署名か・・・俺が署名を持って上司、いやその上に直談判するってことかな?」


「まぁそうですね。名前書いてくれるだけでいいからって言えばなんとかなるんじゃないですかね。なにより、周囲の人間はあなたに罪悪感がある。これを断ればさらに罪悪感が増すことは明白なんで断ることは難しいでしょ。しかもこれであなたが上司から解放されれば自分たちが救ったっていう結果が得られるんで罪悪感も消え去るし、恩も売れちゃうし嫌な上司いなくなるしでウハウハなんじゃないですかね」


「うわぁ・・・・そんな皆ゲスくないって言いたいところだけど否定しきれないわ」


「そりゃどうも。で、どうします?こちらからの提案は以上ですけど」


「文句無しだ。やってみるよ。ありがとう」


「いえいえこれが仕事なもんで。まぁ今日は大分範疇外でしたけど」


「いやほんとすまん」


「まぁいい経験になったってことにしておきます。似たような人来るかもしれないし」


「そうか。なんていうか大変だな」


「んー、まぁ楽ではないですけど。でもここに来る人の方が大変なんじゃないですかね」


「俺も含めて?」


「いやそれはない」


「プフっ!そうか。そりゃよかった。


改めてありがとう。ほんとに助かった。もう行くよ」


「どういたしまして。それじゃ後ろの方に進んでください。それで戻れるんで。精神的な場合なんで多分痛みとかないはずです」


「ああわかった。あ、そういえば君の名前は?」


「えー個人情報はちょっと」


「いいだろそれくらい。恩人の名前くらい知っときたい」


「冗談ですよ。竜斗です。大河竜斗おおかわ りゅうと


「竜斗か。じゃあな竜斗!いつかまた会おうぜ」


「いやもう来ないでくださいよ。縁起でもない」


「ちげぇよ!次会うときは向こうで!」


彼の姿が消えていく。それと同時に自分の姿も消えていく。上手くいくだろうか。まぁ多分大丈夫だろう。本来彼は明るい人なんだろう。最後に彼はとてもいい笑顔をしていたから。

にしても


「俺は名乗ったのになあ・・・・」


彼の名前はわからない。仕方ない。


次会ったときに教えてもらおう。





さて、次はどんな人が来るのだろうか。







_______________





「なんだよあいついきなり。ずっと何も言わなかったじゃねぇか。署名なんか持ってきやがって」


・・・ん?


「まぁ部下に嫌がらせしてた俺が悪いんだけどよ」


・・・・あれ


「妻や子どもに呆れられちまって。俺どうすりゃいいんだ。もう死にたい」


・・・・・ないわー



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