表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神のオトシ者  作者: NiKKy
出会い
2/84

~運命 レオside~


『運命とは何か』と問われたら

『それは天文学的数字を含んだ確率を元に、起こるべくして起きた必然をさも偶然起きたかのように表現したもの』とでも答えておこうか

~レオ=アーサー=グロニクル~



『ママ?パパ?どうして泣いてるの?』

ボクは夢を見ている

『レオ……ごめんなさいね……』

小さい頃の記憶だ

『レオ……強く生きるんだぞ……』

何度も何度も見た夢

『こちらに来たのですね!お久しぶりです!』

懐かしく

『殺せ』

苦しく

『レオ……?なんで……?』

忘れたい記憶

『ああ……空が蒼い……』

これまでずっとボクを苦しめ

『なのになんで……』

これからもずっとボクを苦しめるでだろう

『ボクの手はこんなにも赤いんだろう……』

とても大切な悪夢


「んっ……」

ボクは自分の背中に違和感を覚え、目が覚めた。

「柔らかい?」

確かボクは路上で倒れたはず……

目尻に溜まった涙を拭いながら周りを見渡すとそこは部屋だった。

とても豪華でボクが見たこともない装飾がキラキラ光っている。

ボクはベットの上に寝ていて、隣に置いてあるソファにはお姉さんが横になっていた。

布団を捲って足を確認すると丁寧に包帯が巻いてあった。

「ほっといてって言ったのに……」

サイドテーブルに置いてあった『黒鎌』を持ち、足音を立てないようにベットから降りる。

これ以上この人と関わってはいけない。

そうしないとこの人が不幸になる。

そう思って窓に手をかける。

「ん〜!!!」

起きてしまった。

髪がボサボサのまま背伸びをして周りを見渡している。

「あれ〜?ソファ?なんで〜?」

寝ぼけている。

「あっ!そうだ!赤烏さん!」

お姉さんは勢いよくソファから飛び起き、その拍子に顔面から床に落ちる。

「ん゛っ!」

今のは痛い。

鼻を押さえて床をゴロゴロと転がっている。

「いった〜い!」

そして顔を上げ、ボクと目が合う。

「お、おはようございます。お姉さん……」

「うん!おはよ〜!えへへ〜♡」

鼻を真っ赤にしながらとてもいい笑顔で挨拶をされてしまった。

しかもまだ微妙に寝ぼけている。

「ところで、なんで窓に足なんか掛けてるの〜?」

まずい、お姉さんが面白くて逃げようとしているのを忘れていた。

「い、いや〜、アキレス腱を伸ばす運動?みたいな?」

「そっか〜、朝って身体動かないもんね〜」

誤魔化せたのか……?

「そうそう、赤烏さんこっちに来て〜」

「な、なに?」

「いいからいいから〜」

お姉さんがふらふらとベットの方に移動しながら手招きをしている。

ボクは恐る恐る近づいて行く。

「ベットにドーン!」

「うぶっ!」

そのまま手を引っ張られて二人でベットに倒れ込む。

「一緒に二度寝しよ〜」

そのまま布団を掛けられて添い寝をする形になっている。

「ちょっ!ちょっと待って!」

「だ〜め!まだ寝るの〜!」

「胸!ちょっ!苦しいから!」

ボクはお姉さんに抱きつかれ、顔に豊満な胸を押し付けられている。

「圧迫感すごっ!っじゃなくて!!ぷっは!息!息できないから!」

やばい!おっぱいで窒息死する!

でも……誰かに抱き着かれるってこんなにも心地良いものだったのか……

ボクは窒息しそうになりながらも懐かしさを感じた。

逃げ出そうにもお姉さんの腕がボクをしっかりホールドして抜け出せないので抵抗するのを諦めた。

ボクは久々に感じる人の温かさに癒され、瞼が重みを増していく。

「ふぁ〜、どうせ動けないし、一緒に二度寝するのもいいかもな」

欠伸交じりの言い訳を自分自身にして目を瞑る。

すると部屋の扉がノックされた。

「お嬢様?そろそろ学園に行く準備をなさらないと遅刻しますよ?」

え、誰?

しかもお姉さんのことお嬢様って呼んだ?

そう言えばこの部屋って普通の家のよりも豪華なのか?

ボクはスラム育ちだから良く分からないけれど。

……もしかしなくても、この家って『サテライト家』と呼ばれる家なのでは?

