表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法ハッカー  作者: 木野二九
成りすまされた衝撃_Spoofing attack
14/34

フットプリンティング

▽ ▽ ▽ 葵 視点 ▽ ▽ ▽



森での16年間が大変だったって聞かれたら「まーそれなり?」って、答えるだろう。


TVもインターネットも無いこの世界じゃ娯楽ぽいモノが存在しないし。

この森には『男』が存在しないから…… 刺激が存在しないのと一緒だ。


せいぜいアタシをいじめに来るエメラルダ達を返り討ちにしたり、追い込んだりするのが娯楽と言えば娯楽だったけど。

前世で女子高生スクールカーストを生き抜いてきた海千山千のアタシからすれば、エメラルダ達はチョロすぎて…… その楽しみも最近目減りしてきたかなー。


もしこれがアタシに対する罰なら、あまりにも軽すぎる。

だからー、木戸山君が森に現れた時「コレだっ」て、思った。


『いじめられたふりで、体にアザっぽいモノを出す魔法』

を使うのは久しぶりだったから。ちょっと緊張したけど。

――アタシの胸元に目が釘付けの木戸山君の視線は、久々で嬉しかった。


この賭けには絶対勝とうと…… 燃える闘志? が、顔に出ないようにするのも。

けっこー、必死だった。


だって、これはアタシの罪滅ぼしのチャンスなんだから。



▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽



なんとか賭けに勝って木戸山君について行ったら、もう既に女がいた。

あのミキとか言う竜人の女も気になったけど……


ローラとか言うこの女も要注意かなー。ちょっと木戸山君を見る目がビミョーだ。


お互い手探りで、見た目和やかに会話を交わす。

こんな時、無口キャラを装えるようになったのは武器かも知れない。


そっちに神経をまわしてたら……

「ねえ、葵さんも何かたのむ?」って、突然木戸山君が話しかけてきた。


「うん」


コクリと頷いた後に……

――あっ、やっちゃった! と、気付いたときにはもう遅い。


木戸山君は、「あーやっぱり」みたいな顔で、メニュー表をわたしてきた。


そうだった、すっかり忘れてたわー。木戸山君は、そーゆうヤツだったわ。

ここにきて10年以上たっちゃったから、忘れかけてた。


学内1の変人、キモ男…… ドラキュラ高校生とか、イケメン・ゾンビなんてニックネームもあったわね。


表情が豊かじゃなくって、ひょろりとして青白い顔。

――おまけに整い過ぎた顔立ち。


それが良いって、遠目から騒いでる女子もいたけど、実際近付かれると……

ちょっと背筋が寒くなるって言うか、神秘的過ぎてて、人間に思えないとこは確かにあったからね。


おまけに本人は隠してるみたいだったけど、田舎の普通科高校に『なんでこいつが?』って言うぐらい頭が良かった。


たぶん普通の人間の学力が理解できてなかったんだろう。

難しい問題を楽々解いちゃったり、簡単な問題をわざと間違えたり。


まあそれも初めのうちだけで、だんだん「普通」ぽくなってきたけどね。


噂では中学まで国の特別な学校に行ってたけど……

『ある契約』をして、その見返りに本人の希望でこの高校に来たとか。

天才養成学校にいたけど、なんらかの理由で退学になって、ここに移り住んできたとか。


まー、先生に聞いても笑って否定されるから、ホントかどうか分かんないけどね。



そんな変人に、コナかけはじめたの、同じクラスの舘山寺だったかなー。


目立つ女子グループの筆頭が、毎日必死になってアピってた。

何気に話しかけたり、わざとぶつかったり。


けど全然相手にされてないのよねー。


舘山寺のグループ自体がアタシにちょっかい出すことがあったし、ちょっと木戸山をからかうのも面白いかもって、半分当て付けで、話しかけたのが運のつきだったかなー。


――まずなびかない!


