Dosアタック 1
女の子を2人もお持ち帰りしといて、こんな事言うのもなんだが。
「女性は苦手だ……」
突然泣き出した葵さんと、それを見て僕を非難するローラさん。
店内のお客さん達も僕を冷たい視線で眺めてるし。
――僕に対する攻撃が止まらない。
なんだかそれが、順番に切れ間なく続いてく。
「まるでDosアタックを受けてるみたい」
「なにそれ?」
ローラさんが、現実逃避してる僕にツリツリの瞳で突っ込む。
「連続して攻めて、ダウンを狙う方法」
「ああ、波状攻撃の事ね」
「波状攻撃?」
なんだか聞いたことがあるような? でも具体的にはどんな方法だったっけ。
「押しては引く波のように次から次への攻撃を繰り返して……
相手を疲弊させてスキを突くの。
戦術としては、同時に圧倒する『一斉攻撃』と対になる考え方ね」
「ローラさんは軍にいたんだっけ」
「そうよ…… でも、今はそんな事じゃなくて!」
2人で葵さんを見たらどうやら落ち着いたようで……
運ばれてきた料理をパクパク食べてました。
「ルビー、もう大丈夫?」
「うん」
「じゃあ、とりあえず食事を美味しくいただいて。その後、作戦会議をしよう!」
僕がそう言ったら、葵さんはてれたように笑って……
「うん」
――もう1度頷いた。
いつかシンイチが言ってたな。
「温かい食事と笑顔が心の傷の特効薬だ!」って。
僕はまた会話を始めた美少女2人を眺めながら……
――苦笑いをひとつこぼした。
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食事が終わって、部屋に戻る。
作戦会議は、人に聞かれない場所が良いだろう。
ローラさんはほろ酔いでご機嫌だし、葵さんも満腹でご機嫌な様子だ。
「ねえ、葵さん。
この部屋から会話が漏れないように魔法かける事ってできる?」
リビングの備え付けのソファにドンと腰を落として、ローラさんが脚を組む。
少し酔ってるせいかアクションが大きくて、ちょっと色っぽい。
フレアスカートみたいな鎧から艶めかしい太ももと、その奥の白い下着がチラリと見えた。
「できる」
その横に、僕の視線を遮るように葵さんが腰かけた。
なぜかベストを脱ぎ、胸元のボタンを2つはずして、呪文のようなものを唱える。
大きな胸の谷間に目が行っちゃったら…… 葵さんは、ニヤリと笑った。
「これで大丈夫」
部屋の隅々に淡い文字が浮かんで、吸い込まれて行く。
「――遮断魔法? 外の音も全然聞こえなくなっちゃった。
軍でも同じような魔法を見たけど、こんなに凄くなかったわ」
あっけに取られてるローラさんに、葵さんが……
「今のは精霊術。結界を作るなら、こっちの方が有効だから」
――そう呟いて、脚を組んだ。
ホットパンツから延びる美しい太ももに目が行っちゃったら。
「どう」
と、葵さんが確認してきた。
「素晴らしいです」
前世からそうだったけど、あの躍動感のある太ももは芸術品だと思う。
僕の言葉に、葵さんも嬉しそうな顔をした。
「それで作戦会議って、何をするの?
ルビーとあんたが前世で知り合いだったのは分かったけど。
あたし、いまいち状況が把握できてないのよ」
「順を追って、説明するよ。
先ずは3人での情報共有が必要だから。
けどその前に、これを確認したいんだけど」
僕がポケットから、森でもらった石を出す。
2人がのぞき込むように前かがみになったから…… 2人の胸の谷間がアレでソレです。
「青い魔力石は、赤い精霊石と共鳴する。
たぶんまったく同じ形にカットされた精霊石が存在する」
葵さんが両腕で胸を寄せるような仕草で、グイッと前に出た。
「あーそれ、聞いたことあるわ!
軍の作戦でも、位置確認なんかで使うって。
でもどっちも高価な代物で、数が少ないのよ」
ローラさんも、さらに石をのぞき込むように近付いてきて……
胸元が、アレすぎます。
赤い髪と青い髪の、胸の膨らみ? うん、実に神秘的だ!
なんか良い匂いまで漂って来るし。
「そ、それじゃ……
森から刺客がくるって考えて、まず間違いないね」
胸の圧力? に負けて、距離をとる。
葵さんは、微妙な笑み。ローラさんは不思議そうな顔つきで。
「なんか、この石から情報が発信されてるから」
僕を見詰めてきた。
石の方は…… たぶんGPSみたいなもんだから、逆探知可能だろう。
「で、どうすんの?」ローラさんの質問に。
「葵さん、また魔力を貸してくれない?
