~過呼吸 レオside~
『過呼吸とは何か』と問われたら
『極度の緊張状態やパニック状態に陥った時に酸素過多となって二酸化炭素不足になる現象』だったかな?
~レオ=アーサー=グロニクル~
ルナお姉ちゃんの口を塞ぎ、呼吸の制限をしてから十数秒。
今度は酸素が足りなくならないように隙間を開けて新鮮な空気を口内に入れる。
そうしているとルナお姉ちゃんは落ち着き始めた。
「……っはぁ、良かった……」
ボクが安堵しているとルナお姉ちゃんは声を荒らげる。
「レオくん!?突然なに!?」
「ルナお姉ちゃん!興奮しないで!」
「興奮!?突然キスしといて興奮するなって!?」
「パニックに陥るとまた過呼吸になるよ!」
「……っ、そうだよね……わかった。ふ〜」
ルナお姉ちゃんが落ち着きを取り戻してから状況の説明をする。
「別にやましい気持ちがあって…………キ、キスをしたわけじゃないんだよ?過呼吸になった人の処置として袋を口に当てて呼吸を制限するペーパーバッグ法って言うのがあるのね?だけど、さっきのお店の買い物は直接着てきたから袋も貰ってないし、周りに人も居ないしお店も無いし、あの状態のルナお姉ちゃんを動かす訳にもいかないから応急処置として口を塞いで呼吸を制限したんだよ」
ボクは慌てて早口でルナお姉ちゃんに弁明をする。
「あの………だから………ごめんなさい!」
腰を深く曲げて全力の謝罪を行う。
「レオくん………顔上げて………」
ルナお姉ちゃんが冷たくボクの名前を呼ぶ。
「………はい…………っ!」
怒られると思っていたボクは突然柔らかく抱きしめられたことに驚く。
「大丈夫だよ。そんなに怖がらないで………怒ってないから」
ルナお姉ちゃんがボクの頭を撫でながら小さい子供をあやすように声をかける。
「突然のことでびっくりしちゃったけど私を助ける為にやったんだもんね。大丈夫……こっちこそごめんね。驚かせちゃったよね」
ルナお姉ちゃんの声はとても柔らかく、先程まで胸元に溜まっていた罪悪感がスッと消えていくのを感じた。
「ルナお姉ちゃん………怒ってないの………?」
ボクは恐る恐る尋ねる。
「私を助ける為にやってくれたことに怒れないよ。私が話を聞ける状態でもなかったからね」
そしてルナお姉ちゃんは恥ずかしそうにからかうように
「私のファーストキスはレオくんに奪われちゃった」
ボクにそう告げた。
「ごめんなさいっ!!!」
ボクはすぐさま立ち上がり腰を90度に曲げて全力で謝罪を行った。
「で、でも!応急処置だし!ボクとキスをしてもノーカンになるんじゃないかな!!?」
ルナお姉ちゃんの本当に恥ずかしそうな表情が消えかけていた罪悪感を復活させてしまった。
「ほんっとうにごめんない!」
それからボクはルナお姉ちゃんに謝り倒し、ボクが冷静になるまで数分を要した。
そうして二人で落ち着きを取り戻してから盗聴器の話しに戻る。
「さっきレオくん、言うべきことは2つあるって言ってたよね?盗聴器の話しともう1つは何?」
「話してもいいけどルナお姉ちゃんは大丈夫?」
先程の過呼吸になった事を心配して問いかける。
それにルナお姉ちゃんは微笑んで答えた。
「わかんない!」
「はぇ?」
想像していなかった元気な回答にボクは思わず変な声を出してしまった。
「だってさっきも結構な決意を持って聞いていたのにパニックになっちゃったし、大丈夫だっていう確信は持てないかな」
「それなら聞かないほうが……」
「いや、レオくんに心配かけたのは申し訳なく思うけど、もう周りの人に甘えないって決めたから」
ルナお姉ちゃんは普段の優しい目ではなく、強い光が灯っていた。
ボクはそのようなルナお姉ちゃんの決意を受け取り、もともと話す予定だった『予測』を告げる。
「たぶんあの服屋さんは国から依頼を受けてルナお姉ちゃんに盗聴器を仕掛けたんだと思うよ」
※注意書き
今回の話で過呼吸になってしまったルナを助けるためにレオが口で呼吸を制限するという描写がありました。これは過呼吸になった患者に袋のようなものを口に当て、過剰に吸い込んでしまっている酸素を減らす「ペーパーバッグ法」という対処法を元にした描写なのですが、現在この対処法は危険とされています。
もし近くにいる人が過呼吸になってしまってもペーパーバッグ法は行わないようにお願いします。
正しい対処法としては心を落ち着かせるのが一番効果的とされていますのでゆっくりと「大丈夫」などと声をかけて落ち着かせるようにさせてあげてください。