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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

恥と焦りと

作者: bora


「好きです」




夕暮れ時の教室で、二人きり。


夕日の当たった髪は、先端の色がわずかに褪せているように見え、


紅潮した顔がより目立つ。


告白ドッキリを仕掛けられた経験のある私には、どうしても信じられないのだが、


この状況は、


如何にも告白、という感じである。


見ず知らずの人がドッキリを仕掛けてくるとは思えないし、


何よりも、


彼女の顔が、空と同じ色で燃えているのだ。


それに、私は罰ゲーム告白をされるほど、他人から嫌われてはいない…はずである。


返事に悩んでいる間、


彼女の顔は赤くなり続けている。


このままでは倒れそうだったので、


「とりあえず、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


と、一旦話を逸らすことにした。




彼女が黙り込んでしまってから彼此5分になる。


「そろそろ玄関閉められちゃうよ。とりあえず外行こ?」


この空間の空気に耐え切れなくなった私は、尤もらしい理由をつけて何かしら動作をするよう促す。


実際、文化部の部員達も帰宅し始めているようで、


ぐずぐずしていると見回りの先生にこの状況を見られてしまう。


「松浦琴音。琴音と呼んでください」


赤みが引いて、すっかり水のように澄み切った頬が、再び熱を帯び始めた。


「琴音ちゃんね。可愛らしい名前。ところで、告白してきたくらいだし、私の名前は、知ってるよね?」


一目惚れの可能性もあるのだから、これは少し意地が悪かったかもしれない。


いや、冷静に考えれば、私の友人を仲介して呼び出したのだから、大丈夫だろう。


それでも、なんだか悪いことをしてしまった気がして、恥かしい。


「はい。存じ上げております。加藤蓮先輩…ですよね?」


彼女の返事には、確かな自信と、不安が存在しているように感じる。


「合ってるよ。呼び方は…呼び捨てでいい。それと話し方、もっと砕けた感じでいいよ」


意地悪な質問をしたことに対する罪悪感からか、将又羞恥心からか、典型的な優しい先輩のような発言をしてしまった。


先輩風を靡かせているような心地がして、これまた恥ずかしい。


いや、普通は呼び捨てをしてとまでは言わないか。


しかし、どちらにせよ恥かしいことに変わりはない。


「いえ、お返事を頂くまでは、先輩後輩の関係でしかないので。それに、加藤先輩がどのようなお返事を下さるのかわかりませんからこの先も…」


彼女は、俯いてしまった。


「そんな調子じゃ、私の心はトキメかないよ~。せめて姓じゃなくて名で呼んでくれないと…ね」


焦りから、無神経なことを言ってしまったかもしれない。


ヒヤりとして、隣をチラりと見た。


完全な失敗である。


もっと早く気付くべきであった。


空気に、表情に。


彼女は俯いている。


それでも分かる。


彼女は失望している。


そして、私を軽蔑している。


「ごめん。悪気はなかったのだけれど」


私の口から出た音は、私を護るためだけのものに聞こえる。


ああ、彼女には


その気も無いのに返事を延期するだけ延期して、好意を弄ぶ最低な女に見えているのだろう。


「ははは」


と、かすれた声で小さく笑った彼女は、


まるで短くて暗いトンネルの中から、ようやく抜け出せたような少女は、前を向いて歩くだけだった。


ノートの破片に書かれた連絡先は、


夾竹桃のようだった。










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