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八百万の神々(仮題)  作者: さつま揚げ
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八百万の神々 第一話 神とプーの邂逅

「はぁー」

寒さにかじかむ両手を擦り合わせながら、俺――楢原大樹ならはらひろきは、最近日課となりつつある美桜神社への道のりをのそのそと歩いていた。

これだけ寒いと何か温かいものがほしくなるが、周囲を見渡してみても、コンビニや自動販売機は見当たらない。

「まあ、こんな田舎じゃそうあるもんでもないか」

一人ごちながら、結局寒さに負け自販機を探すために目的地までの順路を外れ脇道に逸れていく。

 俺の住んでいるここ、美桜市みざくらしは少子化の中では珍しく、今なお人口が増加し続けているらしい。

 三つの町が合併して出来た美桜市は人口23000人、美桜駅のある旧美桜町みざくらちょうを中心にこれまで発展してきた。山を削って平らにし、その土砂を海にもっていって埋め立てることで徐々に人の住める地域を増やしていった。

 今春完成した美桜バイパスによって現在は工業団地建設も始まっているらしく、更に発展が見込める期待の都市…らしい。

先ほどから抽象的な話しかできていないのは、これまで自分の住んでいる街について特に興味がなかったからだ。

 しかし、このままでは駄目だと思い立ち身近なことから手を付けようと思い立ったのが、自分と自分の住んでいる街を知る事だった。

「自分の事ねえ」

我が故郷について思いを馳せるのはここまでにして、自分の事を考えてみる。

Q年齢は? 

A23歳

Q持っている資格は?

A漢検3級、英検3級、ドイツ語検定3級、中等社会1種免許状

 なぜこんな不毛なことをしているのか、そもそも平日の昼間に何をしているのか…それは、地道に就職活動に従事し、今日も面接の帰りだったりする。

結果は…聞かないでほしい。

 ようやく見つけた自販機でコーンスープを買うと、それをカイロ代わりにして両手を温めながら再び神社までの道のりに戻る。

「本当に、発展してきてるって言うんなら近くにコンビニの一軒でも作れよなあ」

俺の記憶だと、ここから歩いて五分圏内にコンビニは存在しない。

駅前とバイパス沿いに「handy」という名のご当地コンビニがあったのは記憶しているが、他はとんと記憶にない。

しかし、自分の行動範囲が決して広いとは言えないため、単に知らないだけという可能性も捨てきれないのだが。

考え事をしながら歩いていたせいか、気が付けば神社まであと少しの所まで来ていた。

鳥居が見えるところまで来て、あともう少しというところで一人の女の子を見つけた。

年は十歳ほどだろうか。

切りそろえられた前髪に腰まで届く黒髪。

知性を感じさせる青みがかった瞳。

何より目を引いたのは、眼前の少女が着物姿だったことである。

ああ、この子は将来美人になるだろうなと勝手な想像をしていると、突然声を掛けられた。

「温そうじゃのう」

「ん?」

いきなりだったので驚いたが、よく見ると少女は小刻みに震えているようだった。

「お父さんお母さんは?」

「いない」

はて、近くにはいないということだろうか。

「温そうじゃのう」

ひょっとして、両親は神社の敷地内にいてこの子だけ鳥居前で待っているように言われたのだろうか。

周りをきょろきょろを見渡していた俺に対し、再度少女は同じ言葉を投げかけてきた。

よく見ると、少女の視線は俺がカイロ代わりにしているコーンスープに注がれていた。

「……飲むか?」

「すまんのう」

缶を渡すと、少女は妙に時代がかった謝礼の言葉を口にした後硬直した。

しばらく缶をじっと眺めて、いや睨んでいたがやがて「どうすれば中の物が口にできるのじゃ?」と問うてきた。

今時缶ジュースの蓋を開けられないというのもかなり珍しい感じがしたが、乗り掛かった舟ということで飲みやすいように軽く振ったあと缶を開けてやった。

ぷしゅっと子気味良い音と共に開いた缶を渡すと、少女は目を丸くして興味深げに眺めていたが、再度「有難う、恩に着る」とやはり時代がかった謝礼の言葉を投げかけてきた。

「いやいいって。ただ缶の蓋を開けてあげただけだし。それじゃ」

「うむ」

親御さんはきっと近くにいるのだろうと判断した俺は、良いことをしてちょっと愉快な気分になりながら鳥居をくぐった。

「よし、決めたぞ」

気分よく参道を歩いていく俺の背中を、しばらく着物姿の少女はじっと見つめ続けていた。



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