お願いは聞いてくれるし、勉強なんか聞いても、的確な意見はくれる。でもそれまで。

ちょっと誘っても、ジロジロいやらしい目で見るだけで……

2人っきりになったりしたら、とっとと帰っちゃう。


こっちの計算はコトゴトク読まれてる。

でもーなぜか、それも込みで。普通に付き合ってくれる。


そして自分のことは、ほっといても…… アタシがなにか何かで成功すると。

――自分のことのように凄く嬉しそうに笑う。


そして、その時の笑顔。

もうねー、さすがに困ったわー、ホント……


だって今まで最高だって思ってたイケメンどもが、ぜーんぶクズに見えて来たんだから。


木戸山君の、ろう人形みたいな顔を見るたびに思ったもん。

ないわーコレ、そして、ないだろーアタシって。


でも恋に落ちた自分を認めるのに、それほど時間なんて…… 必要なかったかなー。


彼氏全部ふって本腰入れ始めたころ、SNSに変なメッセージが届くようになった。

初めは木戸山君の陰のファンクラブの連中だろーって、思って、無視してたけど。


まあー、バレバレって言えば、バレバレだったから。覚悟はしてたしねー。

そんな攻撃が来ることも。

でも、だんだんそのメッセージが無視できなくなってきた頃……


舘山寺から呼び出しがかかった。

ここはかわすか、戦うか? 相手の出方次第かなーって。

臨戦態勢で実験室に入って……


木戸山君が飛び込んできたときには、あせったわ。

爆発音よりアタシをかばうように抱きしめたことに、ホント、あせったわ。



▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽



「聞こえますか、聞こえますか?」


透き通るよーな女の声が耳に優しく入り込んできた。

目を開くと、そこは前の彼氏につれてかれた、ヨーロッパの教会の中みたいだった。


「ここは?」

目の前には、どう見ても十代後半と思える金髪碧眼の女。


「ここは精神と時空の狭間です」


無言のプレッシャーで、語りかけて来てた。

その女の圧倒的な存在感が、あーアタシ死んだんだなって。


「木戸山君は?」

「一緒にいた男性ですか?

彼は既にこの狭間を超えて、新たな<はじまり>を迎えました」


夢だといいな、そー思ったけど、この女の圧力は半端ない。

今にも、もう一度、死んでしまいそーだ。


「本来あなたは罪を償うため、次回は畜生として生を受けるはずでした」


女が淡々と語る。アタシ、やっぱり地獄に落ちるのかなー。


「あなたには、ここに至るほどの力などありませんが、ある約束により、チャンスを与える事となりました。なにか希望はありますか?」


断罪するような、その女の言葉に、「もう一度、木戸山君に会いたい」って、呟いたことは覚えてる。




その後、見知らぬ世界で魔人と森人のハーフとして生を受け、あの日本の記憶も、精神と時空の狭間で会ったいけ好かない女のことも、淡い記憶として忘れかけていたのに。

今更またサッソウと現れて、ヒーローみたいに森から連れ出すなんて。


「葵さん、元気そうで良かった」


――だから、その笑顔が反則なんだって。

アタシもうこんな姿だし…… それに、取り返しのつかない事したんだから。


「僕はまだここに来たばかりでさ、いろいろ教えてもらえると嬉しい」


その償い? で、ばれないように木戸山君のサポートができれば、それで良かったのに。


「なんで分かったの?」

姿形も、口調も違うのに。


「癖かな? ウソつくとき、葵さんは必ず目が泳ぐんだ。まあ、他にもいろいろ」

「相変わらずなんでも知ってるのね」

「そんな事ないよ、分かってる事の方が少ない」


口調が、だんだん前世に戻ってく。

「じゃあ、木戸山君を殺したのがアタシだってことは?」


少し悩むようなそぶりの後…… また、あの笑顔で。


「直接的な原因はそうだったかもしれないけど…… ハメられたんでしょ。

フットプリンティングかな、誰かが何かを探ってたんじゃない?

根本的な原因は別にありそうだし。 ――葵さんは悪くないよ。

考え方を変えたら、今の状況が僕の責任だと言えなくもないしね。

だからまあ、ここはお互いさまで水に流さない? で、前向きに対処方法を考えよう」


のほほんと、そんなこと言うから……

――ああ、この感じ。


ボケてるんだか冴えてるんだか分かんなくて。わけわかんない用語とか織り交ぜながらしゃべるし。

でも、なんだか温かいこの感じ。

やっぱりアタシはこの人が好きだって。再認識して。



木戸山君も、ローラって女もあたふたしたけど。


――涙が溢れ出て、どうしてもどうしても、止まらなくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