ドラゴンナイト 1
お礼をしたいとか、城に留まってほしいとか。
各種お申し込みに困ってたら、ポケットに入れてた携帯電話が震えた。
「キドです。えー、そちらはどーですか?」
「あ、はい。フィーアです。
森は…… レコンキャスタは逃げ帰ってもういないんですが。
その、ドラゴンが出ちゃいました」
なんだろう? ガチャで当たりでも引いたんだろうか。
「ドラゴン! 分かりました、今助けに行きます」
良く分かんなかったけど、ノリノリの返答をしてみる。
効果があったのか、騒がしい室内に静寂が訪れた。
「勇者様…… もしや」
おどろきと羨望の眼差しで僕を見る領主様に。
「こうなっては、僕が行くしかないでしょう」
ハードボイルドに言い放ち……
「だから、安心してください!」
――フィーアさんにそう伝えて、電話を切った。
全員がフリーズしてたから、チャンスなのは間違いない。
よし、逃げよう!
震えるローラさんの腕をとって。
「急ごう!」って、言ったら。なんか覚悟を決めた顔で頷いた。
まだ倒れている葵さんを抱き上げると。
「あん、これ以上ムリよ」
意識が戻ったのは嬉しいけど……
――艶っぽい表情で首に手をまわしてくる仕草がビミョーすぎる。
こんなキャラでしたっけ?
しかたがないから、近付いてきたローラさんに小声で話しかけた。
「葵さんをお願いします。
その、僕じゃ運び出すのに体力が持たないし。
こんな状態じゃ、精神的にも持ちそうにないです。
ああ、それからドラゴンって。やっぱり凄いんですか?」
ローラさんは、そのツリツリの瞳を大きく開き。
「忘れてたわ…… あんたがバカだったってこと」
――とても嫌そうな顔をした。
■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■
森の入り口までくると、元気よくミキさんが手を振っていた。
それに合わせて例の爆乳がブルンブルン揺れてる。
葵さんが移動中に正気? に戻ってくれたのに……
これじゃ、一難去ってまた一難だ。
「誰? あの娘……」
ローラさんが、変な目で僕を見る。
どうも僕の信用がダダ落ちのような気がしてならない。
「前話した、バザールと森でバッタリ会った人だよ」
「あんた、あーゆーのがつくづく好きよね。
魔王とも知り合いだったんでしょ……
それにルビーとも」
アレ的なアレの話でしょうか?
「ローラさんもなかなかじゃないですか。
それに僕は大きさで差別したりしませんよ」
小さいのは小さいので、ちゃんと需要があるし。
「差別? まあ、あんたみたいな術師には、自然とあんなバケモノみたいなオーラを放つヤツが集まるのかもね。
でも、そうかー、あたしも…… なかなかなのか」
満足げに頷くローラさん。
でも、オーラとかそう言う話ですか……
相手がどれだけの実力があるかとか、僕には全く分かんないんですが。
バトル系少年漫画とか、苦手だったし。
まあ乳神様の時も……
ローラさんや葵さんは、なにかに圧倒されるみたいに動けなくなってたけど。
――僕は意外と動けたから。
『覇気』とか『闘気』じゃなくて、単純に魔力量の関係かもしれないな。
魔力や精霊力って、それ同士で反響してるっぽいから。
その辺は今後の事もあるし、ちゃんと伝えとこう。
「すいません。なかなかなのは、オッパイのことです」
僕がそう言ったら…… いきなりグーで殴られました。
――暴力はいけないよ、ローラさん。
「お前らなにをしてるんだ?」
倒れ込んだ僕を楽しそうにのぞき込むミキさん。
あのね、そもそもの原因はその胸なんですが……
■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■
森の中は相変わらずの安心の仕様だ。
サディさんはじめ、多くの美女がずらりと並んで頭を下げていたけど。
やっぱりみんなチッパイだ。
森林浴効果ってやつかな? 心が安らぐ。
「キド様、エメラルダからお話は聞きました。
レコンキャスタから我々を救っていただいただけではなく……
このたびは、また森の災害に駆けつけてくれるなど。
――誠になんとお礼を申し上げてよいやら。
ドラゴンはそうとうお怒りのようで、西の山の一部が既に被害にあっております」
その横で偉そうにふんぞり返ってるミキさんに聞いてみる。
「なんでこんなトコにいるの?」
「うむ。ドラゴンがあらわれたとあっては、見に来ない手はないだろう。
――とても珍しいのだ!」
「竜人って言うぐらいだから、付き合いがあるんじゃないの?」
「種族としては近いらしいが、そもそもの成り立ちが違い過ぎる。
ヤツらドラゴンは生き物というより、概念みたいなもんだからな」
――なんだろう、哲学的な話だろうか?