そう考えた瞬間に顔が青ざめるのが自分でもわかった。

「サテライト家のお嬢様と一緒の布団に入ってるなんて首が何個あっても足りないぞ!待って、逃げないと!ってお姉さん力強っ!全然びくともしないんだけど!」

「お嬢様?大丈夫ですか?入りますよ?」

そう聞こえてからゆっくりと部屋の扉が開いた。

そして推定60過ぎの渋いお爺さんと目があった。

「「・・・」」

それから何秒たったのだろうか。

実際は1秒も経ってないかもしれないが、体感永遠のように感じた時間が過ぎ……

お爺さんが扉を閉じた。

それから数秒後、もう一度扉が開かれた。

そしてお爺さんは床に崩れ落ちた。

「幻覚じゃねぇのかよ~!」

「幻覚じゃなくてごめんなさい!!」

ボクはお姉さんの腕の中で全力で謝罪した。

「とりあえず事情聴取をしてぇところだが、お嬢様を起こすのが先だな」

お爺さんは立ち直り、見た目に似合わない雑な話し方で頭の後ろを掻きながらベットに近づく。

「お嬢様?とりあえず起きてください」

「ん〜?爺や〜?おはよ〜」

「はい、おはようございます。寝ぼけているところ申し訳ないんですが目を覚まさせて貰います。」

そう言って爺やと呼ばれた男性は霧吹きでお姉さんの顔を濡らす。

「きゃっ!冷たいわよ爺や!」

「そりゃそうですよ!起きてもらわないとこちらが困りますから!2人とも起きたのならそこに正座をして下さい。あ、お前はお嬢様から離れて」

そうしてボクとお姉さんは床に座らされるのだった。

「まず名前を言え」

「……ボクはレオ=アーサー=グロニクル。昨日裏路地で倒れていたところをお嬢様に拾って頂きました」

「お嬢様、それで合っていますか?」

「ええ、その通りよ」

「お嬢様?外に出られたんですか?」

「ひっ!ごめんさい!」

このお爺さん一見にこやかな笑顔なのに目が笑ってない。

「だって放っておけなくて……」

「だからと言って身分もわからない者を屋敷に入れるなんて……しかも、一緒の布団に入ってるとか……」

「もう、レオったら私のベットに入ってくるなんて大胆なんだから……」

「ちょっと待って!それ捏造!お爺さんこっち睨まないで!」

めっちゃこのお爺さん怖い……

「まあ、お嬢様は眠くなられると近くにある丁度いいサイズの物に抱きつく癖がありますからね」

「えっ!?そんな癖あるの!?恥ずかしい……」

「っと話がズレた。お前の身の上をもっと詳しく」

お姉さんの話をしてにやけ顔だったのが一瞬にして真面目な顔になる。

「ボクはスラム生まれのスラム育ち、歳は13、倒れた理由は働き過ぎの過労、やってた仕事は何でも屋。他に何か言った方がいいことは?」

「昨日路地裏で響いた銃声とお前の関係は?」

「ない」

「その眼帯は?」

「子供の頃に事故に巻き込まれて視力を失っただけだ」

「あとはその……いや、何でもねぇわ。これ以上聞いても意味ねぇな。お嬢様の見る目を信じてもう何も聞かん。お嬢様、今日の学園はお休みして頂いてこの方とこれからのことをご相談ください」

