八百万の神々 第三話 自称神様との邂逅
「すまん、もう一回言ってもらえる?」
「厳正なる審査の結果、お主は神より選ばれたのだと言った」
自分の耳の状態を確認するために目の前の少女に声をかけると、少女は胸をそらして先と同じ言葉を口にした。
どうやら聞き間違いではないらしい。
「ごめんね、今お兄さんは遊んであげられる気分じゃないんだよ」
少女のそばまで歩み寄っておもむろに頭をなでながら、自分の考える中では最高の笑顔を浮かべた。
「なっ、貴様気安く頭を撫でるでない!!」
しかし、何が気に障ったのか怒った顔で少女に手を払われた。
もしかすると自分の浮かべた笑顔が胡散臭かったのだろうか。
「ごめんね、怒らせちゃったかな?」
「ええい、儂を童扱いするでない!」
何がいけなかったのだろうか、少女は突然怒り始めてしまった。
怒っているといっても、小さな背丈で精いっぱい怖い顔をしてこちらを睨んでいても、微笑ましいとしか思えないのだが。
「さてはお主、信じておらぬな」
「そりゃ、なあ」
不満そうにこちらを睨んでくる少女を見やりながら、大樹は困った風に頭をかいた。
そんな顔をされても、いきなり突飛な話を聞かされて信じろというほうが無理がある。
しばらく怖い顔をして睨んでいた少女は暫くして仕方がない、とつぶやくと台地に左手をかざし右手で左手首を掴んで何事か唱え始めた。
「大地に芽吹く幾千の命よ、わが声を聴け。今こそ花開き給え」
何が始まるのかと少女の様子を見ていると、小さな変化が起こり始めた。
少女の足元から複数の植物が一気に生え、苔むしていく。
あまりにも非現実的な光景に絶句していると、急速に苔むしていく地面の上から声が聞こえた。
声につられて顔を上げると、着物少女の整った愛らしい顔は苦悶にゆがんでおり、時折苦しげな声が漏れていた。
「お、おい、何だか知らないけど苦しいんだろ、無理すんなよ」
「ふん、お前にか……神を信じさせるまで、は……」
額に汗を浮かべていた少女は、遂に限界に達したのか地面に膝をついて荒い呼吸を繰り返している。
目の前で苦しんでいる少女の姿を見た瞬間、これまで考えていた雑多な思考はすべて吹き飛んだ。
ただ、目の前で苦しんでいる少女を助けないと。
その思考だけで脳内が埋め尽くされた。
とにかく、今は幸か不幸か周りに人がいないが、このまま神社に置き去りにするなどもってのほかだろう。
そう考えた大樹は着物少女を一気に抱きかかえた。
「こ、これ、なにをする」
「いいから、ちょっとだけ辛抱してくれよ」
抱きかかえられたことが恥ずかしいのか弱弱しい抵抗をしてくる少女の言葉を無視して、大樹は家まで全力で駆けて行った。