prologue
これからの事を思い、記録をつけておくことにする。
我々は悠久の時を生きるが故に、ややもすると密度の薄い時を過ごしかねないからだ。
古来より、人の子はありとあらゆるものに神を見出してきた。
空、海、台地、天候から果ては疫病や天変地異などに至るまで、人は自らの理解の範疇を超えた事象に対し、そこに神を見出しては尊敬と畏怖、そして感謝の念をささげ続けてきたのである。
しかし、科学が発達し一つ、また一つとこれまで謎とされてきた事象が解明されていくにしたがって、人の子は大抵の事象を自分たちで築いてきた科学文明の力で克服するようになっていった。
文明の発達に伴い、人は神に祈りと感謝をささげなくなっていったのだ。
今では、受験前だの採用面接前だというときに神頼みをするだけの便利な存在として認識されている。
このままでは、我々の力は薄れてゆくばかりである。
それを憂えた我々は「神々の今後を憂える会」を発足し、今に至る。
「これが世の流れというなら、流れに身を任せようではないか」
議場に集まった数多くの神々のうちの一人が発言すると、それに同意する声がそこかしこで聞こえてきた。
「もはやこの世は我々の手を離れつつある。ならば、人の子の行く末を黙って見守るのが残された最後の務めではないか」
「いや、近頃の人の子の所業はあまりにも目に余る。ここはひとつ、己の分をわきまえさせるためにも人の子に天罰を与えてはどうか」
静観という方向で場の雰囲気が固まりつつある中で、比較的若い男神が席を立って発言した。
「人の子は自らの力で何でもできると驕りながらも、都合のいい時だけ神頼みなどと心得違いも甚だしい!」
「たしかに、それはその通りだ」
若い男神の力強い主張に、議場の空気が変わり始める。
人に対し罰を与えるべきだという意見と、このまま静観しようという意見が対立し双方譲らずに、徐々に議場の雰囲気が悪くなりつつある中で一人の女神がすっくと立ちあがった。
「双方の申し分は共に聞いたがもっともの事と思う。しかし、このままでは埒があくまい。そこで提案なのだが、折衷案として地上に使者を遣わし、人の子の理解を深めるとともに今後のより良い在り方を模索していくというのはどうであろう」
女神の提案にしばらく議場はしんと静まり返る。
そこかしこで隣の者と話し合う声が聞こえていたが、やがて一人、また一人と賛同の意を示した。
「では、地上に遣わす神の選定に移ろうではないか」
皆の同意を得て、女神は笑顔で周囲を見渡すと次なる議題に移っていった。
「では、これにて此度の会議は終了とする」
しばらくして派遣する神の選定も決定し、集まっていた神々も三々五々散っていった。
処女作となります。色々と至らない点などあるでしょうが温かく見守っていただければ幸いです