「爺や……いいの?」

「ええ、こいつからは全く悪意を感じません。とりあえずは信じてみてもいいかなと。でも、もしお嬢様に危害を加えるようなら……」

そこで1度言葉を切り、ボクの目を見つめて告げる。

「殺すからな」

「っ!」

その瞬間にボクの息が止まった。

実害を加えられた訳では無いのだが、心臓を鷲掴みにされたような感覚。

これは何度も感じたことがある、『殺気』だ。

このボクが不意打ちとはいえ後ずさり、黒鎌を抜きそうになるほどの濃い殺気だった。

「ほお?今のを受けて反応できるのか」

「あんた、一体何者だ?名家の執事に収まる器じゃないだろ?」

「いや、俺はお嬢様を守るどこにでもいる1人の執事さ」

ボクはお爺さんと睨み合う。

「あの〜、さっきからあなた達何の話をしているの?」

殺気を感じれず、蚊帳の外にいたお姉さんが話しかけてくる。

「いえ、何でもございません。それでは私は朝食の準備をしてきますので、何かあったら直ぐにお呼びくださいませ」

うやうやしく礼をして『どこにでもいる殺気を飛ばせる執事』が部屋から出ていった。

そして2人の間に流れる気まずい雰囲気。

そりゃそうだよね。昨晩人を殺した名前も知らなかった人を癖とはいえ抱きしめてたんだもんな。

「え〜と、とりあえず昨日は拾って頂いてありがとうございました」

ボクは今までしていなかったお礼をお姉さんにした。

「いや!そんな!困った時はお互い様だよ!昨日も助けて貰ったし……」

「昨日のはボクを治療しようとして降りてきてくれたんでしょ?それなら元凶はボクだよ」

「そ、それは……」

お姉さんは返答に困り、黙り込む。

「とにかく、お姉さんはボクみたいな汚れ者と一緒に居るべきでは無い、ボクは直ぐにでもスラムに帰るよ」

そう言って扉に向かう。

「待って!昨日の人達みたいなのにまた狙われないの?」

とても心配した様子でボクを見つめる。

「多分狙われるね」

多分ではなく絶対に。

「そしたら……どうするの?」

「殺すか……殺されるか」

「そんなのダメだよっ!!」

突然の大声にボクはたじろぐ。

「そんなのダメだよ……この世にそんなに軽く無くなっていい命なんてないよ……」

目にうっすらと涙を浮かべながら語りかけてくる。

「昨日のあの2人が死ぬのを見てから手の震えが止まらないの!前におばあ様が亡くなったときはどんどん体力が落ちてって弱っていった。身体が動かなくなって最後は寝たきりになって亡くなった……あの時は苦しそうだな……もう楽になって欲しい……そんな風に考えれた。でも!昨日君が殺した2人は!直前まで動いてた!家族が居たかもしれない!恋人が居たかもしれない!子供が居たかもしれない!なのに……あんなに簡単に死んじゃって……君は昨日、2人の未来を奪ったんだよっ!?」

興奮した様子でボクの肩を掴んでくる。

爪が肩に食い込み血が滲んでくる。

それでもボクはずっとお姉さんの目を見つめていた。

「ってごめん……私を助けてくれた君にこんなこと言うなんて……あんなの初めて見たから混乱しちゃって」

「お姉さん……」

ボクはお姉さんの肩を掴み返し言葉を紡ぐ。

「あの、とても言いづらいんだけどね?」


『甘えた事言ってんじゃねぇよ』


「ボクが2人の未来を奪った?なら殺されそうになってたボクはどうなる?あの場で俺が殺さなければ殺されていた。どちらも生きる道なんて存在しない。そうなったら2人の未来の代わりにボクの未来が無くなっただけさ。生きる為には殺せ、小さい頃から教えられ続けたスラムの常識さ」

目の前のお姉さんは恐怖からか震えていた。

そして足に力が入らなくなったのかペタンと床に座り込む。

「これで分かったでしょ?お姉さんとボクとでは生きる世界が離れすぎているんだよ」

そう言ってボクはお姉さんから離れる。

「……キミ、家族は?」

「そんなの……金目当てでボクを売ったよ」

「っ!」

「ギャンブルにハマって借金塗れ、金の出どころが無くなったアイツらは先に3歳になったばかりの妹を売った。それで借金は返済、少し生活に余裕が出るほどに潤った。でもまたあの馬鹿どもはギャンブルを始めて借金を作ったよ。そして今度はボクを売った。あとは1度も会ってない。また借金を作ったのか、そしてまた子供を作ってから売ったのか。ボクにはそれを知るよしも無いし、知りたいとも思わない。」

そこまで話し、扉に手をかける。

「ボクは消えるよ。影は光に怯えながら生きていく。もう二度とアナタと出会うことがありませんように……」

「待って!」

後ろから怒鳴るような声が聞こえてくる。

「キミ……拾って貰った恩を返さずに勝手に居なくなろうとしてるよね?」

「それは……それが1番お姉さんの為になるから……」

「勝手に返す恩を決めないで!何をして貰うかはこっちが決めることだから!」

口調は強いが、とても柔らかい、とても優しい潤んだ瞳でボクの目を見つめている。

「お姉さん……何を考えて……っ!」

突然お姉さんがボクを後ろから抱きしめる。

またベットに居た時のような安心感がボクを包み込む。

「レオくんには私のボディガードになってずっと一緒に居て貰うから……いいね?」

ギュッとお姉さんがボクを抱きしめる力が強くなる

否定しなければ……お姉さんが不幸になってしまう……

ボクは影だ……光と居ると消えてしまう……

またスラムに戻って仕事をこなすんだ……

灰色の街を赤く染めるんだ……

あらゆる否定の考えが脳内を巡り、なんとか応えようとして口にではのは……

「………はい」

肯定の言葉だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