ちょっと細工して、それからお客さんを迎えようと思うんだ」
僕が答えると、葵さんはコクリと頷いて。
また、シャツのボタンを外し出した……
「えっ、ルビー何してんの……」
「ここでする? 場所を変える?」
「えーっと、だから…… 胸は揉みません!」
――ちょっと、その。興味はあるんだけどね。
うん。知的好奇心てヤツだよ、もちろん。
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部屋をノックする音と同時に。
「夜分遅く申し訳ありません、昼間お世話になった森人のエメラルダと言います」
知らない女性の声が聞こえてきた。
ドアを開けると、フードを深々とかぶった2人組が佇んでる。
「よくこの場所が分かりましたね」
「はい。失礼とは存じましたが、この石でキド様の居場所を探しました」
背が高い方の女性が、赤い石を取り出して僕に見せる。
「どのようなご用件で?」
「大したお礼もできず、キド様をかえしてしまいましたし。
出来れば、今後も森とお付き合いいただければと思い…… お願いに伺ったのです」
後ろにいるのがフィーアさんだろうか。
キョロキョロと伺うように、フードの隙間から部屋をのぞき込んでいる。
「立ち話もなんですから、お入りください」
リビングに案内すると、2人はフードの付いたコートを脱いだ。
背の高い方の女性は、流れるような腰までの青い髪で……
整った顔と、スラリと伸びた美しい手足が妖艶だった。
――あれが、エメラルダさんか。
「座ってもよろしいですか?」
ソファの前で微笑む姿は、タレ目と相まって……
どこか子供っぽく、美しさの中に可愛らしさも混じってる。
――確かに、葵さんが言う「男好きする容姿」かもしれない。
「ルビーは?」
フィーアさんは相変わらず落ち着かない感じだ。
「奥の部屋にいますよ、呼びましょうか?」
「いえ、今は結構です。さきにお願いを聞いていただければ……」
遮るようなエメラルダさんの言葉に、フィーアさんはムッとしてたけど。
特に何も言わない所を見ると、主導権はエメラルダさんが握ってるようだ。
「申し遅れました。私はエメラルダ・ポルタ―と申します。
今、サディの下で森の神官をしております。
――どうぞお見知りおきを」
神官と言うだけあって、葵さんやフィーアさんみたいな『狩人』ぽい格好じゃなくて。
レースのカーテンみたいな生地を体に巻き付けた……
古代ギリシャの服。 ――キトンだっけ? そんなデザインのモノを着ていた。
「キドです。ご丁寧にありがとう」
対面のソファに僕が座ると、テーブルの下に隠してある青い魔力石が5回点滅した。
――って事は、あと3人か。
続いて、ながい光と短い光の点滅で「トン、ツー、ツー、トン、トン」の連絡が入る。
逆ハッキングを嫌って、モールス信号でいくつかの連絡パターンを決めたけど。
これは、「カコマレタ」だから、のんびりお話はできないな。
僕はテーブルの下の石を拾い上げ。
「これなんですが、そちらの赤い石と」
エメラルダさんが自分の持つ赤い石を確認する。
フィーアさんもそれをのぞき込んだところで、青い石から、ブラクラを改良したウイルスを稼働させた。
これなら一時的な行動停止ですむし、侵入タイプじゃないから……
ワクチンの散布も必要ないし、後遺症の心配もない。
――赤い石がチカチカと点滅を始めると。
「アン」「イヤッ」
なぜか色っぽい吐息をもらして、フィーアさんとエメラルダさんが倒れ込んだ。
「もう大丈夫です」
僕の声に、別の部屋に隠れてたローラさんと葵さんが出てくる。
ソファの上で顔を赤らめ時折ビミョーなケイレンをする2人を見て、ローラさんが……
「あんたの能力って…… なんか、こう。凄いんだけど、ほら」
――言いにくそうにしてると。
「エロい?」
葵さんが、その部分をフォローした。
うーん、なんででしょ? そんなの狙ってないのに。
「その事はおいといて…… と、とにかく! 残りの3人は?」
「同じ」
葵さんが簡潔に答えた。
「へっ?」
「同じ状況で伸びてる」
ローラさんが、眉間の中央に指をよせて。
「なーんか、このパターンは見覚えがあるような……」
とりあえず部屋を出て、3人で部屋を囲んでいたと思われる賊を回収した。
全員が同じ形の赤い石を持ってたし、似たような戦闘服を着ていたし。
「賊であってるよね」
不安になってローラさんに聞くと。
「これは魔人の突撃部隊が好んで使う装備よ。それにこの徽章は……
――レコンキャスタね」
胸元には、痩せたカエルの絵が刻まれたバッジが付いてる。
「むいて縛っとく?」
葵さんのビミョーなセリフに……
「ねえ、魔人も女性ばかりってわけじゃないよね」
一応確認してみる。
「それは違う。だったらあたしは生まれないから。
たぶん、こいつらは『森人』の交渉役。
森人は男が森に入るのを嫌うから」
恍惚の表情で、気を失ってる美少女『魔人』3人を見て。
なんだかドンドンと……
僕の周りの美少女人口密度が上がってくことに、不安がつのる。
もしやこれは、美少女Dosアタック? だったらすぐに……
――フリーズする自信がありますが。