「あんなデカい体で自在に空を飛ぶし、竜力はほぼ無制限に使いたい放題だ。
種によっては高度な術式もこなすらしいし……
――だいたいどうやって殺せるかもいまだにわかっておらん。
それに、あたしも170年ほど生きておるが、生で見たことはないからな!
地の底深くで眠っとるか、空のはるか上…… 星々の世界におるらしい」
「ソレって、退治とか無理じゃない?」
「無理だな!
そもそもそんな記録など、竜人の長い歴史にも残っとらん!」
「じゃあ、なんで怒ってるのか分かんないけど……
説得するしかないね」
「おお、さすがはキドだな!
ドラゴンと話をするなど、そもそもそんな発想すら浮かばなかったぞ」
「話すことも出来ないの?」
「いや、過去ダークマータと呼ばれた竜人が会話をしたと言い伝えに残っとる。
――キドなら、可能かもしれんな」
退治も無理で、会話もできるかどうか分かんないなんて。
もうそれは、天災かなんかだな。
この世界でドラゴンは、地震とか台風とかと同列の扱いなんだろう。
エメラルダさんやフィーアさんを見ると、とても困った顔をしてた。
まあ、可能性があるんなら試してみるか……
――最悪、逃げる方向性で。
「じゃあ、ちょっと西の山に行ってみます。
道を教えてもらえますか?」
僕の言葉にサディさんが頷き、エメラルダさんとフィーアさんが立ち上がった。
▽ ▽ ▽ フィーア視点 ▽ ▽ ▽
――つくづく不思議なヤツだ。
初めて見たのは、人族同士の戦いの中。
盗賊の女の胸を揉みながら、怪しげな術を使ってた。
もう、印象はサイアクだったけど……
その後森の恵みを取り戻してくれたり、襲い来る魔族を軽くあしらうように撃退したり。
人族の教会では、無償で大ケガの人々を救ったり。
少し見方が変わった。
さっきもドラゴン襲来を伝えたら、悩む間もなく「助けに行く」って言った時は……
ちょっとドキッとしたけど。
山道を歩きだしたら、もうバテバテで。
しかもローラって女のスカートが揺れるたびに、それをのぞこうとしたり。
エメラルダが近寄って汗を拭いたりしたら、だらしなく笑ったり。
……まったくカッコ良くない。
「ねえ、ルビー。あいつと上手くやってる?」
昨夜あの豪華な部屋で、エメラルダとルビーの3人で話したけど。
ルビーが転生者で、あいつのことが好きだって事が……
――いまいちまだ、理解できてない。
それ以上におどろいたのが……
実はエメラルダとルビーがいがみ合ってるのは、「ふり」だったことだ。
両方とも素直じゃないだけで、お互いの実力を認め合ってて。
きっと「仲が良いね」って言ったら怒られるだろうけど。
今もあたしの質問にてれたように笑うルビーを見て……
エメラルダがあの男にちょっかいを出した。
そしてその後、ルビーと2人でそれをネタにじゃれてる。
ぱっと見は、陰湿なケンカにしか見えないけどね。
どこか、命がけでドラゴン討伐に向かう雰囲気じゃないな。
ローラって人族も、ミキって言う竜人も。
――なんだかちょっと楽しそうだ。
あたしもそうだけど、あいつといると緊張感がヌケて。
なんだか「次はどうなるんだろう」ってドキドキ感と。
それでも「あいつがなんとかしちゃうだろう」って安心感に包まれる。
ルビーが惚れたのって、きっとそんなとこなんだろう。
――まあ、あたしの勝手な想像だけどね。
しばらく歩くと、西の山が見渡せる開けた場所に出た。
「あれが…… ドラゴン?」
あいつがそう言ったら、隣にいた竜人の娘がそれに答える。
「おー、始めて見るが…… 間違いない。
あんなモノが、そうそうあるわけも無いしな!」
それはあたしの背丈を10倍にしたよりも大きく、翼を持った異形の物体だ。
あたしの横で、ポカーンと口を開けたルビーが呟やいた……
「ロボじゃん」
――なんだろう? あたしの知らない魔術用語だろうか。




